ほしのまなつ
2024-12-06 04:18:55
3780文字
Public :一郎×3世短編
 

🥞🎩3️⃣/真夜中のざんげ大会

一郎くん、懺悔する

※未読でも読めますが、コチラの後日談です。
【R-18】あげくの果てのラプンツェル https://privatter.me/page/679e2d8277d4d





「さあ、メフィスト。言ってくれ――
……あのなぁ」

時刻は、真夜中零時すぎ。
パジャマすがたのまま呼び出されたのは、よくあることだ。

目が座っている一郎の顔をまじまじとみれば、目許のうすい皮ふに、色の濃いクマが滲んでる。
ここ最近、伯父の真吾から借りてきた文献を休みなく読みこんでいたのは知っていた。
まさか、朝からずっと、ずーーっとここに、こもっていたのだろうか。

(しっぱいした……

帰るまえに殴ってでも、寝床にぶち込んでおくべきだった。
昼にホットケーキを食べさせ、そればかりじゃダメだとコーンスープを突っ込んだ。
たぶんそれ以外くちにしてない。だって空のお菓子の袋すらない。

一郎の寝床は、三日前にふとんを干してやったばかりだ。
干したてのふわふわには負けるが、身体をやすめるのには充分だろう。
くたくたになった毛布をたぐりよせ、なんとか寝る体勢に持ち込んでやる。

「メフィスト、」

残念ながらじぶんを呼ぶ一郎の目は、すっかり覚醒している。寝そうにない。まったく。
知識をぱんぱんに詰め込んだ脳には休息が必要だろうに、興奮してしまって手がつけられないのだろう。

「わかったから」
「よし。今日こそ、僕に教えてくれ」

――これより、
第十三回よるの懺悔大会を行う。

「あー……ウン」

栄養不足のせいなのか、使いすぎた頭脳が悲鳴をあげているのか。
体調不良にこころが引っぱられているのか――その、ぜんぶなのか。

一郎はたまにすごく、ばかになってしまう。

IQのことではない。イキモノとしてだ。
春先にあった新月のよる、メフィストは一郎とそういう関係になってしまった。
これは不可抗力で、どちらかというと『身体を使わせてもらった』という表現が正しい。
メフィストの魔力を安定させるための手段で……一郎はそれを手伝ってくれたのだ。

ちゃんと悪魔くんとえっちできたことにメフィストは安心していたのだが、一郎はそうじゃなかった。

新月から三日ほどしてからだ。
一郎にしてはめずらしく手土産などを持って、埋れ木家に顔をみせにきた。
なんと事前に連絡までよこして、だ。めずらしいどころじゃない、初めてだ。
手提げ袋の中は、母の好物のおまんじゅうだった。
うちでいちばん気を配るべき人物を、しっかり把握したセレクトだ。

『わるいわねぇ』などと、早速おまんじゅうの箱を開けてニコニコしているエツ子。
『みんなで食べないかい? お茶をいれるね』と席を立とうとする父。
その父を引き留める一郎。すいぶんと神妙な面持ちに、何があったのか気になった。

すぅ……っと。

息をすう一郎が緊張していることに気づいて、
『あくまくん?』などと手を握ってしまったのはしょうがない。
パパの顔が『ん?』となったのも、目には入っていた。
『あくまくん、どうした?』って聞いてしまったのも、仕方ない。
だって手が冷たい。様子もおかしかった。

そうして見上げてくるメフィストの手を一郎は掴んだまま、
――僕は、ひとに話を伝えるのが不得手だ。だから回りくどいことはすべて省略させてもらう』
やたら早口に告げ、ほんとうに一気に話しはじめたのだ。


「抱きました。責任は取ります」


「えっ」

びっくりした。
ほんとうに、びっくりした。
いまでもびっくりしてる。

パパは『はぁーーーーーー??????』と叫んだまま固まってるし、
ママはおまんじゅうをみんなに振り分けながら『あら、あら』なんて笑ってる。

ちがう。不可抗力だ。
だってそうしないとダメだったから!
パパきいて、ステッキ持たないで。

声がうわずる。
両親にむかってひっしに説明するのに。

「僕になら何されてもいいって、君がいった」

ちがうのか?
メフィスト――

そう、こっちはこっちで抗えない目で見てくるから、台無しだ。
視界のはしっこで、パパが頭からつま先までガッチリ正装になっている。
『そうか。洗いざらい、説明してくれるかい?』などと言っている目が笑ってない。
素振りのようにぶんぶんステッキを振らないでほしい。

