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ふみかぜ@壁打ち
2025-01-31 21:34:32
4103文字
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【本編ドラロナ】オフレコ餅つき【1/26無配web再録】
1/26のドロプチオンリーお疲れ様でした!当日の新刊にお付けした無配本の再録となります/できてる本編ドラロナが、もち米から餅を作るだけの話/事務所の炊飯器のスペック、もち米の炊き方その他色々ゆるふわです/読み返して、ド氏はョンの手拍子でバズり間違いなしと思いつつネットに流さない建前を脳内でつらつらと並べ立ててるだけなんだろうなぁと思いました
クソゲーRTA配信を予定より早く完走し、反応を流し見ていた二一時半過ぎのこと。
「おかえり。どうしたんだそれ」
「ちょっと貰った」
見回りに出ていたロナルド君が、もち米二キロの袋を腕に抱えてリビングに入ってきた。何でも下等吸血鬼に追いかけられていた人を助けたお礼に頂いたそうで。協力した腕の人やショットさんも一袋ずつ渡されたらしく、直売所に関わりある人だったのかもしれない。
さて、現在は一月の末である。年末年始の餅を買っては消費されるサイクルが落ち着いてきたところで、今度は餅の原材料がやってきた訳だ。
「ふーむ
……
取り敢えず炊くか」
「ヌー」
ジョンと何もちが食べたいか話し合っていたロナルド君を風呂へ追い立てた後、キッチンの炊飯器を開ける。昨日に炊いたご飯が冷蔵庫に余っていたことから、今晩はまだ使っていなかったのは運が良かった。本格的に作るならば日通し浸水してから蒸すべきなのだろうが、ジョンも若造もすっかり餅の口になっているだろうしここは時短重視でお手軽に。
もち米を米用の計量カップで計り、およそ二合を炊飯器の内釜へ投入して水ですすぎ洗いする。うちの城に限って余るなど有り得まいが、餅のカロリーは侮れない。おせちや雑煮を食べてこたつでごろ寝しながら蜜柑をヌシャっていたジョンのおムニ加減を考慮し、かつロナ造や来訪者の食欲も考えた上でほどほどの分量を炊くこととした。
すすぎ洗い、とぎ洗いを手早く行い、水に浸して炊飯器の電源を入れる。もち米は水をよく吸うので、今回は浸水する時間を敢えて設けないことに。
モード選択ボタンを押して「おこわ」を設定し、炊飯をスタートさせた。一時間も経った頃には炊き上がっていることだろう。
その間に餅のトッピングを準備することにした。醤油に海苔、きな粉、餡子といった和風から、ココアパウダー、チーズにケチャップと洋風まで色々なアレンジを試すことができるのが餅という食材である。油断すると容赦なく息を詰まらせるものに何故人間はああも惹かれるのかと疑問に思わなくもないが、その脅威を凌駕するほどの面白さと味わいがあるのだと想像することは容易い。
今回は磯辺焼き風に海苔と醤油、もう一種類の味としてきな粉を使うことにする。
「きな粉に塩を一つまみ
……
さて、どうかな?」
「ヌヌヌー
……
ヌッヌー!」
「よーし、ありがとうジョン」
醤油に砂糖、きな粉へ砂糖と塩を混ぜ、ジョンに味見を頼みながらの調整は滞りなく終わった。ここから余る時間は風呂から上がったロナルド君へちょっかいをかける為のものとなるだろう。
「ドラ公、餅は⁈」
「炊き終わってもいないから落ち着いて髪を拭け」
ジャージ姿でダイニングに戻ってきたロナルド君は頭髪から水滴をぽたぽたと垂らし、肩に引っかけているタオルをろくに使っていないことが丸わかりだった。どれだけ餅が楽しみなんだこの若造は。これで「今日は餅じゃなくてセロリ入りの山菜おこわだぞ」と言ったら泣きながら私を殴り殺し、床を転げ回るのだろうな。
それはそれで面白そうだったが、もち米は炊き上がった後の蒸らし時間が勝負なので無闇に場を混沌とする言動は自重しておく。うーん流石は紳士のドラちゃん。
「ほら、拭いてやるからこっち座って」
ロナルド君の肩からタオルを取り上げ、水気をたっぷり含んだ銀の髪へ宛がう。
「っ、お」
急に頭に布が被さり居心地悪そうに身動ぎした彼だが、やがてダイニングの椅子へ素直に座り、私の手にされるがままとなった。こういう時のロナルド君は、普段の打てば響くような暴力ゴリラっぷりを引っ込めて大人しい。私が毎度、若造の手入れに勤しむか悪戯を仕掛けて笑い飛ばすかの二択に迷い、忍耐強く前者を多く選び取ってきた成果である。
「君、ドライヤー使わないならせめてタオルドライぐらいはちゃんとやりたまえよ。吸血鬼退治人というのは、人に見られる仕事でもあるだろう?」
「るっせ、そんな気にしなくてもいいだろ。俺たちは役者とかモデルとかじゃねーんだから」
「あーやだやだこれだから将来性のない若造は。いいかね、髪と頭皮のケアを疎かにし続ければ、いつか必ず痛い目を見るぞ」
「痛い目だぁ?」
「具体的には
……
ハゲる」
耳元で声を低めて囁くと、ロナルド君の肩が面白いほどに大きく跳ねた。手首に勢いよく当たってちょっと死んだのはご愛敬。
「お
……
俺は強いから大丈夫だ」
「髪と頭皮まで筋肉で解決できると思うなよゴリ造」
水気が取れてきた頭からタオルを外し、しっとりとした前髪をたくし上げて額へ口づけを贈る。
