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ほしのまなつ
2024-10-13 21:25:17
5816文字
Public
:一郎×3世短編
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🥞🎩3️⃣/ふたりじめ、はじめました
一郎くん、とてもとてもがんばる
※12話後if
・
・
・
「
……
???」
夜を、抱いていた。
たとえようもないぬくもりに、じわっと意識が浮上していく。
ゆさゆさと一郎をゆらす遠慮のない手に、からだの力が抜けていく。
あたたかい。ちいさい。
――
ああ、陽向の匂いだ。
ロフトに持ち込んだ毛布からは、干されたばかりの太陽の匂いと、馴染んだ甘い匂いがした。
「
――
……
今日は、来客はないはずだ」
「!!!」
昨晩は随分と遅かった。むしろ今朝と言っていいくらい。
あどけない寝顔を見届けたあと、ようやく目を閉じたのまでは覚えている。
「っ!
――
ッ!」
そんなことは知っているとばかりに、さっきよりも乱暴な手つきで肩を揺さぶられる。
ほんの少し前までは、おそるおそるといった具合だったのに。
それでは起きないということをすぐに学習したらしく、細っこい腕には遠慮がなかった。
一郎の腕のなかにいたはずの子は、見覚えのある白いシャツに着がえてしまっていた。
でれば手伝いたかった。気づくことなく寝入ってしまっていたらしい。残念だ。
「
……
、分かった
……
起きる。起きるから
――
」
ばっと毛布をめくられて、次の瞬間、背中にぴと
…
っとあたたかいものがくっついてくる。
押し当てられたところから聞こえる、ちいさな鼓動。
一郎の意識が、一気に覚醒する。
「メフィスト、」
――
ぐるり。
仕返しとばかりに勢いよく身体を反転させれば、まるいおでこがすぐ目の下。
いつもならギリギリまで粘る一郎が、素直に起きたことにびっくりしたようで、まるい瞳がぱちぱちと瞬きしている。
「よく、眠れたみたいだな」
人のことは言えないが、顔色がずいぶん良くなった。
真っ暗だとよく眠れないことに気づき、アンティークのランプを購入したのは正解だったようだ。
オレンジのやわらかなひかりが灯るランプを、メフィストも気に入ってくれた。
「さっき、起きたのか?」
応えるように引き剥がしそこねた毛布の中で、白いまぶたがゆっくりと持ち上がる。
うっすらと色づくそれは、ちいさな花びらのようだ。
薄暗いロフトのなかで、光をあつめたみたいに大きな双眸がまっすぐに一郎を見上げている。
以前のまま、すこしも変わらない。
メフィストは、ずっとかわいいままだ。
「
……
っ!」
ちゅっと小さな音をたてて、唇の下で、ふるりとまぶたの薄い皮膚がふるえる。
そこに唇を寄せてしまったのは、誓って言うが無意識だった。
――
やましいことはひとつもないのかと問い詰められれば、嘘になるが。
「
……
まて、まて、メフィスト! すぐに起きる」
きゅう、っと首に回された、自分よりも細っこい腕。
容赦のない力で締め上げられればさすがに苦しい。許可のない突然の口づけは、怒られたって仕方ない。
息をつよく吸いこめば、同じはずのせっけんの香りに、この子のかすかな匂いが交ざっている。
「たしか、君のパパが持ってきたおかずがまだ冷蔵庫にあったな」
「
……
ん、」
ちょん、ちょん、と首のうしろを二回つっつかれる。
悪戯のようにふれてくる仕草は『ごはんにしよ?』の合図だ。
慎重に確認しながら、こくりと頷く形の良いあたまを撫でる。
うれしそうに細められる双眸にほっとするが、これがスキンシップに含まれてしまうことは少し複雑だ。
「きょうは雨、大丈夫みたいだな」
予報ではきょうも朝からふると言っていたが、空気がまだかさついている。
夏の終わりとともに、嵐ばかりにみまわれてしまっていた。
雨漏りだらけの千年王国研究所を、ふたりして駆けずり回ったのは記憶に新しい。
おかげで雨漏りポイント数か所を押さえ、しばらくは何があってもしのげそうだ。
「買い出しするのものは、あるか?」
雨が降る日は、その前兆のようにメフィストは深い眠りに入ってしまう。
相性が悪いのではなくて、良すぎるのだ。
それは一郎が自分の悪魔の眠りの番をするようになって、知ったことだった。
腕の中で、無防備な寝顔をさらすゆるんだ身体は、本音を言うと非常に目に毒だ。
こういった時の忍耐力を、一郎はさんざん身に着けていたはずだった。
まえよりもタガが外れやすくなっている自覚はある。
「
……
メフィスト、笑いすぎた」
伸ばしてしまいそうになる腕をどうにか押さえて、今度こそ毛布から這い出てやる。
寝癖が酷いらしい一郎を指差してけらけらと笑う子に、スネた声を絞り出せばますます笑われてしまった。
