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Hizuki
2025-01-31 23:45:18
2458文字
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とうらぶ
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刹那の邂逅、黎明となりて
【とうらぶ】鶴さに。とある冬の雪が降る日に現世を訪れた主と鶴丸の話。あの日もこんな雪の日だった。
赤に変わった信号に足を止めると、はぁと小さく息を吐いた。白く可視化された空気は、そのまま灰色の空へ上がっていく途中で立ち消える。
この冬一番と言われた寒気が流れ込んだ朝、起きてすぐの窓の向こうはいつも通りの景色だった。それが朝食や身支度で目を離したほんの一時間ほどで、外は一面の銀世界に変わってしまっていた。安全面を考えれば出かけないのが一番だけれど、そんなことは言っていられない。移動手段を徒歩に切り替えて、いつもよりも30分早く家を出た。歩いている間も雪は降り続いていて、視界は斑の白に遮られている。
目の前を通り過ぎていく車もこの状況のせいでゆっくりとしか進まない。この寒さの中でスマートフォンを取り出す気にもなれず、信号が変わるのをぼんやり待っていると、どこかから声が聞こえてきた。その声は話し声ではなく、歌声だった。聞いたことはないはずなのに、何故か聞いたことがあるような優しい曲。
出所を探すように辺りを見回す。真っ白になった世界の、立ち止まっている横断歩道の後ろ側。少し離れたところに立てられた看板広告の上に人影があった。顔は空に向けられていて、表情までは分からない。
けれど、声の主はこの人だと確信した。そのまま見つめていると、どうやら向こうも気付いたらしい。歌声が止んだかと思うと、空に向いていた視線が向けられる。雪のような白い装束を纏った二つの淡い金色は、間違いなくこちらを捉えていた。目を奪われて瞬きをすることしかできなくなる。時間の流れは決して変わらないはずなのに、何故だか遅く感じる。
…
男の人、だろうか。
人間離れしたような美しさを持ったその人の口元がふっと緩められた。その瞬間、どくりと心臓が大きな音を立てた。一体この人は何者なんだろう。問いかけようとしてもうまく声が出せない。何もできず、ただ視線を向けたまま立ち尽くしていると、一際強い風が吹き抜けた。反射的に目を閉じてそれをやり過ごす。もう一度目を開けると、もうそこには誰もいなかった。さっきの人は幻だったのだろうか。いや、幻にしては記憶がはっきりとしすぎている。あの金色は確かにあの看板の上にあった。
とはいえ、問える相手もいない。小さく息を吐くと、信号が青に変わったことを知らせる音が鳴り始めた。ここで立ち止まっているわけにはいかない。何のために早く出てきたのか、意味がなくなってしまう。考えるのは後回しにして、横断歩道の先へと足を進めた。
―
それが、自身を取り巻く環境が変わるきっかけだったと知るのはもう少し後の話。
「ふーん
…
あれが鶴丸流の誘い方ってわけね
…
」
こちらに近付いてくる彼の霊力を感じ取り、あえて聞こえるようにそう零した。
「おや、お気に召さなかったかい?俺はきみに言われた通りにしたつもりなんだが」
「いいえ、十分よ」
私と鶴丸は時の政府からとある命を受けて現世にいた。それは『審神者の素質がある一般人に刀剣男士の存在を仄めかせる』というもの。要は『将来審神者になってくれそうな人間に刀剣男士を間接的に接触させろ』ということだった。
「そいつは何よりだ。実際あの子は俺に気付いたみたいだしな」
少し離れたところで私もその様子を見ていたからちゃんと分かっている。雪が降る中で信号待ちをしていたあの候補者は、間違いなく鶴丸の存在に気付いている。戸惑いながらも視線はしっかりと看板の上に佇む鶴丸に向けられていたから。鶴丸の言葉に頷き、手元の端末から報告を送信すると、上着のポケットにそれをしまった。
「
…
ふふ」
うっすらと雪が積もる道を歩いていると、思わず笑みが漏れた。
「どうかしたのかい?」
「ちょっと昔のことを思い出しちゃって」
「
…
ん?」
理由を尋ねる鶴丸にそう返すと、彼は首を傾げた。
「雪が降る日に歌が聞こえてきて、声の元を探して辺りを見回したら金色と目が合った気がした
…
」
今でも鮮明に思い出せる、かつて見た景色の話。真っ白な景色の中、私だけに向けられた微笑み。まるで宝石のような金色の瞳は眩くて、ずっと心に焼き付いていた。一体どこの誰なのかも分からない。けれど、あの輝きをもう一度見たいと思ったのは本当のことで。
「
…
つまり」
「私が審神者になるきっかけを作ったのは、全く同じことをしたどこかの鶴丸だったの」
唯一違うのは、私が見た鶴丸は極の姿ではなかった、ということ。そして、寒がりの個体だったのか、羽織のフードをすっぽりと頭から被っていた。フードで顔に影が落ちていたからこそ、あの鶴丸の瞳はより眩く見えたのかもしれない。
「なるほど、そういうことだったのか。
…
気付かない方がよかったかい?」
手を口元に寄せ、納得したように鶴丸は首を縦に振った。続けて重ねられた問いにはかすかに心配の色が乗っている。彼の存在に気付いたことで、全てが動き出した。刀剣男士の存在を知り、審神者という役割を知り、彼の名を知った。
「
…
まさか。むしろ感謝してるくらいよ」
―
鶴丸、国永
…
「あの時に会ったのが鶴丸でなければ、きっと私は今ここにいないと思うもの」
正式に審神者になって、『私の』鶴丸国永が顕現した日のこともはっきりと覚えている。今日みたいな、雪が舞う日のことだった。そうして心を通わせて、旅に出て、私の心の一番近いところにいてほしいという願いを受け入れてくれた。
「
…
それは何よりだ。さ、本丸に帰るとしようぜ。ここは寒くてかなわん
…
」
そう言って鶴丸は身体を震わせる。何の偶然か、私の鶴丸も寒いところが苦手だった。雪が降っているのだから寒いのも当然のこと。さっきまでの凛々しい姿はどこへやら。少し可愛くも感じられる彼の手を取ってぎゅっと握った。とはいえ、私も同じように外にいたのだから、そう温度は変わらない。それでも嬉しそうに鶴丸は笑みを浮かべる。帰ったらまずは温かいお茶を準備しようと考えながら、並んで本丸へ戻るための転送ゲートへと向かった。
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