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ちよど
2025-01-31 12:23:32
1994文字
Public
ビマヨダ
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雨の後
生前ビマヨダ。川流し前です。
ちょっとヨダナくんが曇っています。
ビマくん「そうやって俺達はずっとずっと一緒にいるのだ。」
スヨーダナが予測した通り。急な激しい雨が地面を滅多打ちにしていた。
季節外れの大雨に安全のためひとつの宮殿に集められた106人の子供たちはそれぞれ好きなところで過ごしている。大人たちは河の氾濫がどうとか作物の出来がどうとか不安ばかりを口にしていたが、俺は構わずにスヨーダナを探していた。
さっきまで一緒に川遊びをしていたから涼しい噴水のある部屋で火照った体を休めているだろう。
そう思って訪ねた部屋では何人かの従兄弟たちが椅子に体を預けていたが、スヨーダナの姿はなかった。
「なにしに来たんだ、ビーマ」
いつもより硬いドゥフシャーサナの声に俺は思わず瞬きする。
他の従兄弟たちは何も言わずそんな俺をじっと見ていた。
うっかり従兄弟を怪我させてしまった時に似た対応に心当たりがない俺は首を傾げる。さっきまで一緒に川遊びしていた時は普通だったのに。
「──スヨーダナはどこだ?」
「知らねぇ、」
俺が何かをしでかしたら必ず怒ってくれる従兄弟の居場所を尋ねると、ドゥフシャーサナは顔を歪めてそっぽを向いた。
答える気のない様子に俺はうなだれて部屋を出た。
雨の音は強くなるばかりで、風に揺らされた木々の悲鳴が宮殿の中にまで届いている。どの部屋を見ても、掛けられた色とりどりの布をめくってもスヨーダナはおらず、俺は宮殿と宮殿を繋ぐ回廊を覗き込んだ。
暴風雨にいつもいる衛士の姿は見えず、真っ黒く闇に沈んだ庭が広がっている。
その庭に動く影。
「スヨーダナっ!!」
走り出した影を追って俺は庭に飛び込んだ。途端に全身が濡れて、雨に押されて体が重くなる。
構わず走って、俺は逃げようとするスヨーダナに勢いよく抱きついた。そのままふたりで地面に転がる。腕の中で泥だらけになったスヨーダナが俺を睨みつけた。
「何の用だ!」
「なんでこんなところにいるんだよっ!!」
スヨーダナの体は冷え切っている。こんな雨の日にずっと外にいるなんて大人たちにこっぴどく怒られるだろう。
「おまえには関係ない!!」
雨音よりも大きな声でスヨーダナは叫んだ。
何にか分からないけどスヨーダナが意地になっているのが分かって俺は考えを巡らせる。
なんとか静かにスヨーダナを宮殿の中に連れ戻し、バレないように体を拭いて服を着替えさせてやりたい。
そうすれば、きっと大人たちはスヨーダナを見つけて──。
「だって、まだ褒めてもらってないだろう?」
俺の言葉にスヨーダナは目を瞠った。大人しくなった賢い従兄弟に俺は言葉を続ける。
「この大雨を予測したのはスヨーダナじゃないか。そのおかげで河の近くにいた人たちは避難出来たんだから」
さっき、俺達が川遊びをしていたらスヨーダナが突然空を指さしたのだ。
──もうすぐ大雨が来る。みんな河から出ろ!
雲の形が風の向きがと難しいことを言うスヨーダナに大人たちは顔を歪めるばかりで動こうとしない。
そのうちに、凶兆の子が
…
などと囁き始めたので俺は叫んだのだ。
──スヨーダナの言う通りだ!風の向きが変わったから大雨が来る!!
俺が風の神ヴァーユの子であるのはみんな知っている。
慌てて河から逃げ出した人々をスヨーダナはずっと見ていた。
そうして、すぐにその言葉通りに大雨が降り出したのだ。
「だから、スヨーダナは褒めてもらえるだろ?」
繰り返した俺に雨でびしょびしょになった顔でスヨーダナは口元を歪めた。
「大雨が来るのは分かったのはおまえもだろう? ヴァーユの子」
「? 俺はスヨーダナが言ったから話を合わせただけだよ?」
スヨーダナの顔から表情が抜け落ちた。
「風の向きで雨が降るかどうか分かるなんて、スヨーダナはすごいな」
笑いかけると、スヨーダナの顔がゆっくりと笑みの形に変わる。
「そうか。──そうか。俺とおまえはこんなにも違うのか」
「俺とスヨーダナが違うのは当たり前だろ?」
俺たち神の子と人間は違うのだと、大人たちはいつも言っている。
そう伝えるとスヨーダナは笑みを深くした。その顔を雨が流れていく。叩きつける雨粒から少しでもスヨーダナを庇おうと俺はその体を抱き寄せた。
「ビーマ。
…
今度、また一緒に川遊びをしてくれるか?」
腕の中で呟かれた声に俺の胸は弾んだ。
「もちろん!! 雨が止んだらすぐ行こう!」
「じゃあ、おまえのために特別なお菓子をいっぱい用意してやろう」
くすくすと笑いながら言うスヨーダナに胸を押されて、俺はその体を開放した。雨に打たれながら自力で立ち上がったスヨーダナが俺に手を差し伸べる。
俺はためらいなくその手をつかんだ。
「楽しみだな」
「ああ、楽しみだ」
この激しい雨が止めば、またいつものようにスヨーダナと遊べる。そうやって俺達はずっとずっと一緒にいるのだ。
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