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ほしのまなつ
2024-11-13 04:28:31
3979文字
Public
:ドルパロ
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🥞🎩3️⃣/危なっかしいロマンス
コンビニ店員に、おれはなる
・
・
・
※『副業:アイドル』やってるふたりのお話し
※モブ店員視点
・
・
・
(最悪だ
……
――
)
午前0時をすぎるまで、あとわずか。
週末の日付が変わってしまうギリギリのこの時間が、ほぼ固定となっているオレのシフトだ。
大学に入ってダメもとで告白した子が、オレにはいた。
こくんっとかわいらしく頷いてくれた奇跡は、わずか三ヶ月で崩れ落ちる。
初めてのカノジョというものに、なんでもしてあげたくて、よろこんで欲しくて
――
冬休みをまえに割の良い深夜のコンビニバイトを入れまくった。
――
おやすみ、楽しみだねって。
好きな子があんなに可愛くわらってくれたら、そりゃあ頑張るだろう。
近くにやたら飲み屋が多く、気の大きくなったデカい声の酔っ払い相手に嫌な思いもたくさんしてきた。
かわいい顔がみたかった。
オレだって冬休み、楽しみにしてたんだ
――
。
まさか『さみしいの、ダメなの』なんて理由でさよならされるなんて思わなかったし、理由を話してもダメだった。
今ならわかる。
オレたちは
……
オレは、圧倒的にカノジョに対して言葉を尽くすことを怠っていたのだ。
そう。
オレはこの日、ボロボロだった。
タバコを買いにきたオジサンには『番号でお願いします』と何度も言ったのに、
『だからぁ、いつものヤツっつってんだろーが! 使えねぇなぁ
……
っ』
そんなに? ってくらいキレ散らかされてしまったり、
売り場の菓子パンをオモチャのように突っついてる子どもに注意したら、
『ああ。それ、買いますから』
などとしかめっ面した母親らしき人に千円札を投げつけられたり。
そんな精神的に厄介な客が重なったあげく、ストックではチーフが誤発注したコーヒーの缶が山積みになっていた。
急遽はじまったこの缶コーヒーキャンペーンのせいで、喉は限界だ。ほんとうに最悪だ。
ひきつる痛みに顔をしかめていた、そのときだ。
(こど、も
……
?)
入店を知らせる音とともに目に飛び込んだのは、黒いキャップを目深にかぶった小柄な男の子だ。
オーバーサイズ気味の白いパーカーからのぞく指も、ハーフパンツからまっすぐにのびる細い足も、どう多く見積もっても中学生ぐらいだろう。
(ワケあり
……
じゃ、なさそうか)
お菓子の棚を物色しているが、商品の扱いが丁寧だ。
悩んだらしい数個をそおっと手にとって、少し考えてひとつだけ元の場所に几帳面に戻していく。
何よりも、あとわずかで今日が終わる時間に一人で出歩くには、すさんだ空気をまとっていない。
塾帰りにしては荷物が少ないし、そもそも親が同伴するだろう。
「あ! エコバッグあります! レシートはください」
「
……
ありがとうございます」
見た目よりも落ち着いた声が、零時を迎えた店内に響く。
正直ほんの一時間まえまで途切れることのなかったレジのせいで、声を出すのもやっとだった。
だが、これは本当に心から出た『ありがとう』だ。
小さなことかもしれないが、こうしたことを先に言ってもらえると地味に助かるのだ。
(やっぱり塾帰り、か?)
バーコードを通したのはチョコバーと、紅茶のペットボトル。紅茶は買うのをかなり悩んでいたから、こだわりがあるのかもしれない。
それからふと、レジの横にあったフルーツの飴が買い足される。
こういうの、つい手が出ちゃうよなぁ
……
などとぼんやりとしていたら、すっと伸びてきた指に自然と目を奪われていた。
「
――
これ。おれのオススメなんです」
「!!??」
おにいさん、
声、つらそうですね、って。
トントンとじぶんの喉を指す、しろい指。
その場で開けられた袋の中から、ころんっと手渡しされたのは桃色の飴玉だ。
上を向いた拍子に、キャップからおおきな瞳が少し見えてしまってる。
そうして、ぺこっとちいさく頭をゆらすと、その子は固まっているオレに構わず去っていってしまったのだ。
「
……
っえ、ええ????」
手のひらに収まった飴玉をまじまじと見つめてしまう。
――
桃の香りがする小悪魔キャンディ。
チーフが熱心に設置していた、レジ横の期間限定コーナーだ。
どっかのアイドルがコラボしているやつで、やたらでっかいシルクハットをかぶった子が限定パッケージの中で眩しい笑顔をさらしている。
ミレニアムキングダム所属、メフィストフェレス3世くん。
「
……
実物のほうが、百億倍かわいい
……
な?????」
これがオレと、
このアイドルとの出会いだった。
・
・
・
あとから知ったのだが、いま深夜に放送中のドラマの撮影がこの近くで行われているらしく、
3世くんは撮影の合間に買い出しに来てくれたらしい。
