※『バスルームのあくま』のふたり
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※潜入捜査に至る冒頭部分
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「やっぱりその格好、悪魔くんに似合ってる」
「
……動きにくい」
「いつもがラフすぎるからなぁ
……、絶対に、こういう格好しないだろ? 伯父さんにも見せてあげたい」
「それだけはやめろ」
不機嫌さを隠さないセリフだったが、いつもの一郎だ。
眉間にぎゅっとシワが寄ってしまている。
けれど硬質な空気は、もうない。
「雨が降らないうちに、僕らも戻るぞ」
「うん」
きょう泊まる旅館、検索してみたら一見さんお断りのすごいところだった。ご飯もだけどお風呂も楽しみだな
……って。
メフィストもなるべくいつものように話しかける。ぽつぽつと降り始めた雨に、一郎はなにも言わなかった。
――風が、吹いている。
梅雨入りまえの平野を吹き抜ける、しめった冷たい風だ。
大気が黄昏の青みを帯びはじめている。先ほどまでその風に混ざるように祝詞を唱える声があった。冷ややかな鈍色の空はどこかさびしく、樹木のざわめきのせいで、せっかくの祝詞は風に散り散りになってしまっていたが。
それに文句をいう者は、誰もいない。無理もない。
この社にはもう、神さまと呼べるモノはない。それでも取り壊すことを拒んだこの寺社は、梅雨入りのまえにこうして結界を張り直すことが恒例となっていた。
かみさまなどいなくとも、その存在が『ある』ということが必要な人たちのために、こうして祝詞を捧げるのが、きょうの仕事だった。
厳密に言えば、少し違うのだけれど。
瘴気のたまり場になっているこの場所で、祈りをささげる宗派が集中できるよう、護衛する。それが一郎たちの役割だ。
生まれ持っての霊力はあっても、向き不向きがある。
悪魔関連の厄介ごととなれば一郎たちの方が、話が早い。
――もちろんその逆もある。
たとえば土地神信仰の厚い地域では、やはり僧侶や陰陽師の方が、仕事がスムーズだ。先月の一件は警察から緊急を要するものとして直に受けてしまったが、本来ならばそうした宗派に一報を入れるのが筋だった。今朝、出会いがしらにメフィストに向けられた、刺すような視線はそのせいだろう。それでなくとも魔を祓ってきた古い集団にとって『悪魔』という存在への嫌悪は、ぬぐい切れない。
メフィストが千年王国研究所で仕事をする中で知った、
世界のもうひとつの顔だ。
(でもあれは
――)
(あくまくんと見送れて、よかった)
今日の一郎の格好は、祝詞を捧げる集団に合わせたものだ。
淡い色の髪に、まっしろな祭服がよく映えている。
光沢のある白い祭服は、袖口と裾にだけ金糸で刺繍が織り込まれていた。細やかなアラベスクの刺繍には、途方もない工程があるのだろう。伯父の唐草模様のマントには『生命力』や『長寿』の祈りが込められているが、一郎のそれには『魔除け』の意味が込められているらしい。
祖父がみれば、しかめっ面をしそうな装いだ。
シンプルな装飾が施された白い長衣が、一郎の長身にこれでもかと似合ってしまっている。本人は早く脱ぎたいようだが。
寺社にはうっすらと残滓のような瘴気が、くゆっていたが、かみさまもいなければ悪いモノもいなかった。
一郎にしてみれば、着なれぬものを着せられて、平野をただただ歩かされただけだ。
「