「そのハンサム面に似合う青白い月光のような銀色を維持したくば、もう少しヘアケアに気を遣うことだ」
「
…………
お前さぁ」
「何かね?」
「いや
……
別に」
俯いて視線を逸らすロナルド君。立ち上がる様子もないので再びタオルを被せ、耳に残った水分を拭っていく。
打っては響く煽り合いがなく、積極的に殺されることのない雰囲気。静けさの中で、混ぜたクリームの状態を確認するように相手の反応を密かに見る時間も悪くない。
◇
炊飯器のアラームが鳴った後、十五分放置して蒸らしてから蓋を開ける。しゃもじで白く艶がかったもち米を軽くかき混ぜてみれば、いい感じの粘り気。
「ふむ、炊き上がりは問題ないな。では力仕事は任せたぞロナルド君」
「おうよ」
腕まくりしたロナルド君が濡れ布巾を敷いたテーブルの上へ内釜を置き、水で濡らした麺棒を手に持って構えた。事務所を探せば臼と杵も見つかりそうな気もするが、即席の餅つき道具としてはこれでも十分だろう。
「ヌンヌヌー!」
「応援ありがと~ジョン、もっちもちのお餅にしてみせるからな~!」
「勢い余って内釜ぶっ壊すなよゴリ造」
こっちの忠告を聞いているのかいないのか、ロナルド君は麺棒を掲げて勢いよく内釜のもち米へ振り下ろす。そこからぺったんぺったんとジョンの合いの手と一緒に餅つきする姿は面白いというか、微笑ましいと思わなくもない。これは暫く、電動餅つき機を買わなくとも良さそうだ。
ふと思い立ってスマホを手に取り、テーブルへカメラを向けた。ジョン、そして麺棒を振るうロナ造の首から下が収まっているのを確認し、録画を開始する。
短い電子音と、スマホのレンズを構え続ける私の様子にロナルド君が餅つきを一時中断する。傍に置いてあった水の入ったボウルへ麺棒の先端を浸しつつ、怪訝そうに首を傾げた。
「何撮ってんだよ」
「何って
……
記念に?」
「記念て。餅つき記念?」
「まぁそんな感じ」
「ふーん」
事務所の様子をスマホで撮るのは私もジョンもロナルド君も、日常的によくやっていることだ。特にそれ以上不審がられることもなく、彼は麺棒を振るうのを再開した。
「配信とかに使うのか?」
「いや、今回はただの記録。くれぐれも取れ高狙いで余計なことをするなよ」
ドラドラちゃんねるに時折音声と姿が入り込む赤い服のゴリラが退治人ロナルドであることは、最早暗黙の了解や公然の秘密という感じになっている。最近ではそれを利用して、演出上の都合で顔と名前を伏せロナルド君を撮った動画を投稿したり、配信にゲスト出演させることもあった。もっとも、迂闊に脱稿ハイの有様を晒したり勝手に料理に挑戦してクッキングバカをやらかす様をネットの海に放流したらチャンネルともども消し炭となりかねない。基本的に無難なトレーニング動画を投稿したり、如何なる罵倒も許される領域のクソゲーをプレイさせたりする範疇に留めていた。
流石にこの餅つきで燃え上がる可能性は低いと思うが、一応は料理である。何となく和むとはいえ絵面はジョンの手拍子に合わせて若造が麺棒を上下に動かすだけの単調なものだし、チャンネルに投稿する程でもあるまい。
……
それに。
「ふぅー、もうちょいか?」
「うむ、だいぶ滑らかになってきたな」
内釜の中で完成形に近づいてきた餅をチェックする傍ら、剥き出しの腕で額を拭うロナルド君を一瞥する。
予備室に敷いたマットレスへ、昨晩散々爪を立てていた手。こちらを絞め殺さぬよう、恐る恐る私の背中へ縋ろうとした腕。彼自身にも気づかせないまま、腋に残した薄い歯の跡。
それらを億が一にも他者に悟らせたり共有されたりすることなど到底許せることではない。
誰にも晒せない、私のロナルド君の記録。きっとこの先、ますます増えていくだろう。これは不吉な予感ではなく、甘美な期待だ。
◇
つきたての餅を小さく千切り分けて、またくっつかないよう大皿へ移す。
「いただきます!」
「ヌヌヌヌヌヌ!」
「はい、どうぞ」
磯辺焼き風の醤油だれに付けて海苔を巻いたり、きな粉を白い餅に余すところなくまぶしたりし、思い思いに餅を味わう一人と一匹を眺める。もち米の残りはもっと凝ったものに使ってやろうと構想を練りながら、私はおもむろにスマホを構えて写真を撮っていた。
小さな餅がたくさん乗った大皿へ、人間とアルマジロの手が伸ばされている一枚。何気ない日常の一コマを世界に見せびらかし、もといリスナーへドラドラちゃんの生活感をシェアしてあげるべく、青い鳥が追い出されたSNSの投稿ボタンを押した。
懐に隠したいたいものが増えるのと同じぐらい、広げて見せたいものも増えていくのである。
◇
◇
◇
数日後。
「さてと、餅も食べきったことだしまた炊こうか」
「よし、餅つきは任せろ」
腕まくりして意気込むロナルド君へ、私は笑いながら背に隠していた緑の野菜(下等吸血鬼化済み)を見せる。
「いや今度は山菜おこわセロリ入りブヘーーーーー!」
きりもみ回転しながらタックルで私をぶっ殺したバカ造は、もんどりうって床にひっくり返り、そのまま呻き声を上げて動かなくなった。これこれ、いつもの。こういうのが面白いんだ、私の恋人は。
「冗談、今日は小豆をたっぷり入れた赤飯だよ」
縁起物をしっかり食べ、これからも楽しませてくれますように。
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