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ほしのまなつ
2024-12-29 00:19:51
4195文字
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:一郎×3世短編
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🥞🎩3️⃣/よいこ、わるいこ、あくまの子
わかってない3世と、
わかっちゃってる3世と
一郎くんのはなし
「あ、こら! 帽子はちゃんとかぶって!」
「???」
「つのは隠すもんなの! ほらパパだってニット帽かぶってるだろ」
「おそろい?」
「そーそーおそろい。だからちゃんと
……
パパなんで笑ってんの」
ぽすん。
手のかかるもう一人が、慣れていないニット帽を無造作にかぶる。
それじゃあ前が見えにくいだろうと直してやっていると、くすぐったくなるような視線がふたりに注がれていた。
ちなみに今日に限ったことではない。
「え? いやぁ、だってさ
……
」
出掛ける準備をしている二人を交互に眺めては、見ているこっちが恥ずかしいくらいに目元がゆるんでいる。
淡いピンクのざっくりしたニット帽が、ぴょこんと跳ねている白銀の髪に映えて、たしかに可愛らしい。
さすがにもうメフィストは、パパとおそろいなのを喜ぶような歳ではない。
この子がうちにきて一番この状況を楽しんでいるのはパパだと思う。ぜったいに。
「我が家の玄関で、かわいいが渋滞してる
……
」
「???」
「
……
おれたちが、すごーく可愛いんだってさ」
「いや、だって! ただでさえかわいいのに、それが二つも並んでるんだよ??」
「それ何度め? ほら、行くよ」
ふたりまとめて召喚してもらってもいいのだけれど、この物質界では異物らしいこの子にどんな不具合がでるか分からない。
危険な要素がある以上、避けた方がいいだろう。
「パパ、いってきます」
「き、ます!」
ここに来たばかりのときよりも随分と話せるようになってきた。
さいしょ話していた言語は魔界語で、パパや一郎とはそちらで意思の疎通を行っていた。
さすがに不自由なので言語変換の魔力が付与されているのものの、スラスラと話せるわけではない。
しばらくここにいるのならコチラに合わせなくてはだめだ、と。そうパパや一郎に諭され、少しずつ勉強しているらしい。
メフィストがいうのもなんだが、人懐っこいくせに物質界の知識がやけに偏っている。
『
……
おれのあくまくんは、そんなことゆわなかった』
そう、ぽつんと呟いた子にあの一郎が『きみの主、ずいぶんと過保護だったんだな』と遠い目になるぐらい。
「あ! ちょっと買わないといけないものあるから、研究所はそのあと」
「かいもの?」
「ホットケーキの材料。すぐなくなっちゃうんだよ」
「あくまくんに、つくる?」
「おまえは作んなかった?」
「つくる。おれ、じょうずだって」
どこか得意げな顔で『ココアも、できる』などと口にする子は、確かにちょっとかわいい。
あの魔界での姿を思わせる容貌をしているが、いまの3世とサイズ感はほぼ変わらないので、すっかり弟分ができた気持ちだ。
拙い語彙のせいだけじゃない。おどろくほど人慣れしていないのだ。
年下のように接してしまうのは仕方ないだろう。
最初に保護したときのぼろぼろの状態を目にしているので、余計に。
じぶんのことを『メフィスト』だと言い張る悪魔がここにきて、もう一か月だ。
ふわふわのニット帽にかくれている額のツノ。その付け根からの出血がいちばん酷かった。
魔力を酷使したのは明白だ。羽根は引きちぎられた跡があり、酷いありさまだった。
幸い羽根の軸が残っているので再生は可能なようだが、飛べるようになるまで時間がかかりそうだ。
この物質界にいる分には、その方が都合が良いのだけれど。
「ココアは作れるのに、紅茶には興味ないんだな」
「?? あくまくん、のまない」
「いまパパ、ケーキ焼いてるから紅茶があったら喜ぶと思うけど」
「っ!!」
わかりやすく黒い瞳がぱちりとまたたく。
あまり詳しくは聞かなかったが、パパやママとはいっしょに暮らしてないらしい。
最初のころなんて、
『呼ぶとき困っちゃうから「チビちゃん」でいいかな?』
などと聞いてきたパパを、まんまるの目でじっと見上げて固まってしまっていた。
いまでもちょっと遠慮がちなのだけれど、パパはそこも含めて可愛がっている。
「
……
紅茶いれるの、おれと練習してみる?」
「!! みる!」
ブンブン頷くものだから、せっかくのニット帽がズレてしまう。
ほんとうは隠さなくちゃいけないツノがあっても、危ういほど素直な悪魔は確かにかわいかった。
ケーキに合う紅茶を教えてあげたら、きっとパパは喜ぶだろう。
この時期は毎年、ケーキは買わない。ママと3世のために何を作るのか考えるのも楽しいのだと笑っていた。
それに今年はこのちいさなもうひとりのメフィストも、いっしょだ。
・
・
・
その異変が伝えられたのは、十一月のはじめだった。
――
古都、鎌倉。
さまざまな伝承をもつ地で、異様な濃度の瘴気が報告された。
廃れた神社の一角には、『妖面』と呼ばれる鬼のお面が奉納されており、当初はその封印がゆるんだのでは? と思われていた。
千年王国研究所に舞いこんだ久々の大掛かりな依頼だ。