子どもっぽい従兄弟の顔をするのだって、随分と慣れた。本音も交ざっているから余計にだと思う。
この子をこの部屋に引っぱりこむようになってからつけた、クセみたいなものだ。
一郎がほんの少し力を込めたら、すぐに捕まえることだってできる。それ以上のことだって、簡単に。
――
だからそれは、してはいけないことだった。
「包帯、とれかけてるな」
「っ」
右手をそっと掴んで、寝る前よりもやや不格好になっている包帯の上を撫でる。
小さく跳ねた肩には、気づかないふりをした。
「
……
痛みは?」
ふるふると首をふるのを、慎重に目で追う。嘘はついていないようだ。
一郎の悪魔は、じぶんのことになると我慢強くなってしまう。
「ごはんのまえに、こっちだ」
なるべく丁寧にゆるく巻かれた包帯をといていく。
先週あったヴァチカンからの依頼は随分と粗雑で、現場の祓魔師とうまく連携がとれていなかった。
あれならいない方が、ずっとマシだ。
にんげんを庇ったメフィストの右手
――
小指と薬指は、手袋ごとちぎれかけていた。
一郎が苦情を呈するよりもずっと早く、こんな仕事の投げかたをされては困ると、この子の父親が乗り出すくらいに。
「思ったより、早く治りそうだな
……
」
赤黒かった傷跡は、白い線がいっぽん走る程度まで治ってた。
もう包帯はいらないかもしれない。取ってしまうとすぐムチャをするので、まだ取らないけれど。
負傷中でも動き回ろうとする子に、珍しく一郎の方がこんこんと説教をしたのは一週間前だ。
この子がいないと生活が回らない自覚はある。
だが、怪我が長引けは元も子もない。
ふたりして譲れなくて、ふたりして顔を突き合わせた結果、一郎がお手伝いをする。なるべく。
……
という結果になったのだ。
ちなみにどこから漏れたのかそれを聞きつけた真吾は顔を伏せたまま震えていたし、埋れ木家では赤飯が炊かれたらしい。それほどか。
「君の身体は商売道具なんだから、気をつけさせてくれ」
そう、憎まれ口のようなものを叩けば、メフィストはでっかい目をぱちりと瞬かせて、はじけるように笑ってくれた。
心配したり怒ったりは、きっとこの子の周りにいる人たちが散々している。
だから一郎は、こんな時でさえ素直な言葉が出てこない、仕方ない『悪魔くん』のままでいいのだ。
* * *
メフィストをここに連れ込むようになって半年になる。
もうこれ同棲みたいなもんでやんすねぇ
……
と、
義父の第十二使徒に遠い目をされたが、本音は閉じ込めていたいくらいだ。
メフィストが目を覚まして、やっと半年。
一郎は、
自分のあくまを二度殺している。
一度目は魔界で。メフィストの約束の通り暴走を止めるため。
二度目はここで。心臓を奪われた一郎に、命を捧げさせた。
『魔女の肉体は、高濃度の魔力の結晶体である』
『魔力とは生物がもつ、命の輝きだ』
何度も、何度も言われてきたことだ。
それは魔女の血をつよく継いでいるメフィストの、さいごの切り札だった。
メフィストは
――
メフィストは、あのとき
己の命を燃やして生み出した最後の魔力を、一郎に譲渡した。
やわらかくて、あたたかくて、ちいさな一郎のあくま。
うごかなくなった自分の悪魔の、石のようなつめたさを一生わすれないだろう。
ホットケーキ、ココア、
あたたかな紅茶に、
一郎がいまだに飲めないコーヒー。
ちいさな手から作られるものが、一郎はすきだった。
それをぜんぶ捧げさせた。
あのきれいな魂を石にしたのは、一郎だ。
二度目の喪失直後のことを、一郎はよく覚えていない。
実験中だった時間魔法でなんとか肉体をつなぎとめ、あらゆる文献を漁り、義父にもすがりついた。
無我夢中だった。利用できるものは、なんだって利用した。
ヴァチカンから脅し取るように『運命の石』を奪えたのは、奇跡だった。
『ファリアスの運命の石』
上級悪魔と同等の魔力を秘めた結晶は、この地上であの石しかない。
あちらとしても、この地上からメシアの血族と上級悪魔の間の子どもをうしなうのは痛手のはずだ。
――
それでもうまくいく確率の方が、少なかった。
音のしない薄い胸のうえを、ささくれた指で辿っては何度もなんども懇願した。
だいじなぼくのあくまだ。
ぼくの、だいじな子だ。
悪魔くんは
……
メシアは、神に手を組むことはゆるされない。たとえ、出来損ないでも。
それでも奇跡にすがった。
だってこんなのは、間違ってる。
一郎がなにかを言うたび、ぽこぽこ怒ったり、しょうがないなぁって笑ったり。
まるっこい目から、惜しげもなく涙をこぼしたり。
ぜんぶ理解できたわけじゃない。
それでも、その光景はとても清らかで
……
やさしかった。
あの子は、
つめたい物体に成り果てるために生まれたんじゃない。
――
……
とく、とく、と。
