ほしのまなつ
2024-12-06 04:14:26
3019文字
Public :一郎×3世短編
 

🥞🎩3️⃣/ねこも杓子も!

一郎くん、相談する。

(※3世くんは出てきません)





――ちょっといいか」

「へ? あ、あっし?」
「そうだ。扉に向かって話をしているはずがないだろう。……おまえに、聞いて欲しい話がある」
「いやいやいや……それ本当にあっしで????」

あってますぅ? という言葉をこうもり猫は、んぐっと飲み込んだ。
目が座ってる。このメシア、本気である。

「メフィストのことなんだが……
「あ、ハイでやんす」

――逆にそれ以外のことがあるんだろうか。

とりあえず真吾に頼まれていた封筒を、ここ千年王国研究所の主である現悪魔くん……一郎に手渡す。
『夜叉の鏡』と呼ばれる呪われた魔具による事件に、一郎と3世が巻き込まれたのは、先月だ。
ぶじ解決したものの、魔障にめずらしい反応があったらしく、調査を真吾に依頼していたのだ。
ずっしりした重みのある封筒の中身は、その調査結果だろう。
書斎にこもる真吾の顔は、今となってはめったに見られない、好奇心旺盛な小学生だったころを思い出させた。

――そう。悪魔や魔術関係のことならば、とっくに義父である真吾に聞いているはずだ。
それにしたって……

「百目にはもう聴いてもらえない」
「へ?」

「この手の相談事に関して、百目は十二使徒の中でもっとも適役だろう?
最初のうちは『それは悪魔くんが悪いんだモン!』だの『メフィスト3世もいじっぱりだモン』だの
真剣に相談に乗ってくれていたし、『帰らないでいるうちに、帰り道ってどんどん遠くなっちゃうんだモン』と諭された時は耳を疑った」

見てくれは子どものままだが、百目はああ見えてなかなか達観したところがある。
百目一族さいごのひとりは、何が大切なのかを知っているのだ。
個人と個人の感情のもつれに関しては真吾では専門外だし、2世に至ってはステッキを素振りするシルエットがくっきりと浮かぶ。
おなじみの悪魔との痴話げんかなら相談相手は百目、一択だろう。

「だから今回も真っ先に相談した。メフィストが口をきいてくれなくなって、時間にして七十二時間だ」
「三日でやんすね」
「ああ……結論から言うと、最終的に百目から『――で?』と締めくくられた。あいつ、あの語尾がなくても会話ができるんだな」
「ひぇっ」

あ、声にでちゃった。
何を淡々と語ってるんだ、このひと。
一郎よりも付き合いが長いじぶんですら聞いたことがないセリフだし、
じぶんがあの百目のそんなこと言われたらぜったいに立ち直れない。千年は引き籠る。

「もお~~なぁにやってんでやんす、二人とも!」

魔界育ちの捨て子のメシアと、名門家の半悪魔が出会ってもう十年だ。
おそらくの原因は、目の前にある。
ピクシーたちに処置してもらったであろう右腕の、三日めにしていまだ巻かれたままの白い包帯。

――おれの悪魔くんをまもれずして、何が『メフィスト』だ! のメフィスト3世。
――すきな子ひとりまもれなくて、何が『メシア』だ? の一郎。

お互い少しも譲らないまま十年。
きっとこれからも変わらない光景なのだろう。ずっと。

……これは……きっかけに過ぎない」
「??」

包帯に注がれたこうもり猫の視線に気づいた一郎が、ふいっと顔をそらす。
めずらしい。
言いよどむのは、一郎なりに百目の一言が効いているのか――

――……かわいいんだ、すごく」

「は?」
「おまえも、いつものだろ? と思っただろ?」

固まっているこうもり猫に構うことなく、恐ろしいほどよどみなく薄い唇が動く。

「ああ、その通りだ。出会ったばかりのよく分かっていない頃だって、あの感情は『かわいい』だった。
恋に気づいてからは明確に『かわいいな』と思っていた。十年間、少しも変わっていない。
あの日も同じだ。ぼくたちは議論をしていた。メフィストの言い分を理解できないものの、耳を傾けていた……はずだった」
「あ、ハイ」

一郎は、すぅ……っと一呼吸置くと、座った目で机の木目をなぞっている。
もちろんそこにココアは置かれていない。

……なんだかよく分からないが……、すごく……かわいかった……

かつて一郎が、この一万年にひとりの天才が……こんなやわやわなセリフを吐いたことがあるだろうか?
あ、そういえばあっし用事があったでやんす~! と見え見えの嘘でもいいから立ち去りたい。
そんなこうもり猫の遠い目を察してか、ココアもホットケーキも乗っていない机上に、ス……っと豆大福が置かれる。
あ~~~~ここのめちゃめちゃ美味しいやつでやんすぅ~~~。

「泣きながら説教されることは今までもあった。こう、でっかい目をぎゅっとつりあげて、
ほっぺをまっかにして、ゆるさねぇからな! ってにらんでくるんだぞ、あの悪魔。
――おかげで上手く返答できなかった。嘘はつきたくない。だから、いま議論しても意味がないと、言ってしまった……

君がかわいくて、それどころじゃない――の部分は省略したんだろうな、このひと。
っと出されたペットボトルの緑茶を見つめながら、こうもり猫の目も座っていく。
得意の相づちすら打たなくなった義父の第十二使徒に、一郎はなおも、ス……っと追加の大福を寄こしてくる。

「昔はここで手がでていた。ひとのことを殴っておいて、あとで腫れた顔を殴った本人が冷やすんだ。
じぶんの方が痛そうな顔をして……わけが分からない。でもそこが好きだ」

うわぁ~~~。
こんなにも上品なお味がくちいっぱいに広がる逸品なのに、三つめには手が出ない。
のこりは持って帰れとばかりに手渡されたが、つまり最後まで聞けと?

――はぁ……つまり、3世ぼっちゃんがかわいくって内容が全くあたまに入ってこず、
余計に怒らせたあげく、対処方法が分からないまま三日が経ってしまった……、と」

「違う。内容は頭に入っていた。だが可愛すぎた」

「もおおおおお~~~ぼっちゃんに通じてないなら変わらないでやんすよぉ」

「僕だって努力はした。依頼人が帰ったあとすぐドアを閉めて改めて弁明しようと腕をひいたら、ぴ! っと逃げるんだぞ、子猫かなんかなのか?」

「ん?」

「最終手段で魔方陣で呼び出して、さいごまでちゃんと話をしたいから膝の上にのっけたら『やだ』って手でくちを塞がれた。
あんまりかわいかったから手のひらにチュウしてやったら、移動魔法を使われて逃げられたんだぞ? こんなのは初めてだ」

「んん?」

十年目にしてなにをやってるんだろう、このメシアと悪魔。
じぶんは曲がりなりにも、かの埋れ木真吾の使徒である。
ちょ~~っと豆大福で買収される、お手軽めの。

……あっしも、ひと言いいでやんすか?」

色彩が抜けおちた髪色をした捨て子の、ホットケーキをまえにした時だけうっすら色づく頬だとか、
名ばかりの『メフィスト』に何ができると嘲笑われた半悪魔の、前だけをむく、ぴんっと張りつめた小さな背中だとか、
さんざん、さんざん目にしてきてしまった。

この子たちがしあわせにならない物語があってなるものか。
そう思うくらいには……ずっと見てきたのだ。

――でも。
でも、今回の物語はさすがに、

「ネコも食わないやつでやんすよぉおおおおお!!!」





……十年後。千年王国の入りぐちは、ここにある)