初めてこのコンビニで出会った日のことを、
まるで昨日のことのように、思い出す。
ミレキンのことなど数か月前はまったく知らなかったオレだが、いまでは3世くんの朝の情報番組とともに起き、就寝前に公式動画の再生数に貢献して眠る生活を送っている。
あれから何度か3世くんは来店してくれたが、それは決まって深夜だった。
アイドルだからこその人のいない時間だが、こんなにかわいいのに出歩いて大丈夫なのだろうか
……
国民として不安が拭えない。
ファンとしても大人としても心配な一方で、オレは店員としての自我を保ちつつ、シルクハットオフの3世くんの姿を目に焼き付けていた。
黒いキャップは定番だったが、ビビットな黄色のパーカーや、キレイめな薄い水色のシャツ、3世くんはその時々で、夜間シフトの疲れたオレの目を癒してくれた。
あの日、とんでもない量の缶コーヒーを誤発注したチーフだが、このコラボキャンディを入荷したことだけは、ほんとうにいい仕事をしたと思う。
今ではオレも、いつも同じカゴに入っているあのチョコバーは、この子の相棒でシンメの埋れ木一郎くん用だということを知るぐらいには、ミレキンというグループに詳しくなっていた。
それでも、ドラマの撮影が終わるまでのわずかな間だけだ。
ただのコンビニ店員による、密やかで一方的な物語は幕を閉じる
……
はずだった。
――
その日、
事件はやってきた。
「
――
……
いらっしゃいま、せ?」
びっくりした。
いつものようにレジにやってきた3世くんだが、おなじみの黒いキャップの下から見え隠れするまるっこい瞳がすこし赤い。
いつもと違うモノが這入り込んでいたカゴの中身にも驚いていたが、それよりも推しが。推しの目が赤い。
目尻もわずかに赤らんでしまっている。
思わず固まっているオレに気づいた3世くんは、ぱちっと瞬きをして
……
目を伏せてしまう。
「
……
えっと
……
実はおれ、この辺でやってるドラマに出演していて」
「はぁ」
「撮影中のシーンで、ちょっとしんどい場面があって
……
でもOKもらって、もう帰るとこなんです」
「はぁ」
知ってる。
そのドラマの原作を読みこんでしまったオレは、知っているのだ。
物語はいままさに佳境で、原作通りの展開ならば、3世くんの相棒の一郎くんが怪我をするシーンがやってくる。
動揺するのもムリはない。
――
だが事件は、それだけではない。
「メフィスト
……
っ!」
店内に、入店音とともにかすれた声が響いた。
3世くんのことをこう呼ぶのは一人しかいない。
「あくまくん?」
埋れ木、一郎だ
……
!
動画やドラマで知っている声よりもずっと人間味があると思ったのは、声に焦りが滲んでいたからか。
思ったよりも背が高く、実物の方が画面越しよりも百億倍は顔が整っている。
眉は不機嫌に寄せられていたし、そんな相棒をぽかんと見上げる3世くんを見て、ますます険しくなっていたが。
(だ、だいじょうぶ? か)
3世くんがぽこぽこと一郎くんを叱る場面は名物になっているが、一郎くんがこの子を怒る場面を見たことがない。
どうしたのだろう。そしてただのコンビニ店員であるオレが見ていいんだろうか、このコンテンツを。
「
――
今日は、ひとりで行くなと言ったはずだ」
「でも悪魔くん寝てたから」
「僕が、きみに、そう言った!」
「それは
……
悪かったよ。でももう買ってくからさ」
待ってて、って。
ね? と細い首が傾いたところで、一郎くんがぐっと押し黙る。
オレはハラハラしつつもなんとか店員の業務をこなすべく、バーコードを手にした。
――
のだが。
3世くんの細い肩越しから、ぬ
……
っと骨ばった腕が這い出てくる。
そうしてカゴから
……
オレの中でもうひとつ大事件だったモノを、ぐっと掴んでいったのだ。
「これは僕が買う」
「えっ」
「ふたりで必要なモノだろ?」
ぼくに買わせろ、って。
先ほどよりも眉間に深いシワを刻んだ一郎くんが、3世くんのカゴから問題のモノを奪ってしまう。
薄さを追求した、0.03mmのオトナのエチケット。
ひと箱に六個入りのソレを、長い指が器用に奪い去っていく。
あまりにスムーズだったので、オレも『あ、はい』とスムーズにお会計をすませてしまった。
ぅぅ、と小さくうめく3世くんのまるいほっぺが、可哀想なくらい赤くなってしまってる。
――
これはぼくが、かう。
――
ふたりでひつようなもの。
(???!!!!)
ここまできてやっと、
オレはすべてを理解したのだ。
「っご、ご来店、おめでとうございました!!」
あ、ちがう。
いや? 違わないな?
コンビニ店員としては間違えたセリフだ。
けれどオレが放った祝福は、
かわいい悪魔の子のほっぺを、ぶわぁっとますます可愛い色に染め、
それを直にくらってしまった相棒の耳まで、おんなじ色に染めてしまったのだった。
・
・
・
(たぶん概念では、すでに結婚してるふたりのはなし)
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