石を埋め込まれたメフィストの心臓が、ふただびふるえた日のことを一郎は鮮明に覚えている。
ぴたりと胸に耳をつけたまま、ぼろぼろ、ぼろぼろ、とめどなく水滴が目の奥からあふれた。
メフィスト、と呼びたいのに。
息を吐くのも、吸うのも一郎は上手にできず、なんども喉のおくで声がつまった。
にじむ視界のなかで、薄いまぶたがゆっくりと持ち上がって、一郎を映しこむ。
そうして、ぼろぼろの一郎を目にしたおおきな瞳がまたたいて、
ぴくりとも動かなかったちいさな手が、一郎のあたまをやわく撫でたのだ。
メフィストだ。
メフィストが、もどってきた。
ひぐっと、塩っからい涙をのみこむ。
一郎はずいぶんと酷い顔をしていたんだろう、メフィストがくしゃりと笑った。
(ああ、)
(ああ
――
)
声もなく、息を吸い込む。
いちろうの大事な子が目の前でわらっている。
とり戻せた。
メフィストの音をききたいのに、じぶんの胸の音がうるさい。
背中も額も、汗をびっしょりかいている。
間に合った。とりもどせた。
『メフィ、
……
っメフィスト』
すこし困ったかおで。ひっついたままの一郎のあたまを撫でながら、メフィストがわらってる。
このとき一郎は、それだけで頭がいっぱいで気づくことができなかった。
なにが一万年にひとりの天才だ。
メフィストは、
こえをうしなっていた。
・
・
・
巻き直した包帯をたどたどしくたどる指を、思わずまじまじと見つめそうになる。
「こんなもん、か?」
「
……
、
……
と
……
ぉ」
くちびるで懸命に音を零しながら『ありがとう』と告げた子が、白い頬をかわいい色にしながら、ゆるゆると笑う。
もともと表情がゆたかだった悪魔の子は、声が出ないぶん、よく笑うようになった。
――
完全に声を失ったわけではないらしい。
声帯的には問題がないというから、メフィストの心臓と石の相性だろう。
仕事上、不便がないといったら嘘になるが、ふたりの生活はうまくいっていた。
治癒力も人間と変わらない程度に落ちているので、いまのように負傷中はなるべく一緒にすごしている。
二度目の喪失を経て、この子への”欲”が重さを増している自覚はあった。
傷を治すにはちょうどいいのだけれど。
「
……
ちゅう、しとくか?」
「っ!
――
ッ!
――
ッ!」
包帯をたどる白い指をみながら確認すると、ぶんぶん首をふったりする。
こうなってしまうとメフィストは頑固だ。
一郎の体液は、この子にとったら高濃度の栄養剤みたいなものだ。
治りが悪いのだから、口づけぐらいいくらでもするのに。
(まあ、ほぼ塞がってるか
――
)
なんなら負傷してすぐ、その晩は抱きつぶした。
もちろん、入念に、やさしく、だ。
ほそい喉のおくで、ぅーぅーと、ちいさな悲鳴をこぼす子は、負傷した手を一郎にまわせなくて、すこし泣いてしまっていた。
ていねいに肌をたどればたどるほど、メフィストは泣いてしまう。
だけど、たいせつにしたかった。
ゆっくり、ゆっくり
……
時間をかけて
とろとろになったアソコにじわじわ挿入すると、
メフィストは、ひぐっと泣きじゃくりながら
ぎゅうぎゅう抱きついてくるのだ。
『ぁ
……
ぅ、
……
ぅ、』
あくまくん、あくまくん、って。
汗ばむまるいおでこだとか、
熟れてまっかになったほっぺだとか、
白いのどからちいさくこぼれる、鳴き声だとか。
一郎の欲をきゅうきゅう締め付けてくる、
せまくてちいさなアソコだとか
――
ぜんぶかわいい。
ぜんぶ、すきだ。
かわいい悪魔の子を腕の中にとじ込め、欲を注ぎこみながら暴走しかけたことは、実はある。なんども。
それでもこの時はまだ、一郎は庇護欲の方が勝っていた。
ぬれた目元にくちづけ、怪我をはやくなおそうと、メフィストに言い聞かせながら
……
それは自分への戒めでもあった。
真夜中、腕の中でたしかに聞こえる鼓動と、おとずれた寝息を確認するのはもう日課だ。
(今度こそ
――
)
(今度こそ、ぼくは
……
上手に)
一郎に取りかえてもらった包帯を指先でたどりながら、
そっと瞼をふせる子を、大事にしたい。
「
――
朝ごはん、というかもう昼だな」
今日はぼくがホットケーキをつくろう。
ぼそりと呟けば、メフィストがちいさく笑う。
それ、あくまくんが食べたいものじゃん! って。
声がなくても分かる。
――
やさしい、やわらかな時間だ。
昼下がりになったしまったロフトで。
このあと一郎は毛布を片付けようとして、
乾いた目許にかわいい悪魔からチュウをくらうという反撃をされるのだが、
かろうじて理性を繋ぎとめたのだった。
・
・
・
(※ぼくのメフィストをだいじ、だいじしたい一郎くんの半同棲奮戦記)
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