……きみ、本当にこれが好きだな」
「えっ」
見すぎてしまっていたのだろうか。一郎がすこし呆れ気味にそんなことを言ってくる。本音をいえば、好きだ。かなり。
じぶんが一郎の造形によわいことに気づいたのは、好きだと自覚してからだった。でも、今日の一郎の容貌が、群を抜いて際立っているのは、彼の悪魔であるメフィストの欲目だけじゃない。一郎たちよりも後ろを歩く一団が連れている使い魔たちの視線が、物語っていた。本人は、『悪魔くんだから魂がうまそうなんだろ』などと身も蓋もないことを言っていたが、絶対にそれだけじゃない。
「
……すき、だけど
……」
「素直だな」
ふたりの声は聞こえていないはずなのに。
後ろを歩く童女すがたの双子から、きゃらきゃらと鈴の音のような笑い声がこぼれた。それを咎めるような咳払いに、一瞬身体が強張る。この界隈で名の通る血統のものほど、自分たちの大事な眷属が他の種族と関わることを嫌っている。
じぶんが普段、いったいどれだけやさしい環境にいるのか。こういうときメフィストは、思い知る。一郎は、しかめっ面をしていたが、この場で言い返さないだけ大人になったと思う。
じぶんの悪魔の立場が悪くなるだけだと、もう知っているのだ。
「
――天気予報、はずれたな」
「そう? ここに来るとき、いっつも雨じゃない?」
露骨に話題をそらすことも、一郎は覚えてしまった。だからメフィストも彼の悪魔らしく合わせるのだ。神域から出るまで、あとわずか。ぽつりぽつりと落ちる雨つぶは、車が停めてある場所までは持ちそうにない。
「雨の日ってさ、おれそんなに嫌いじゃないんだ」
「へぇ」
「悪魔くんは、なんでだとおもう?」
「
――まて、ここでクイズなのか?」
ふへっと笑うと、一郎は目を細めてメフィストの頬にくっついていた雨粒をぬぐってくる。後ろからまた、きゃらきゃらと童女の笑い声があがった。こういう仕草も様になってしまうのだから気を付けて欲しい。
伏せた睫毛に透明な雨粒がのっている。やっぱりおれの悪魔くんはきれいな顔だって思う。
……すきだなぁって。
雨がそんなに嫌いじゃなくなった理由なんてものを、一郎は今度こそポーズではなく真剣に考えているようだ。
あれは、ふたりが千年王国研究所を立ち上げて、
間もないころだった。
▽ ▽ ▽
その日、ふたりは喧嘩中だった。
いま思えば、メフィストが一方的に一郎に腹を立てていただけだ。
――ささいなことだった。自分で片付けると言っていた洗濯物がそのままになっていたとか、作り置きしていた冷蔵庫のモノを食べ忘れてしまっていたとか。
内容はちいさなものばかりで、ただただ「約束」が守られないことが悲しかった。それをうまく伝えられないまま、ずるずると長引いてしまっていた。買いもの途中で雨に降られ、頭を冷やしたいのもあって、店先ですこし雨宿りをしているところだった。一郎が、その店先に現れたのは。
『な、なんで?』
『
……濡れたら、困るだろう』
メフィストの抱えている買い出しの荷物に、ついっと視線を向けられる。買い物バッグのなかは、卵に小麦粉、すこし高めだけれどお気に入りだからストックしているグラニュー糖。
なるほど? 濡れちゃ困るもんなぁ
――、
『~~~~っちがう!!』
『何がだ?』
だって、魔方陣を使えばすぐ済むことだった。いつもいつもこっちの都合なんてお構いなしにポイポイ呼び出すクセに。
『だから、なんで
――』
びっくした。心底、びっくりしていた。
なんでわざわざ?
