しゃどやま
2025-02-01 21:56:47
2913文字
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【LQL】メルト

チョコレートキスをするだけのLQL(ほんのり性描写)

 ホワイトデー前日の夜、ベッドで眠りについた記憶がある。しかしランスが目覚めたのは、白い何もない空間だった。覚えがある。誕生日に見た、精神世界。
「ここは……また意識の中か」
「それだけじゃないよ」
 自分とそっくりな、それでいて全く違う声に振り向く。同じ見た目をした青年――Qが、得意げな顔で立っていた。
「今日はきちんと勝負するからね! それもホワイトデーらしいやつ! かわいいボクがかわいいイベントに出られないなんてありえないんだから!」
 Qは指を鳴らす。何も無い空間に、突如としてテーブルと椅子、山積みの小箱が現れる。可愛らしくラッピングされたその箱は、おそらく百貨店などで売られているチョコレートだろう。ランスは肩をすくめる。
……夢の中で食べ物を?」
「認知の問題だから、不可能じゃないでしょ? ここに食べ物がある、そう脳は認識した」
 だからこれは勝負になる、と言いながらQは椅子を引く。隣に並んだ二つの椅子の、右側にQは座った。渋々ランスは隣に座る。眼の前に置かれた箱は、赤いリボンを巻かれて上品に鎮座している。
「ルールは簡単! ここにあるチョコレートを先に食べ終わった方が体をもらう。意識の中でも味覚や疲れ、飽きはあるからね。面白い勝負になるんじゃない?」
 面白い勝負。Qが準備したということは、それ自体がゲームの内側だろう。意識の中でどのようなトリックを行えるかはわからないが。ランスは箱を持ち上げて底を見る。ご丁寧に、成分表示はされていなかった。
「どうせチョコレートに唐辛子でも仕込んでいるんだろう?」
「じゃあ交換してみる?」
 Qは嬉しそうに頬を持ち上げる。目を猫のように細めた。ランスは、チョコレートの箱を置く。
……いいや、それこそ罠かな。この箱でいいよ」
「あっそ」
 Qはつまらなそうに言うと、自分の前に置かれた箱のリボンに手をかける。しゅるりと引き抜くと、自分勝手に言った。
「よーい……スタート!」
 ランスも負けじと箱を開封する。一つ一つ違うデザインの、宝石のように艶のあるチョコレートたち。Qが選んだにしては落ち着いたデザインだった。もっとカラフルな、アニマルチョコなどをイメージしていたのだが。
 コーヒービーンズが飾られた一つを口に運ぶ。噛むと内側からカフェオレのクリームが溢れた。ただのチョコレートではなく、一つ一つにクリームが入れられているらしい。続いて手に取った緑色のチョコレートは、予想通り抹茶だ。自分からは食べない味なので、新鮮な気持ちで飲み下す。ホワイトチョコレートがベースなのか、ねっとりとした甘みが口に広がった。
 ランスは口の中の唾液を飲み下す。唇を曲げた。
「結構、濃いね。飲み物がないのもキツい」
「ふふん、せいぜいがんば……うっ!」
 煽るQの笑顔が、不意に歪む。口を手で抑えた。自分の罠に自分でかかったのかと、ランスはQを観察する。
 嫌そうな表情で、Qは舌を出した。緑色のクリームで染まっている。
「うえ〜。これ中がピスタチオだ。豆臭い……
 ピスタチオのチョコレートが苦手だったのか、Qはいやいやと首を振る。チョコレートと調和するピスタチオの味を否定するQのことがランスにはわからなかった。
「カカオだって豆じゃないか」
「違うよ、にちゃにちゃする……
「自分で用意したくせに」
 フフ、っとランスは笑う。その言い草に腹がたったのか、Qは眉を吊り上げた。
「む……
 椅子をガタンと揺らして立ち上がる。ランスにつかつかと近づき、顎を乱暴に掴んだ。ぶにゅ、とほっぺが歪む。
 そのままQは口づけをする。無理矢理に唇を割り開き、甘いクリームに塗れた舌がランスの舌に絡みつく。
 ――美味しいじゃないか。
……っ、ん、♡」
 ランスは舌を刺激するぬめりと熱に、止めることを失う。Qの服を掴んだまま、舌に応えた。甘い味と、唾液が混ざる。二人の体温が溶け合う。Qの口腔に舌を伸ばし、歯を撫でる。チョコレートの欠片が振れると、味が強く広がった。
「んっ、ちゅ、れろ」
「ぢゅ……
 舌をQが軽く吸う。嫌な味のはずなのに、夢中になって舌を擦り付けているQの愚かさに、小さな優越感が浮かんだ。
 ランスが口を開くと、Qは目を細めて顔を離す。唇でぺろりと舌を舐めた。
「っは……美味しいじゃないか」
 言いながらランスは拳で唇を拭う。嫌がらないランスに、Qはつまらなそうな顔をして唇を尖らせた。
「アクジキランスはいい趣味だね」
「ところで、この勝負ではどちらが食べたことになるんだい? このチョコレート」
 ランスはチョコレートの箱を指さした。チョコレートは二人の間で溶け、誰が食べたかはわからない。一つのチョコレートを口に入れた人間が二人いるのだから。
「当然ボクでしょ? ボクのチョコレートが減ったんだから」
「やれやれ、狡いな。それなら……このピンクはカシスかな?」
 ランスはチョコレートの箱から、赤い飾りのついたチョコレートを取り出す。甘酸っぱくフローラルな味わいは、さほど得意な味ではなかった。ぽい、と口の中に放り込む。
 覚悟できていたのだろう、ランスのほうを向いて待っていたQに唇を重ねる。チョコレートを舌に乗せ、Qの唇の中にねじ込む。そのまま舌を挿入し、Qの口内で溶かすように転がした。
「ん、んんっ♡」
「れろ、ちゅ♡」
 Qが負けず嫌いを発揮して、ランスの頭を手で抱え込む。押し返されたチョコレートからクリームが溢れる前に、またQの方へ押し戻す。唾液にチョコレートが混ざり、甘い香りが鼻を抜ける。
「んふ……んん♡」
 どちらが笑い声を上げたのだろう。うっとりとした声は、自分のものとは思えなかった。
 カシスのチョコレートは、口の中でグズグズに蕩ける。ペースト状になったそれを、二人は飲み下した。
 Qは唇を離し、甘いため息を吐く。ランスを睨みつけた。
……ずる」
「カシスは好きだろう?」
 肩をすくめ、煽るランスにQは拳を握って怒りを伝える。ランスの顔を指差すと、腕を掴んだ。
「ずるい! こうなったら全部食べさせてやる!」
 もう一度、二人は唇を重ねる。
 チョコレートを口に含むことを忘れて。


 青年は目覚める。夢の記憶は曖昧だが、自分と同じ顔の存在とキスを繰り返したような、気はする。鏡とキスをしたと同じようなものかもしれないが、あまり気分のよいものではない。けれど目覚められてよかった。自分の身体が自分のものであるということは、何よりも幸福なはずで。体を起こし、髪の毛の分け目を、手でざっくりといつも通りにした。
 そして立ち上がろうと、足を動かした瞬間。
……えっ?」
 ――下着が濡れている。確かめると、下着の中で射精した痕跡があった。いわば夢精というやつだ。二十にもなって、そんな? それも「アレ」とイチャつく夢を見て?
 まだわからない。自分がした夢精じゃなく、夢の中で「アレ」が興奮した結果の夢精かもしれない。
 夢精をしたのは、ランスかQか。
 青年は、頭を抱えた。

 おしまい