らぎ
2025-02-01 23:03:18
903文字
Public モノノ怪
 

離坤ドロライ第十回「お薬」「呪い」

某様の人魚話に触発されて色っぽい話を書いたつもりが十翼パークに…ど、どうして

「アンタの妙な変化も、そろそろ打ち止めかと思っていたんですがね」
離の薬売りがぼやく先には、十翼の池に腹部まで浸かった坤の薬売りが立っている。大の男が立つには珍妙な場所だが、その理由は坤の薬売りの腰にあった。
普段手の込んだ熨斗結びに結ばれる市松の帯も朱の襦袢も無く、素肌に羽織だけを無造作に纏った坤の薬売りの腰まわりからは、海洋生物のものらしき大きな尾鰭が生えていた。柳の葉のように繊細な鰭が枝分かれして伸び、斑混じりのそれが水面に揺蕩う様子は雲海の遥か上を悠々と飛ぶ竜の絵姿を思わせる。ヒトの姿を保っている掌で水を掬い、坤の薬売りはのほほんと言葉を返した。
「ううむあっしは八卦の中でも陰の気がとりわけ強いですからねえ。水のものには近づかれやすい」
「水というなら坎の管轄でしょうに何をしているんですか、あの人」
「今回は海豚いるかになっておられましたよ。困難の卦とは伊達ではないですね」
………
今回は、と坤の薬売りが言うように、十翼にて英気を養う筈の薬売り達が災難に遭うのはこれが初めてではない。陰陽の気の乱れやら同輩の誰ぞの持ち込んだ妙ちくりんな「お薬」やらモノノ怪の呪いやら……原因を挙げれば枚挙に暇がないが、その中でも他人を庇いたがる性分の坤の薬売りと困難の卦、要は不幸体質の坎の薬売りは、騒ぎの中心にいる事が多かった。
「それに、今回はあなたもでしょうね、離の方」
……思い出させないでください。」
坤の指摘に憮然とした離の薬売り。頭巾を外したその頭には不機嫌に伏せられた狐の耳が、後背からは立派な毛並の尻尾が生えており、それらによって普段の彼が纏う超然とした雰囲気は幾らかなりを潜めていた。
「まったく、何故こんなことに
「一晩もすれば戻るとの事ですし、いいじゃありませんか。それよりちょいとあっしにもその毛皮、触らせて頂きたく」
濡れた手は拭くように」
溜め息を吐きながらも坤のしたいようにさせてやる程度には、離の薬売りも情人に甘かった。もしくは呑気な小魚を気が済むまで自身の周りで遊ばせておいてぱくりと喰らってやろうと言う、狐の企みだったかもしれないが。