黒い傘いっぽんさして、こんなところまで
――、
『あ、』
『なんだ』
真っ黒な傘が傾いて、ぽたり、ぽたり
……と、大きな雫がおっこちる。ふに落ちない行動を取る男の、雨で濡れた足元を見れば、左右違うスニーカーなんてはいていた。酷いありさまだ。
どれだけ焦ってきたのだろう。
涼しげな顔からは想像もつかない。
――けれど、
『ううん。ありがと、帰ろうぜ?』
『
……ああ』
当然のように差し出してくる傘のなかに、
当然のように収まってやる。
そっと見上げれば、引き結ばれていた唇から安堵のようなため息が零れた。
(
……ばかだなぁ)
黒い傘いっぽん。それだけを差して。
雨ふりのなか、ちぐはぐなスニーカーじゃ歩きにくかっただろうに。こちらへと頑張って傾ける傘がへたくそに揺れている。
――気づいてしまえば、
胸の奥にすとん
……っと、それは収まった。
『あのさ、悪魔くん』
『なんだ』
『
――おれ、相合傘するのはじめてだよ』
彼のうごきが一瞬止まる。『
……そうか』などと平坦な声で返されたが、視線の先でへの字になっていた口の端がゆるんでしまっていた。ふたりだけの黒い傘のなか。
たまらない気持ちになって荷物を抱えなおす。顔をのぞきこまれたらきっと、メフィストだっておんなじ顔だ。
(だってさ、仕方ないだろ)
――だって、天才であるはずのあくまくんが。
こんな風になっちゃうくらい、彼の悪魔のことが大切らしい。
(
……あくまくん、おれね)
(きっと、ずっとずっとわすれない)
その日からずっとだ。つめたくても、わずらわしくても。
メフィストにとって『雨』がやさしいものになったのは。
▽ ▽ ▽
「千研さんやん! おひさしぶりやねぇ。オレンジジュース? ウーロン?」
「いえ、おかまいなく
……っ!」
「ええよ、ええよ。こないだ戸隠の神さん、一郎君と処理してくれたんやって? 助かったわぁ。今日も仕事がブッキングしまくってなぁ、夜の会合だけは顔出してこい~って。わざわざ面倒すぎん?」
「加茂さんちがこなくて、どこが来るんですか」
「3世くんまでそれいう? 白いパーカーかわええなぁ、俺もはよ着替えたい
……」
本当に、ギリギリまで仕事だったのだろう。祈祷用の白衣に身を包んだままの同業者の男はすこしくたびれた様子だ。
それでも長テーブルの端っこに、ひとりでいるメフィストの姿を見つけると、せめて着替えぐらいはさせてもらいたかったと口を尖らせながらも、ニコニコと駆け寄ってきてくれた。
「あ~~戸隠の件、やっぱり賀茂さんちの系列だったんですね。すっかりご連絡があとになっちゃって
――」
「いやいや、あそこの神さん、たいへんやったやろ? こっちこそごめんな、管轄でゆうたらウチやのに。一応、分家が担当しとったんやけど、あそこの村長さんなぁ『拝み屋』呼ばわりでぜんぜん話にならん
……っていうのは、ウチのおとんの愚痴なんやけど。千研さんが祓ってくれてほんまに助かったわぁ」
「いえ、すごくべんきょうになりました」
「千研さんはやさしいもんな、しんどかったやろ」
――あそこの時代遅れの神さま。
最近はそんな仕事ばっかや
……って。
うまく笑えているだろうか。
まるで天気の話でもするように、何でもない世間話のようにふたりにとって忘れられない仕事の話題に触れられ、うまく返事ができている自信がない。実際、いまだ3世のなかで消化できていないあの神さまの一件は、彼らから見れば、ありふれた仕事のひとつなのだろう。
(でも、おれは『しんどい』ままでいい)
あのしんどさを忘れたくない。
