ほしのまなつ
2024-01-24 02:20:09
1052文字
Public :一郎×3世短編
 

🥞🎩3️⃣/Iの告白

いちろうくん「まて。いま、それを知ったのか?」





「なんで?」
……濡れたら、困るだろう」

メフィストの抱えている買い出しの荷物に、ついっと視線を向けられる。買いもの途中で雨に降られ、頭を冷やしたいのもあって、店先ですこし雨宿りをしているところだった。
買い物バッグのなかは、卵に小麦粉、すこし高めだけれどお気に入りだからストックしているグラニュー糖。
なるほど? 濡れちゃ困るもんなぁ――

「~~~~っちがう!!」
「何がだ?」
だって、魔方陣を使えば済むことだ。
いつもこっちの都合なんてお構いなしにポイポイ呼び出すクセに。そもそも二人は絶賛喧嘩中なのだ。
――ささいなことだった。
自分で片付けると言っていた洗濯物がそのままになっていたとか、作り置きしていた冷蔵庫のモノを食べ忘れてしまっていたとか。内容はちいさなものばかりで、ただただ「約束」が守られないことが悲しかった。それをうまく伝えられないまま、ずるずると長引いてしまっている。
「だから、なんで――
びっくした。心底、びっくりしている。
なんでわざわざ?
黒い傘いっぽんさして、こんなところまで――

「あ、」
「なんだ」
真っ黒な傘が傾いて、ぽたり、ぽたり……と、大きな雫がおっこちる。ふに落ちない行動を取る男の、雨で濡れた足元を見れば、左右違うスニーカーなんてはいていた。
酷いありさまだ。どれだけ焦ってきたのだろう。涼しげな顔からは想像もつかない。――けれど、

「ううん。ありがと、帰ろうぜ?」
……ああ」

当然のように差し出してくる傘のなかに、
当然のように収まってやる。

そっと見上げれば、引き結ばれていた唇から安堵のようなため息が零れた。
(ばかだなぁ)
黒い傘いっぽん。それだけを差して――
雨ふりのなか、ちぐはぐなスニーカーじゃ歩きにくかっただろうに。こちらへと頑張って傾ける傘が、へたくそに揺れている。
――気づいてしまえば、
胸の奥にすとん……っと、それは収まった。
「あのさ、悪魔くん」
「なんだ」

――おれ、相合傘するのはじめてだよ」

彼のうごきが一瞬止まる。
……そうか』などと平坦な声で返されたが、視線の先でへの字になっていた口の端がゆるんでしまってる。
ふたりだけの黒い傘のなか。
たまらない気持ちになって荷物を抱えなおす。顔をのぞきこまれたらきっと、メフィストだっておんなじ顔だ。
(だってさ、仕方ないだろ)

――だって、
天才であるはずの男は、こんな風になっちゃうくらい
彼の悪魔のことが大切らしい。