ほしのまなつ
2024-12-06 04:26:56
2063文字
Public :その他
 

メフィ親子/ひとりでできるかな?

パパと、ちっちゃい3世





「えっ」

……どうした3世? ちゃんと見てないとダメだろ」
「う、うん」

こくりと素直にうなづけば、シルクハットのしたでいつもの笑顔がのぞいた。
見てなさい、と。
もう一度告げられたとたん、その笑みはいっさい無くなってしまったけれど。

「え、」
「??? 3世?」

どうした?
難しいことじゃないだろ?

――むずかしいことじゃない。

くちの中でパパの言葉をくりかえす。

「あのね、ぱぱ」
「んー?」

ずっとうえにある顔が、メフィストの言葉をひろうために近づいてくる。
にこにこしているが、ピカピカだった黒い革靴の先はひどいありさまだった。
こんなのは魔力ですぐに治してしまえるのだけれど――

「ぱぱ、」

思ったことは言葉にしてつたえないとダメだ。
にんげんでも、あくまでもいっしょ。

だからメフィストは、けんめいに顔をあげて、
パパ――メフィスト2世に疑問をぶつけることにした。

「おれは半分あくまだけど、半分あくまだから、にんげんより力があるんだよね?」
「そうだねぇ」
……えっと……だとしたら、これ、だいじょぶ?」
「もちろん!」

おずおずと見上げる3世を覗きこんでくる大人は、ゆるりと細めた目できっぱり断言する。
3世は、ますます戸惑ってしまった。

――パパの足元をぐずぐずに汚している、くろいかたまり。

仮想の練習相手にと、パパがじぶんの魔力で用意した泥人形”だった”ものだ。
本日行われているパパとの修業は、
『へんなにんげんにあったら、こうしようね!』講座だ。
魔力を発動させるのに時間がかかってしまう3世に、
父であるメフィスト2世は『かんたんにできる力のつかい方(物理)』を教えている真っ最中なのだ。

『こういうのは瞬発力が大事』
『容赦はするな』
『隙をみせるな』
『つぶすつもりでいけ』

『ケンカって、いうのはねぇ』

――どしゃ!

『強い奴が、勝つわけじゃない』

――ぐちゃぁぁぁ

『容赦をしない方が、勝つんだ。いいね?』

――ぱ、しゃん……

ひとつひとつ忠告しながら、ダンスでも踊るように泥の塊を蹴りあげていく。
するどいつま先が、ウゴウゴと迫る泥人形の脚のあいだを、いっさいの容赦なく。

……でも、ぱぱ」

これほんとうに、にんげんにしてもいいのだろうか?
3世の疑問は無理もない。
ふむ……と、顎をひと撫でしながら、ステッキをぎゅううっと握りしめる愛息子をしげしげと眺める。

ひとよりもチカラが強いぶん、今のようにわずかな躊躇が滲む。
特にこの子は半分人間だから、余計に。
愛すべきその部分につけいる悪い大人は、いくらでもいるのだ。
……まいったなぁ)
にんげんのことが大好きなあやうい悪魔の子は、
「ぱぱ?」などと、まるっこいあたまを傾けてこちらをじっと見上げてくるのだ。
透きとおるようなひとみをゆらしながら、まっすぐに。

これは、だめだ。
かわいい。

「そうだなぁ……3世にはちょっと早いと思ったんだけど、大事なことだから話しておくね?」
「だいじ?」
――そう、とっても大事なことだ」
「とってもだいじ」

きゅっと引き結ばれた生真面目なくちびるが、やっぱりかわいい。

(さすが、エッちゃんとおれの子)
……素直に、育ちすぎちゃったなぁ)

親の贔屓目抜きに、これはたまらないだろうなぁと思う。
その手の人間にとったらこれが、どんなに美味しそうに映るのか。
想像だけで、はらわたが煮えくり返る。

――赤ちゃんのつくりかたは、教えたばかりだったね?」
ぶわっとまろい頬が色づき、こくんっと頷く子どもに少々早い性教育をしたのにはワケがあった。
熟れた果実のようなちいさな悪魔の子に、それは必要な教育だった。

「実はここからが一番重要なんだ、3世。赤ちゃんは、女の子じゃなくてもできる」
「えっ」
「厳密にいうと高位の悪魔は両性具有だから――
……りょう、せ???」
「うーん、そうだなぁ」

――つまり、3世がえっちなことされちゃうと、
赤ちゃんができちゃうんだよ。

「おれ、が?」
「うん」

まあ~~~~、よ~っぽど執着を持たれて、
ほんと~~~~~に、えっぐいほど執拗に、
この小さなおしりにグポグポ中出しされまくって、
からだも心もぐずぐずにされない限りは、孕む可能性はほぼないんだけど。

……あかちゃん、できたらこまる」
「そうだねぇ」

ぽつんっと呟くかわいい息子に、そこまでは伝えない。
だってこんなにかわいいのだ。しっかりと警戒してもらわねばならない。

「それじゃあ、またお手本から――
「うん!」

ようやくやる気を出してくれた愛息子に、重心のかけ方や、間合いの取り方をサクサクと教え込む。
――結局のところ、優秀すぎるこのセコムが発動しまくった結果、
ちいさな悪魔の子が危険にさらされることはなかった。

数年後――
まさかの執着の男があらわれるまでは、だ。