そう思うのは、自分の半分の血がそうさせるのだろうか。
(悪魔くんは
……)
一郎は、忘れたくないって言ってくれた。
ふたりだけのバスルームでへたくそに泣いたメフィストのことも、あの選択も。目が自然と、片割れの姿を探してしまう。こうした場に、ふたりとも随分と慣れてきた。
「一郎くんやったら、あっちで魔具師のねーちゃんらと話し込んどるよ?」
「っ! ありがとうございます。悪魔くん、新しい魔具が欲しい欲しいって、ずっと言ってて
……」
「
……相変わらずなかよしさんやねぇ。ウチも姫さんのことは大事やけど、千研さんとこはやっぱ特別やん?」
「とくべつ?」
「いややなぁ、自覚あるやろ~?」
随分と砕けて接してもらっているが、男は土御門の流れをくむ御三家のうちのひとつ、賀茂家の次男坊だ。
――現在では希少な、僧正血統の血筋でもある。
現在おもに山陰地方を束ねている賀茂家は、さかのぼって千年前ほどに鬼と契約を交わしている。今日は連れてきていないようだが、仕事中は艶やかな黒髪の少女を後方に従えていた。
祓魔師、僧侶、陰陽師
――。そう呼ばれるものは、古来より存在している。最も盛んだったのは平安時代。
物質界を散歩中だったメフィストの祖父が、白装束の人間たちにジャマをされて台無しだったと今でも不機嫌に語っている。
おばあさまのために桜を一枝持ちかえろうとしたところ、いきなり狛犬をけしかけられたらしい。
ほんの数百年は何も言われなかったのに。
にんげんは随分と狭量になったものだ、と。
相手をする時間も無駄だし、使役されている犬には罪はない。落としてしまったシルクハットは惜しかったが、当時はしばらく散歩ルートを変えることにしたらしい。
父、メフィスト2世曰く
『売られた喧嘩は、金になるなら買う』
――というのが当時の祖父のポリシーらしい。2世や3世が産まれてからは、これに『かわいい息子たちのためならば』が付随するのだけれど。
「俺も、いいかげん君たちの知り合い認定されていいと思うんやけど。君に話しかけてるっちゅーだけで、さっきからこっちずぅ~~っと見張られてるし。3世くんも、いや~な話題ふられたらすぐ一郎君さがすやん? ウチんとこの姫さんじゃありえへんもん。鬼は鬼、ひとはひと。悪魔は悪魔。お互い、そう割りきって生きとる」
「うちは
……おれが半分人間ですし、悪魔くんとは従兄弟でもあるので」
呼び名ややり方に差はあれど、やっていることは変わらない。物質界で、ひとではないものが起こす事象や事件を、あるべき場所や姿に収めていく。
警察を通して事件に関わるようになってから、これら特殊な血統の一族が、古くから縦にも横にも、強い繋がりがあることを知った。研究所で仕事をする以上、彼らとうまくやっていかなければならない。
千年王国研究所は、主に悪魔に特化した事件を受け持つ機関としてこのネットワークに組み込ませてもらっている。新参者へ向けられる視線に棘はないが、血統を重んじる集団のなかで異彩を放っているのは事実だった。
「賀茂家もなぁ。僧正血統ゆうても昔みたいに、やれ裏から中央を牛耳っとる~とか、帝への影響が~とかそんなんないし。
令和やで、令和。うちのこわ~いお姫さんも、おとんに、ひいじーちゃん、ひいひいじーちゃん
……その前の代からずぅっと使役しとるだけやし。御三家みんなしてそんなんばっかやん? やから千研さんみたいに自分の代で、自分だけの悪魔を
…って珍しいんよ。真吾さんもまだ、手持ちに十二使徒おるし」
――たったひとりに、
一途に使役されるって、どんな感じ?