調査のため、鎌倉には数日滞在する予定だった。
――
だがそれは、すぐにやってきた。
濁った水面のような鈍色の空から現われた、赤黒い「ヒビ」
切れめ、と言った方が分かりやすいかもしれない。
ずるっ、っと。
むせかえるような瘴気だった。
そこから現われたちいさな物体が、地面にたたきつけられるように落ちてくる。
いっしゅんのことだった。
視界いっぱいにひるがえった唐草のマントと、音もなく出現した正装の父の姿に、事態が尋常でないことをメフィストは遅れて悟る。
伯父と父で瞬時につくられた高濃度の結界のなかで、『それ』はピクリとも動かなかった。
おどろくべきは、その容貌だ。
ぼろぼろだったが、見覚えのある姿をした『それ』にメフィストよりも一郎の方が動揺していた。
父や伯父の見解では、他の異なる時空から無理やり飛ばされてきたのだろう、と。
たぶんこの悪魔の主が、この子を守ろうとした最後の手段だ。
捻じ曲げられた時空は、正しい位置に戻さなくてはならない。それがこの世界の『道理』だ。
伯父さんは『
……
異空間への干渉
……
なにと契約したんだ
……
? いや、呪術としてじぶんのモノに? 違うな
……
この手の術式は生来の能力値に由来するからこの場合は』
などと爛々とした目で分析をはじめてしまい、『真吾くん!』と父にたしなめられていた。
とにかく無害なこと。
あちらの世界の『悪魔くん』が呼び戻す準備ができれば還るだろう、という見解だけはふたりの間で一致し、いまに至る。
埋れ木家のメフィストのベッドで目を覚ました悪魔は、しずかにそれを聞いていた。
メフィストよりもずっと悪魔らしい姿をした、もうひとりのメフィスト。
帰りたがって暴れるんじゃないかと思っていた小さな悪魔は、拍子抜けするほど素直にじぶんの『悪魔くん』を待っている。
『あくまくんとやくそく、した』
だからだいじょうぶなのだと。
ぽつんと呟く姿はさみしそうだったが、まっすぐな瞳はゆらがなかった。
メフィストにはすぐに懐いたが、2世にはいまだに気後れしてしまうようで、着るものや食べるものをあれこれとお世話されては、黒いひとみをぱちぱちと瞬かせている。
そんなに可愛がってたら、帰っちゃうときさみしくならない? ってパパにはついつい聞いてしまったが、
『それはこの子を可愛がらない理由にならないよ』と、ならんだ二人を眺めながら目を細められてしまうのだ
「3せい、こうちゃ、こんどおしえて」
「今度?」
「やくそく!」
じぶんことを『メフィスト』と呼ぶのは、悪魔くんだけ。
それはこの悪魔もいっしょで、メフィストのことは『3世』と呼んでいる。
にこにこと、教えたばかりの指切りげんまんをねだってくるけれど、
「パパ、ケーキ焼いてまってるからさ。研究所ついたらいっしょに練習して、今日さっそく一緒に
――
」
「?? きょう、3せいかえらないよ」
言い終わる前に即答され、思わずまじまじと弟分の顔を見てしまう。
どういうことなんだ。言っていることがちっとも通じない。
それはこの悪魔も思っているようで、購入したホットケーキの粉が入った買い物袋が、ふたりのあいだでゆれている。
「おれが? なんで?」
「?? きょうは、あくまくんといっしょひ」
ちがう? って。
ほんとうに不思議そうに、細い首がかたむく。
――
きょうは大切な日だから、いっしょのひ。
――
ふたりいっしょじゃないとダメなひ。
「ちがう?」
そう息継ぎもせずに言うのだ。
え、と固まったメフィストに納得がいかないのか、ぎゅっと黒い瞳が尖る。
「
……
帰らない? 大切な日?」
「うん」
このときようやくメフィストは、自分の勘違いに気づく。
そう、気づいてしまった。
この悪魔とこの子の『あくまくん』の関係は、自分たちと同じものだとすっかり思いこんでいた。
「くりすますは、あくまくんと朝までえっちするひ」
こしょ
……
っと。
そこだけは小さな声になった悪魔の顔は真剣だ。
まぎれもなく本音だ。
「
……
し、」
「し?」
「しないから!!!!」
「!!??」
「うちの悪魔くんは、しません!」
念を押すように『よそはよそ! ウチはうち!』と研究所へ向かう寒空のしたで高らかに宣言するものの、
「”やだ”っていうとあくまくん途中でやめちゃうから、がんばる日」
――
などと生々しい性交事情まで弟分に告白され、メフィストは追い打ちをかけられてしまう。
「しない?」
「しない!」
「
……
なにがだ?」
「悪魔くん!」
「いちろ!!」
よく似たふたつの声が、つめたい空気をふるわせる。
用事があったのか何なのか、研究所でまっているはずの一郎にうしろから声をかけられ、びくっと肩が跳ねてしまった。
耳があつい。言われなくてもわかる。一郎の目がどうした? って聞いている。
「いちろう、しないの?」
「だから何を
――
」
「悪魔くん! みみ、塞いで!! いいから早く!!」
そう。
これはもうひとりの小さな『誘惑の悪魔』にふりまわされまくったあげく、
聖夜が『帰らない日』になってしまう、序章なのだ。
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(分かってないメフィストと分かっているメフィスト、そして手を出す機会をずっと算段していた男のはなし)
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