大変だった。
ほんとうに、大変だった。

――……という騒動を乗り越え、悪魔くんとおつきあい……というものが始まってしまったのだ。
そして面倒なことに、悪魔くんはあんなプロポーズ? をしてきておいて、
メフィストが承諾したことに納得がいってない。いまだに。どうしてだ。
それはこうした体調不良だったり、あたまがゆるくなってしまった時に、悪い方向に出てきてしまう。

――どうして、ぼくなんだ?』
『きみ、趣味が悪いと思わないか?』
『十年後の僕をみただろ? なんて面倒な大人だ』
『そいとげる相手にするものじゃない』

だからメフィスト、
ぼくのダメなところ全て
ぼくに言ってくれ。

……ウン」

そうして今夜、第十三回目の懺悔大会がとうとう決行されてしまった。





――あくまくんさ、ほんとは眠くてしょうがないだろ」
「ああ、正直きみの顔をみたら落ちついてしまった。でも聞きたい」
……あーほら、こっち。さいごまで今日はつきあうからさ」

ぐらぐらとゆれる、まるい頭に手招きをして、あたたかな場所へ誘導してやる。
本まみれの寝床のなかに座り込み、誘ったのはメフィストのひざの上だ。
自分で言うのもなんだがあたたかいし。一郎はメフィストの顔をみたがるし。

「なるほど、合理的な体勢だな」
「そーそー、ゴウリテキ」

おとなしくメフィストの膝にあたまを預け、じ……っとこちらを見上げてくる。
聞き分け良さは、疲労の現れだ。

「メフィスト、話をしてくれ。今夜こそ成功させたい。だいたい君は、第一回めは『うるさい』
第二回めは『だまれ』第三回めは『ねろ、ばか』第四回めは――……

「いいかげんにしろ! ――だろ?」
「そうだ。おかげで改善点をみいだせない」
……あのさぁ、逆にあくまくんに聞いていい?」
「いいぞ」
「ふはっ、即答だ。真面目だなぁ、あくまくん」
「君こそいつも真面目だ。好きだ」
…………と、ありがと、じゃあ聞くけど――

あくまくんは、
どこがダメだっておもうの?

……たくさんある」
「いいよ。ぜんぶ聞く」

メフィストへあずけた視線が、すこしも外れない。
不器用なひっしさが、どうしようもなく可愛かった。

「まず、空気を読まない発言をするところだ。依頼人をよく怒らせる」
「タイミングの問題だろ。それに悪魔くん、うそは言わない。怒るのは後ろめたいからだ」
――きみのことも、怒らせた」
「うん、おれは言いかえした。だからおあいこ!」

あとは? って顔をのぞきこんで、目でうながしてやる。
じっとメフィストの顔に注がれる視線はそのまま。
ぱちぱちとまたたく、うすい瞼がやっぱりかわいい。

――生活能力が、まったくない。きみがいなければ、僕は三日で倒れるだろう」
「おれがいるからクリアだな。家事に関しては悪魔くん、おれの紅茶の棚に触らない約束ちゃんと守ってるし、
おれのつくったもの絶対に残さないだろ? だからここもクリア」

……そう、なのか?」
「おれがいいって言ってる」
「そうか……あと――

うう、と小さくうめきながら、まだ続けようとする。
生真面目はどっちだ。

「あくまくん、」
……なんだ、メフィスト」

まぶたが、今にもくっつきそうになってるクセに。
メフィストのために、懸命にことばを重ねて反省会なんか開こうとするのだ。

「あくまくんはさ、いちばん大事なこと忘れてる」
「???」

――思いつかないの? って。

「なん、だ?」

一万年にひとりの天才の鼻を、ぎゅっと摘まんでやる。
こんなことができる悪魔も人間も、この世でメフィストぐらいなんじゃないだろうか。
ゆるゆると瞬くまぶたは、すぐにでも閉じてしまいそうだった。
きょんと見上げてくる角度は、いつもなら見られない。
わずかに体温が高くなってる。これはかなり眠いだろうに。

「あくまくん、」
「???」

ふやふやとゆるむ唇をぎゅっと引き結んで、
くちの端に、ちゅって、くちづけてやる。

表情のとぼしいと言われる顔はそのままだったが、耳のふちがみるみると可愛いいろになった。
淡いいろの血の気のないくちびるが、うっすら開いたまま固まっている。

――深夜にばかになっちゃうくらい、おれのことすきなとこ! 百点!」

これでオールクリア、百点満点だ。
懺悔会は解散!

ぽかん、と見上げる天才にそう告げて、もういちどくちびるをくっつける。
悪魔のひざのうえで、あかい耳がじわっと熱をおびた。

――……メフィスト。元気になってしまった』などと不埒な回答をして、
『寝ろ!』って今度こそぽこん!っと殴られてしまうまで……メフィストは百点満点の男を甘やかしたのだった。





(ハッピ~すぎエンド!)