以前、親から譲られたと言う女体の鬼を、持て余していると愚痴られたことがある。兄が引き継ぐはずだったのに。
『弟の方が霊力がうまそうじゃ』って。夕食なんにする? みたいなノリで決めてええん? などと、面倒だ、面倒だと言いながらどこか誇らしげにしていた。
「ひとやないイキモノゆうても、こんなにカワイイもんなぁ。ずうっとじぶんだけのもんって、やっぱ憧れるやん? やから、うっさい視線のほとんどやっかみやで」
「やっかみ?」
「こないだの報告定例会も荒れ荒れだったやん? 一郎くん、戸隠の神さんの報告だけすませて、さっさと帰るつもりだったみたいやけど帰り際に頭のかったいじーさんどもに『メシアの弱点が露骨なのはいかがなものか』なんてイヤミ言われて
……」
「
……弱点?」
「一郎くん『あれは弱点じゃない。僕の懐刀だ』ってガチ切れしとったけど
……え、まって3世くん、ぜんぜん聞いてへん?」
「おれ、なんにも」
「あ、まずいわコレ。俺から漏れたってナイショに
……」
「
――なにが、だ?」
声とともに、馴染んだTシャツ姿の一郎がメフィストと男の間に割って入ってくる。抑揚のない声はいつもと変わらないが、不機嫌さがこれでもかと滲んでしまっていた。
「戻るぞ、メフィスト。いま欲しいモノはだいたい注文できた。
……賀茂さん、どうも」
「まってまって一郎くん。ちょ~っとお話ししてただけやん? 先日はどうも~って。うさんくさい誘拐犯、目の前にしてるみたいな顔やめてぇや
……盗らんよ、君こわいもん」
「それじゃあ俺のことは、恐いままでいて下さい。メフィスト、部屋に戻ろう」
「なぁなぁ一郎くん、こないだの定例会のこと、3世くん何も知らんって。じゃあ頼んだ潜入捜査も、知らんまま断っちゃう感じなん? ずっこいなぁ~」
「捜査?」
「
……やらない。断わったはずだ」
「ええ~~悪魔関連は千研さんやろ? まぁええわ。3世くん、きみの悪魔くんとちゃ~んとお話ししてな?」
――ほなね、って。始終笑顔の男は、ひらひらと手を振りながら去ってしまう。荒れた定例会のことも、断わったらしい捜査のことも、メフィストは聞いていない。
どういうことだ?
問い詰める声が出そうなのをひっしに飲みこんで一郎を見つめる。観念するようにため息をついた一郎は、『部屋で話す』とだけ呟いて、メフィストの手をひいたのだった。
▽ ▽ ▽
「
――で、潜入捜査って? あ、ミカンはおれが剥くって!」
「
……ん、」
どうしたらそうなるんだろう。
ぼろぼろになった皮をまだらにくっつけたミカンを一郎の手の中から奪う。一郎は神妙な様子で、なすがままだ。へんなところで不器用なのも、嫌じゃないから困ってしまう。
「低級の悪魔や半妖をさらって、売りさばいてる連中がいる。
……密告があったのは先月だ」
「おれは聞いてない」
「言ってないからな。
……クソ親父や君のパパには既に協力を仰いでる。
……あとな、断ったのは『潜入捜査』のみだ。他のサポートはもちろんやってる、賀茂家は君をいいように使いたいだけだ。研究所の役割としては充分だ。2世もこの件に関して、君を巻きこむべきなじゃないと判断してる」
本当にメフィストに隠したかった内容なのだろう。
ただでさえ早い口調に拍車がかかっている。
それでも、どうしたって今回は流してやることができない。
「賀茂さんからきいたぞ。おれは、あくまくんの弱点じゃない」
「
――そうだ。きみは僕の刀だ。剣だ。物理攻撃だけじゃない。君がいないと困る」
「なら、なんで」
「
……連中は、希少種の『性』を売りものにしている。人としても悪魔としても経験が浅い君が
……あー
……くそ、つまり僕しか知らない君をみすみす囮にするつもりはない。危険の方が過分だと判断した」
「
――おとりってことはさ、じっさい現場でゆるぎない証拠が必要ってことだろ」
「メフィスト、」
「にんげんに捕まっちゃうような、幼くて力がない
……、そういう悪魔が狙われて、いまも嫌なめにあってんだろ?」
「メフィスト
……」
「おれのこと悪魔くんの懐刀だっていうなら、ちゃんと使え、ばか!」
「メフィスト、ぼくは」
「もう知った。もう聞いちゃった。おれが知らないふりできると思うのかよ?」
――おまえの、悪魔だぞ?
――おまえの、メフィストだぞ?
しずかに、さとすように。しかめっ面を崩さない一郎に、問いかけてやる。メフィストがこのままじゃいられないことを、何よりも知っているのは一郎だ。
観念したのか力のない声で、
『
……最悪だ。今日は、きみが楽しみだと言っていた旅館で、君とイチャイチャする予定だった』
などと、まるい頭をうつむけてボソボソ呟くものだから、
『いちゃいちゃはする!』ってきっぱりと宣言してやる。
誰だと思っているのだろう。
おれはおまえの悪魔だぞ? って。
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