雨降り帰宅

雨が降ったらジグさんはおかん(世話焼き)レベルがMAXになります。ただし、おふざけは許しません。

「うしっ、完成っと。」
なべの火を消し、顔を上げた。カチコチカチコチと規則正しい音に混じってザアザアと雨の音が聞こえる。雲行きが怪しいとは思ったが、とうとう降り出したか。
グリダニアではこんな天気の急激な変化も、わりと日常茶飯事 にちじょうさはんじだから然程 さほど驚かねえ。雷が鳴らないだけまだマシだ。それはそれとして。
……よく降るな。」
いまだ帰らない相棒兼恋人の事が気にかかる。今日は日帰りで明るいうちに帰れそうだって言ってたのに、もうとっくに日は暮れ、 あたりは真っ暗だ。
予定が変わったら連絡しろって口が酸っぱくなる程伝えているから、 ぽどの事がねえ限り、音沙汰 おとさた無しで帰ってこねえって事はねえんだがなあ。
そんなヤワなヤツじゃねえって事は分かっちゃいるが、この水神サリャクの水瓶 みずがめをひっくり返したような土砂降りの天気になんとも心配になる。
……どこかで雨宿 あまやどりしてるって可能性もあるか。
そう思い至って、目を閉じた。意識を集中し、遠くの獲物を狙うような感覚で周囲のエーテルを探る。目的の光は思ったよりも家の近く見つかった。
なんだ、もうそこまで来てたのか。
無事である事にホッとしてゆっくり目を開ける。
二、三度 まばたきをして部屋の まぶしさを緩和 かんわすると、風呂場に向かいバスタブに湯を そそいだ。多分アイツが入る頃にはまってるだろう。風邪ひくような季節じゃねえが、冷えたままじゃ体調 くずしちまう。俺と違って体力勝負の仕事だ。コンディションは常に万全 ばんぜんにしておく事にしたことはねえだろう。
玄関に移動して階段下の収納からタオルとタープを取り出す。移動させたハットスタンドと階段の手すりとでタープを張り終わったところで、ガチャリとドアが開いた。
「おかえり。ひっでぇ格好だな。」
「ただいま。まあ、しょうがないよ。いつもの事だし。」
苦笑する俺に、アイツは あきらめたようにため息をつく。広げたタオルを頭から かぶせてわしゃわしゃと髪をいてやれば、少し迷惑そうに顔を しかめた。
「雨具は持ってかなかったのか?」
「気象予報士に聞いたら日中は降らないって言ったからね。持っていかなかったよ。荷物になるし。」
「せめてレインコートくらいは持ってけよ。仕事中雨降ったらどうする気だったんだ?」
あまりの言い分に苦言 くげんすりゃ、タオルの下から深緑の目が見上げてくる。
「知ってる?皇都の人間って傘を使わないんだよ。」
少し得意げなその表情が無性に いらつき、力任せに髪をかき混ぜた。抗議 こうぎの声が聞こえたが、無視だ、無視っ!
そのまま頭からタオルを はずし、軽く叩くように体の水気も ぬぐっていく。
「何、してくれるんだよ、もう。」
乱れた髪を手で直しながら不貞腐 ふてくされる態度に かまわず、上着のめ金を外し脱がせてタープにかけ、腰のベルトから双剣を抜く。それを玄関のチェストの上に安置 あんちするついでに室内履きを出して、ブーツの紐を解いてやった。さて、と。俺が出来るのはここまでだ。
「向こうで傘使わねえのは、降るのが雪だからだろ。雨なんて ほとんど降らねえじゃねえか。」
あきれて物申 ものもうせば唇を とがらせて言い返される。
「今は知らないけど、オレがいた頃は降っていたよ?」
「降るったってせいぜい通り雨くれえで、こんな土砂降りなんか無かっただろうが。いい加減なこと言ってんなよ。」
これでも霊災前にほんの数年だけど暮らしてた事があるから、向こうの気候事情だって知ってるっての。それを此方 こっちと比べて屁理屈 へりくつこねるアイツに腹が立つ。人の気も知らねえで。
水気で重くなったタオルをタープに放り、新しく乾いたタオルを乱暴に頭に被せた。目隠しするような加減にしたのはせめてもの抵抗だ。
「ほら、後は自分でやれ。暗器とベルトは下のタープに、服は上のタープにかけとけ。ブーツはれてんだから靴箱入れんじゃねえぞ。他のと一緒にそこに置いとけよ。」
我ながら甘いなとは思うが、これも性分 しょうぶんと惚れた弱み。 あきらめのため息をつきながら きびすを返す。
「あと、風呂溜めてるから、脱いだら速攻で入れよ。いいな?」
首だけ後ろに向けて言い捨てて歩を進めようとすれば、くんとエプロンの すそが引かれた。
……ごめん。怒った?」
小さなか細い声に改めて大仰 おおぎょうにため息をつくと、その冷たくなった細い手首に軽く尻尾を巻き付ける。
……別に怒ってねえよ。それよか早く風呂入れ。風邪ひくぞ。」
てしてしと先端で軽く腕を叩いて、スルリと拘束を解いた。小さく うなずいたのが分かったから、振り返らずにキッチンへ向かう。鍋に再度火を入れたその背後でゴソゴソパタパタ聞こえたから、きっと素直に風呂へ向かったんだろうな。
やれやれと首の後ろに手をあてて火加減を調節していると、またエプロンの裾が小さく引かれた。
「ジグ。」
「なんだよ?」
「いつも、ありがとう。」
柔らかいアルトの声で ささやいて、するりと離れていく。その優しい響きに顔に熱が集まっていくのを、鍋をき回すことで誤魔化した。

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