kurotera
2025-01-31 23:53:04
3188文字
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ふたいちの日のカスベリ

ふたいちの日だと聞いたのでカスベリと転生ふたいち。
こういう出会いだったらいいのにな~!こういう最後だったらいいのにな~!ていうのを詰め込んだやつ。
村焼かれて神学校に辿り着いた後で本を読んだカスピエルさんはたぶん本を読む前は真面目な好青年だったのではという幻覚を見たのですがどうなんですかね……。

 神は万人に手を差し伸べられる。

「おい、どうした?」
……火が、家族が……
 煤と泥に塗れた青年がそれだけを答えれば、鋭い双眸がすっと細まる。軽く舌打ちをして、彷徨いの果てにここへ辿り着いた青年をベリアルは軽々と支え、歩かせた。
「クザファン、あいつに知らせろ」
「わかった」
 熱を吸い込んだ喉が痛む。歩き続けてきた足を引きずる。
「ここまで来たんだろ、しっかり歩けよ」
 青年の霞んだ視界には美しい庭園と、白を基調とした建物があった。戦禍の火も血も知らないように輝く聖域には焼かれた街を逃れてきた自分が一点の汚れに思えて、青年は気後れしたが己を担ぐ男はそれを許さず、青年を歩ませた。
 街を戦の火によって追われ、家族の行方も知れず、名前と命以外持たずに来た青年を教会は手厚く保護した。まさに神の加護が、青年を救ったのだ。彼はいよいよ神に感謝し――

 それを開いた瞬間。
 青年の中で嵐が巻き起こった。文字、これは文字なのだろうか? 分からない。そこから目が離せない。指一本、動かせない。自分は本を読んでいるのか? ぼた、と泥が落ちる。どこから? 泥が広がる。花が咲いて、咲いて、綺麗だ。もう萎れる。花びらが燃えている。あれ、なんだっけ、泥、が、俺の、からだ、溶け――

++++++++++++++++++++

 任務の報告をクザファンに押しつけて、ベリアルは中庭を臨む廊下を歩いていた。目の先にぽつんと人影がひとつ佇んでいるのを見つければ、それが一ヶ月前に聖都の入り口で拾った放浪者だと気づいた。
「おい」
「え……
 あの時とは違い、身ぎれいになった男――自分と同じぐらいの年頃に見える。彼に声を掛ければ、ぼんやりとしていたのか、男はこちらを向き、ぱちりと瞬きをさせた。しかし、ぽかんと呆け顔をさせるばかりだ。
「え、っと……なに、……?」
「は? もう忘れたのかよ……助けて損したぜ」
 チッ、と舌打ちをするベリアルを見て、男の肩がびくりと揺れる。その様子に軽い自己嫌悪を抱きながら、悪い、とベリアルは呟いた。
「一ヶ月前、お前を助けただろ。……身体はもういいのか?」
「あ、ああ……そう、だったかも……えっと、ありがと。身体は大丈夫。……えーっと……
「ベリアル」
 ぶっきらぼうにベリアルが答えれば、べりある、と男は繰り返す。お前は、とトパーズの視線が問いかけてきて、男は狼狽した。名前。己はなんという名前だったか。ああ、そうだった。
「カスピエル、って名乗りなさいって言われた。なんだっけ、教皇様にさ、そう言われた」
「秘匿名だと? お前……使徒になるのか」
「うーん、そうっぽい? なんでか分かんないけど、てきせーが高いって……だから神に仕えなさい。それが俺の課せられた使命だって」
 カスピエルが大きくため息を吐く。突如自分の置かれた境遇に納得がいかないようだった。無理もねえか、とベリアルは目の前で黙りこくるカスピエルを眺める。しかし納得のいかないままこの任に就いたとして、遠からず待っているのは死だ。覚悟の決まらない奴ほど、よく死ぬ。
「まあ、お前には同情するが覚悟の決まらないまま使徒になっても無様に死ぬだけだぞ。死なねえうちに修道士にでも鞍替えしておけ」
「あー、それいいかも。この都市にいたらとりあえず生きていけるんでしょ」
 へら、と笑うカスピエルの言葉に、ベリアルの目尻が微かに震える。お前、今なんつった。と喉から出かかり、しかし一ヶ月前に見たこの男の有様を思い出し、怒りをおさめた。全て、戦争が悪い。
「せいぜいそれまで死なねえようにしとけ。もう会わねえだろうが……。どっかの隊にぶち込まれるだろうからそいつらに面倒を見て貰うんだな」
「そうそう、今日から配属って……本当に行かなきゃ駄目?」
「知るかよ!」
 もう行く。ベリアルが吐き捨て、つかつかと去って行く。それをぼんやりと見送り、カスピエルは淡い緑の目をぱちりと瞬かせた。
「ベリアル」

