聞いたことのない甲高い音が環の鼓膜を突き刺す。痺れているのはそこだけではなくて、聴覚から全身の神経をも麻痺させるタイプなのだろうか。
まずった。
苦々しく歪めた唇をぎりりと歯で噛みきればほんの少し身体に自由が戻った。
油断しないようになどと甘い言葉をかけてくれる主ではないし、自分としてもそこまで気を抜いていたつもりもない。しかし経験したことのない戦い方をする相手、環自身も気がつかなかった弱点を突いてくる相手はあっさりと優位を取り奪わせてくれない。
音の出所は掴めているのに近付こうとすると身体の自由が利かなくなる。
視覚以外の感覚に、失った視覚の分を足して戦う。そんな環に故郷で敵う人間などいなかった。
まさか音が攻撃手段になるとは思わなかったのだ。いつも轟々と砂嵐が舞いその音が昼も夜も叫び続けるあの惑星では、生半可な音は騒音を増幅させるだけで。
それ単体で何かを成すものがあるだなんて知るわけねーだろ。
唇を伝うものをぺろりと舐めて、それでも環は音へ近づく。身体が動かなくても進まねばならない。この後使い物にならなくなっても構わない。
だってあいつは酷いことを言った。
お前、青空を知らないのか?
自分達の知る空は昼の茶色と夜の暗闇だけだ。遥か遠く旅人が残していった本に描かれていた青空というもの。どんな色なのか、その時の環にはもう知る由もなかったけれど。けれど主が子供のように、たった一度だけ言ったのだ。
あおぞら、みてみたいなぁ。
だから環は進まねばならない。何の意味もないことだとしても。あの日泣いているように、笑っているように、諦めたように呟いたその人の願いを嗤ったものに、死を。
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