77nairo
2025-02-01 23:01:00
974文字
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温泉


 もうもうと湯気を上げる湯船に指先をつけて、すぐに引っ込めた。乳白色の湯は、見た目通りに熱い。
 他の同期たちが熱い熱いと言いながらもさっさと湯船に浸かっていくのを横目に見ながら、松本はとりあえず風呂の縁に腰掛け、足先を湯にひたした。
「なんだ松本、入んねのが? ええ湯だぞ」
「ベシ」
 ええ湯、と言いつつも、河田の顔は真っ赤だ。深津にいたってはほぼゆでダコに近い顔色をしている。松本は感心半分呆れ半分でため息をついた。
「お前ら、よく入ってられるな」
「これくらい、真夏の体育館に比べればぬるま湯だベシ」
「ははっ、違えねえ」
 それとこれとは話が別だろうと思ったけれど、ほんの数か月前のあの暑さを思い出すと確かに温泉のほうがマシな気がしてくる。閉め切って蒸し風呂のようになった体育館、そして勝つまで終われないOB戦は、それくらいキツかった。ついでに言えば、足だけ湯船に入っている状態で身体が冷えてきてもいる。
 松本は覚悟を決めて、えいやっと湯船に滑り込んだ。
……はぁ」
 一瞬止めていた息をゆっくり吐き出す。熱いけれど、普段寮で入っている風呂の湯よりも肌当たりが柔らかい気がする。松本は手のひらで湯をすくって、ざぶざぶと顔を洗った。
「うわ、ジジくさ」
 失礼極まりないセリフが頭の上から落ちてきて、湯船にちゃぷんと波が立つ。松本がぐっと睨みつけると、隣に滑り込んできた一之倉はふふんと鼻を鳴らした。
「まあでも、松本のほうが年上だもんね。しょうがないか」
「年上ったって、半年しか変わらねえだろ」
「半年でも年上は年上です〜」
 けらけらと笑った一之倉の手が、ふいに松本の太腿に触れた。その手を逃さないように、握りしめる。湯に浸かって三十秒と経っていないはずなのに、一之倉の頬がゆでダコのように真っ赤になった。
 ざぶんと大波を立てて、河田と深津が立ち上がる。
「はーなんか急に熱くなっちまったなぁ」
「真夏の体育館より熱いベシ」
「のぼせだら明日の試合に差し支えるがらなぁ」
「ほどほどにして上がるベシ」
 白々しいセリフを吐いて、河田と深津が松本に目配せをした。一之倉はついさっきまで軽口を叩いていたとは思えないほど静かに俯いている。
「わかってる、ほどほどにしとく」
 乳白色の湯の中で、松本の手が柔らかく握り返された。