 使徒付き神父のアラヤシキが連れてきた人間を見た瞬間、ベリアルは盛大なため息と共に頭を抱えた。最悪すぎる。
「お前、この前の……!」
 隣でクザファンが驚いた声をあげる。アラヤシキは新しい隊員だと、カスピエルの肩に手を置いた。
「すぐに返してこい」
「ひとを犬みたいに言う!」
「ははは、そりゃ無理だな! ともかく、仲良くしてやってくれ」
「ああ、分かった。これも神の導きだ、一緒に戦――
「いいか」
 がたりと椅子が鳴り、ベリアルが声を上げる。ベリアル? とクザファンが怪訝な顔をするが、それも構わずベリアルは目の前のカスピエルを睨みつけた。
「お前が使徒の任務に対してどう思おうと知ったこっちゃねえが、足だけは引っ張るんじゃねえぞ」
……死なないようにするってば、ベリアルの言うとおりにね」
 締まりの無い笑みを向けるカスピエルに、ベリアルは顔を背ける。苛々とした様子に何かあったのだとクザファンは察し、しかし気を取り直してアラヤシキに他には、と促した。

++++++++++++++++++++++

 とおい、とおい、過ぎ去った日々。
 その泥濘に俺は何を見出したのだろうか。

 審判の鐘が鳴る。
 あの日と同じように熱が喉を焼いている。
「ベリアル!」
「行け」
「俺も戦うって!」
「足手まといだ! 行けっつってんだろ!」
 ベリアルは振り向かなかった。きっと、彼の隣に行っても拒まれる。カスピエルは悟った。嫌でも分かる。共に戦ってきたのだから。
 クザファンが駆け出す。役割があるからだ。俺の役割は。
「カスピエル!」
 グズグズしてると殴られる。そう思った瞬間、地を蹴っていた。

 がらがらと乾いた土くれが崩れていく。もうゴーレムに〝停止〟の命令をせずとも、終わる。目の前で、天使が地に落ちている。霞む視界を彷徨わせた。無事かな、皆。無事でいてほしい。神様、お願いします。ちゃんと祈りますから。

+++++++++++++++++++

…………うわあ」
 思わず双海は声をあげた。晴れきった青空、春の日のことである。その麗らかさとは正反対に、双海の声は嫌悪が入り交じる、濡れた声だった。
「は?」
 隣でバイク雑誌を読んでいた一誠が怪訝な声を漏らす。青空を見上げたまま大の字になっている双海をちらりと見れば、双海は震える手で己のかんばせを覆った。
「思い出しちゃった」
「なんだよ」
…………マジで、最悪」
 言葉の真意を掴めずにいる一誠が舌打ちをする。寝ぼけてんのか、と悪態をつけば、淡い緑の目が指の隙間から一誠を見た。
「ねえ、一誠。神様って信じる?」
「いきなり何言ってんだ……とっとと起きろ」
「俺はあいつ嫌い。ほんとマジで、……あだっ」
 いよいよ腹が立ったのか、一誠が丸めた雑誌で双海の頭を叩く。ひどぉい、と泣き言を漏らしながら上体を起こす双海に、小さなため息を吐いた。
 ――あの時と同じように。
「で?」
「ん?」
「思い出したって、お前まさか提出書類を忘れたとかじゃねえだろうな」
「あっ!?!?」
「馬鹿野郎が!」
「いや、大丈夫。大丈夫。だってユニットルームに置いたまま……
「行くぞ」
 一誠が立ち上がる。なんでこの歳になって仲間の提出物の面倒を見なければならないのか。そう言いたげに眉間に皺を寄せる仲間を、双海は見上げる。
 変わらない髪色、変わらない目の色。なにもかも、あの日からそっくりそのまま、枯れぬまま持ってきた花のよう。
「双海」
…………
「立て」
「立たせて」
「ったくよ……
 がっしりとした手が差し出され、それを恐る恐る握る。
 あいしてるよ、と言いかけて、ひどく喉が熱くて何も。