すてきな夜の次の朝

さとう・しおさん宅のオルカくんとオユンくんの朝の小話。
ちょっとだけセンシティブ。

――甘い匂いがする。
 オルカはベッドの中でうとうとしながら、届くそれを胸いっぱい吸い込んだ。砂糖、バター、牛乳、バニラ。刺激されたお腹がくううと鳴って、眠っていたい気持ちと喧嘩しているけれど、まだまだやっぱり眠くて動けない。
 あったかいブランケットの中をもぞもぞと移動して、手だけをぱたぱたさせる。なんだかいいにおいがするよ、ねえオユちゃん。そう言いたくて、けれど伸ばした先に伝えたい相手はいなくて。暖かさだけ残して空っぽになったそこに、一気に目が覚めた。
「お、起きたかねぼすけ」
……オユちゃん!」
 ばたばたごとん、ベッドから転がり落ちるように出たのを、探していた相手は呆れたように見てくる。エプロンに隠されていない場所には昨夜の跡がしっかり残っていて、オルカはあわわと口を押さえる。
 今更ながらに見回せば部屋は嵐の後のようで、服は点々と放り投げられ、シーツはずり落ち、枕は何故か窓の縁に引っかかっていた。最中にどちらかがぽいとしてしまったのかもしれない。思い出せば、わずかにそういう記憶があるような気もする。
 とりあえずパンツだけを身に着けてキッチンに向かえば、同じようにパンツだけを履いてエプロンを着けた、ほとんど丸見えの背中が忙しそうに働いている。
 オルカは慌てて目を手で隠し、けれどやっぱり見たくて指の隙間からそっとそれを覗く。上に乗ってくれた時に堪らなくて強く掴んでしまった腰の手の跡、全部抱きしめたくて後ろから圧し掛かり、思わず噛んでしまった肩。シャワーも浴びていないのか、綺麗な黒の鱗には、白い液体が乾いて張り付いている。見れば見るほど昨日の夜の出来事がぐわんと頭を揺らして、オルカは顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。
 昨日は、すごかった。
 それは依頼で戦うことになった魔物がとても強く、けれどどうにか勝てたからなのか、そのあとお礼として出てきたご飯がとても美味しかったからなのか、依頼者に涙ながらに感謝されたからなのかは分からないけれど、とにかく昨日はどうしようもないくらいに気持ちが高ぶっていて、勘違いでなければぎゅっと抱きしめたオユンの身体も同じくらい熱くて、それがとても嬉しくて、その気持ちのままに、
「うう……
「何してんだ、メシできたぞ」
 小さく唸っていると、不思議そうな顔をしたオユンが皿を手に持っている。砂糖、バターに牛乳、バニラと小麦粉の甘い香り。
「ストックの肉も魚もパンもなかったから、おやつみたいだけど勘弁しろよな」
 テーブルに座れば、大きさはばらばらながら、たっぷり厚い三段が重なったパンケーキが置かれる。その上からは溶けて落ちるバターに、こぼれるシロップ。
 その様子は相手の腹にたらりと落ちたものに似ていて、慌ててオルカはフォークを持って、いただきますを言う前から口にパンケーキを詰め込んだ。
 けれどそれを咎めるものはいない。何故なら、オユンもなんとなしに昨日のことを思い出して、少しばかり熱い頬をなだめるのに必死だったからだった。