ほしのまなつ
2024-09-29 23:06:22
2500文字
Public :一郎×3世短編
 

🥞🎩3️⃣/ももいろの頃

桃の香りがするあくま

※桃娘(タオニャン)3世くんと、従兄弟の一郎くん。





「メフィスト……?」
…………

なつかしい、夢を見ていた。
出会ったばかりの、まだなにも知らなかった頃だ。
一郎の髪は長くて、身長だってじぶんとあんまり変わらなかった。
外を知らないメフィストに、息継ぎするのも忘れるぐらい、たくさん、たくさん話をしてくれた。
ホットケーキを焼いたら夢中で頬張る、まるくふくらんだほっぺが可愛くて、だいすきで――

そう。たしかに一郎は、
メフィストの大切な従兄弟で、ともだちだった。

出会った頃からずっと。ずっと。
これからだって、そうなのだと思っていた。

――供物、献上物、慰みもの、)

外の仕事をするようになって、メフィストははじめて自分がそう呼ばれるイキモノなのだと知った。
口にすることが唯一ゆるされた淡い色の果実も。
成人するまで一歩も祖父の屋敷から出されなかったことも。なにも疑問に思わなかった。
本来ならば傷のひとつもつけぬよう、魔界はおろか物質界に降りることもない。
純粋な魔女の血をもつ祖母の頼みでなければ、つま先すら踏むことはなかった場所だ。

『百年ぶりに誕生した聖騎士に加護を――

その式典は、祓魔師のお膝元であるヴァチカンで行われた。
上級悪魔の父と、先のメシアの妹である母。
半分にんげんの血を持つメフィストにしか、あれはできない仕事だった。
まっとうな悪魔は侵入できず、まっとうな人間では瘴気が濃すぎる。
仕方のない人選だったのだ。あれは。

――そこでメフィストは、
じぶんがどんなイキモノなのかを、知った。

――アレが、ご自慢の献上物……? ガキじゃねぇか』
『いやいや、近寄ってみろよ、子どもみてぇなツラして、すげーいい匂いすんの』
『もうちょっとしたらタダのオナホだろ、アレ。もったいねぇなぁ』
『ばーか、メシアさま専用の大事な大事な性処理人形だぞ、何かあったらおれら全員首が飛ぶ』

なにを。
なにを言われているのか、さいしょメフィストは分からなかった。

物陰からじわりとまとわりつく視線がきもちわるい。
白いマントに、白い軍服。
金糸の刺繍が施された隊服は、聖騎士に連なるものたちだ。
アレ、と呼ばれているのが自分だと気づいて、目の前がまっしろになった。

――3せいくん。どうか……、)
(どうか、この子となかよくして)
(なぐさめてやってくれないか)

嫌だ。気づきたくなんてなかった。
世間知らずだが、メフィストは愚かではない。
幼いころの記憶、やわらかな声で呼ばれたなまえ、
やさしいお願い。

すべてが、最悪な結末に重なっていく。





「メフィスト、ぼくだ」
「っ」

どのくらい寝ていたのか、今いったい何日目なのか。
薄暗い室内でただただ眠っていたメフィストには見当もつかない。
聖騎士の任命式で暴れた神獣を、ぶじに還したのだけは覚えている。
厳密に言えば、あれは神獣ではない。それ用に契約させた眷属を、見せかけただけだ。
むやみに大量の聖水をぶちまけられ、地を這いつくばる偽りの『神獣』がかわいそうで、早く魔界へ戻してやりたかった。
からだの節々が悲鳴をあげる。額が、焼けつくようにあつい。

気づけばじぶんの魔力量を大幅にオーバーし、
父のマントがひるがえるのを目の端にとらえていた。

そこからの記憶がない。

まだ、夢を見ているのかと思った。
ちがう。夢じゃない。
もう、この男は小さな従兄弟じゃない。
ふれてくる手の大きさに、くびをふるりと振る。

……あくま、くん」

ようやく出た声は、自分でもびっくりするくらい心もとない。
言葉にしたらこわれそうで、それでも止めることができなかった。

――あくまくん。

いちろうは、
メフィストの『悪魔くん』なのだ。

「聞いたのか?」

一郎の声がすこしだけ緊張している。
ちがう。聞いたんじゃない。
誰もそんなことはメフィストに教えてくれなかった。

「あくまくん、おれのことまってたの?」

ずっと。
めがさめるの待ってたの? って。

じっと一郎をみあげると、
分かりやすく骨ばった喉が、ぐっと鳴った。

いつからこんな目で見られていたんだろう。
いつから、ただの従兄弟じゃなかったんだろう。
瞼があつい。なかよし、の意味をメフィストはずっと間違えていたのだ。
ヒントはこんなにたくさん、目のまえにあったのに。

「おれと、するの?」
――……

えっちなこと、
したかったの? て。

答えは口にしてもらえなかった。
ぐっと肩をつかむ強い腕にかんたんに捕らわれてしまう。
メフィストのベッドのうえなのに、閉じこめるのは一郎なのだ。
なまえを呼ぼうとして、のどの奥がヒクつく。今だに自分がショックを受けていることに驚いた。

「メフィスト、メフィスト……っ」
「ぅ、ん、ぅ」
かさついた手のひらに撫でまわされて、からだの奥がじぃんと甘くふるえた。
骨ばったゆびに、すきにされたまま。薄い腹のしたをなんども、なんども辿られる。
ここに、欲望をねじ込みたいのだ。胸がくるしい。
一郎のあからさまな欲望に、おなかの奥がきゅうっと疼く。
「ぁ、ぅ」
いたずらに尖った乳首をつままれて、仔猫のような鳴き声がこぼれた。
ちくび、こりこりしないで、って。
ひっしにお願いしても『かわいい』って。弄る手が荒くなるだけ。
骨ばった指に、恥ずかしい場所を暴かれていくたび、じぶんがなにであるかを思い知る。

……ももの、匂いだ……

――ぼくだけのにおいだ、って。

かすれた声が耳にふれる。息があつい。
そのまま耳のうしろを、ぢゅっと吸われ、まぶたがじわりと熱く潤んだ。
なのに、どこをさわられてもヒクヒクと嬉しそうに反応してしまう。

メフィストのかわいい従兄弟はもういない。







慰みものだって気づいちゃった3せいくんと、
そんなん吹っ飛ばして大事な『ぼくのメフィスト』を
じぶんのモノにしたいだけの一郎くんのはなし。