「どうしたの?大丈夫?」
そんなに悩んでいるような背中だったのか、声をかけられて驚きと後ろめたさで声が出ない自分に重ねて声がかけられる。
それも、声の主はエオルゼアの英雄と呼ばれるオミロー・フワフワだったのだから、すぐには平静を取り戻せなかったが、気さくに話してくれたおかげで、間もなく落ち着けた。
「君を心配している人から相談を受けたよ。なにか俺に出来ることはある?」
大した話ではないと断ったものの、いいからと促されて、場所を移す。
「その
……前の作戦で帝国兵を一人殺したんです。
そいつ、倒れた時にまだ息があって、懐を探るような動きをしたので、慌てて
……、皆そうすると思うんですが、その、トドメをさしたんです。」
仲間達なら誰だってそうする。最期に自爆でもされたらたまらないのだから。それでも、つい地面に落としていた目を持ち上げてフワフワさんの顔色を伺ってしまう。そもそも、あのラウバーン様とも渡り合うような大英雄とあれば、息の根を残すような半端なことはしないのかもしれない。姑息な真似をするなと言われたら、どう返事をしたら良いだろうか。
その心配はすぐに杞憂に終わり、彼は眉ひとつ動かさず話の続きを待っていてくれるのだった。
だが、杞憂だったことが心を沈ませもした。
他人には気にならないことのかもしれない。
自分が気にしているのは。
その帝国兵が息絶えたことを確認した後に。
懐からはみだしていたペンダントを開いて──。
「ガレアン人の女性のサインだったんです」
綺麗な字だった。
母親か恋人か、あるいは妹か。
それを最期にひと目見ようとしたのだろう。
「自分はアラミゴを本気で解放したいと思ってるんです。帝国の奴らなんか追い出して
……、そう、もちろん! 妹は帝国に嬲られて帰って来たんですよ。それから外には出られなくて、たまに俺のことも怖がるんだ。結婚も出来ないと思います。綺麗な自慢の妹だったのに
……。」
「うん」
味気ない相槌だ。
分かったような口をきかれても困るが、単調だとそれはそれで虚しい。
話さない方が良かったのかもしれない。
「まあ、とにかくそういうわけだから、自分が帝国人を憎いって思う気持ちは本気なんです。なのに、あのサインを見てから、つい考えてしまって
……」
「何を?」
やっぱり、この人も仲間と同じように、自分が今思っているようなことでは悩まないのだ。
いっそ思い切り否定してくれないだろうか。
名のある英傑が、そんなものは気の迷いだ、仲間の死を思い出せと断言してくれたのなら、また勝利のことだけ考えられそうだ。
英雄なら、頭を覆って離れないこの不安を吹き飛ばして、俺の道を切りひらいてくれよ。
「帝国の奴らにも愛する人がいるんだ、って考えてしまうんです。その愛する人は、自分が妹をいたましく思うのと同じ心で、生きて帰るのを待っているのかも、って」
「うん」
「やったことに後悔はないけど
……、もし今度は戦闘中に、敵に家族の姿が見えたらどうしよう、と思うと怖くて、不安なんです。自分が帝国に生まれていたらあっちにいただけなんだ。本当にいいのか、って
……」
英雄は変わらない調子で再度うん、と頷いて聞いている。
この人は何を考えているんだろう。
否定でも肯定でも、嫌悪にも共感にも思えない平坦な態度を見ていると、強い奴に自分のような者の気持ちが分かるのかと、少しばかり苛立つような思いが沸く。
「フワフワさんは強いから、こんなこと考えもしないでしょう。いいんです。ただ聞いてもらいたかっただけなので。気にかけてくれて──」
「そういうことを考えて戦ってると気ィ狂うよ」
「え?」
「君が死ぬよ」
話の途中に突如差し込まれた思いがけない言葉に虚を突かれて何も声を発せずにいると、やはり表情は変えないまま「君は死ぬよ」と言う。
フードを被っておけば良かった。失礼かと思い、始めに外したのだが、今は居た堪れない。自分は今、どんな顔をしている?
「悩めるのは今だけ。戦場でそういうことを考えていたら死ぬよ」
「
……三度も言われなくても、分かります」
絞り出すような細い声でやっとの返事をした。口の中に砂も入っているような気がする。
「俺は英雄って言われてるから、沢山殺した。どの相手も、戦う理由があったり護りたいものがあって、俺はそれを知ってて殺して来たから、君の言ってることは分かる」
部隊にはギラバニアの外から来た志願兵のエレゼンもいるが、話す機会はあまり無い。同族の中では背が高くないとはいえ、ハイランダーの身でもエレゼンを見上げ続けているとこんなにも首が痛くなってくるのだなあと、突如饒舌になった英雄の声を浴びながら、場違いな思いを感じていた。
気に障ったのだろうか。声も顔も、姿勢も変わっていないので、キャンプの中はいつも通り夕飯のスープの香りと砲身を磨く油の匂いが混ざった、緊張と穏やかさを混ぜた独特の空気が漂っている。
いや、エオルゼアの英雄が来ているというので少し熱は帯びているか。
次の言葉をどうするか頭の中をひっくり返したものの、この人の意図が分からない以上は自分も本音を言うしかない気がした。
「それなら、貴方はどういう思いで戦場にいるんですか。どうやって戦ってるんですか」
先程よりはマシな声が出るようになった。
「殺さなきゃいけない時は、殺すことだけ考える。相手を想うことと殺すことは別だから」
「自分にもできますかね」
そう聞いた途端に初めて、彼は腰に当てていた手を握り口元で思案するような格好をとった。
じっと自分を見ていた瞳も伏せられたので、便乗して自分も一度首を楽にした。楽にした時の方が疲労を感じて少し後悔する。
「君が出来るかは分からないよ。出来ないかもしれない。俺の場合は、俺が殺さないと大事な誰かが死ぬと思うからやれるのかも。俺は強いから」
自分が言った嫌味を拾われて、やはり気に障っていたのかもしれないとまた少し喉が締まる。
「じゃあ、貴方が殺す人を、祈りながら待っている人がいたとしても、ためらわず殺せるんですか?」
「そうしなきゃいけないなら
……、それで救われる人が俺を必要としてるなら、出来るよ」
「それは英雄だから?」
「そうだね」
そういって彼は軽く笑った。
数日後、別の部隊に異動するよう指示があり、前線を離れて後方へ行くこととなった。
あの英雄が上官に話したのだろうと思っているが、真相は分からない。
あの人は、俺の分も殺すのだろうか。
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