ssblast_is
2017-11-25 00:22:40
1254文字
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『久しぶり』

※ヤマタマワンライより

わざと音を立てて閉められた扉。
響く足音は数歩先の彼の部屋の扉をも鳴かせて遠のいた。
床に落ちた一滴の雫が、事の大きさを物語る。
零した溜め息は自嘲も自虐も含んで、簡単には宙に消えてくれなかった。
「もうヤダ!もうしらねー!」
出会った頃すぐにそうやって喚いていた彼の言葉。
けれど先程発されたそれには、その頃にはなかった重みが乗っていた。
本気で言っているのではない。と、思いたい。
自信を無くしてしまうほどに傷つけたつもりはない、というのもやはり自分一人の感覚で、ああ見えて傷つきやすい彼の胸にどれほどの大きさのガラスが突き刺さったかわからないままでいる。
倒れるようにベッドに寝転べば、その上に投げ捨てられた雑誌が目に入った。
握りしめたように皺のついたページには大きな見出しと不鮮明な写真。
「飯行っただけだし、他にも人いたんだけどなぁ」
悪意の塊のような記事に故意に切り取られたツーショット。
今更こんなものに踊らされるなんて、と言ってしまえばそれまでだがきっとこれはトドメだったのだろう。
降り積もった雪はいつしか大きな山になり、何かの拍子で雪崩を起こしてしまう。
口出しをしないタイプだからと言って交友関係が気にならない訳ではない。
彼が不満を口にしたのはこれが初めてではない。
けれど幾分か我慢を覚えた彼は、その覚えたことを自分との関係でもするようになり、それにずるずると甘えてきたのは自分の方だった。
じゃれ合いのような口喧嘩はそれなりにあったし、お互い察知して避けていた節もある。
そのせいで積もったものがここにきて爆発した。
「俺がガキで、男だから」
雑誌と共に投げられた久しぶりの言葉は、皮膚を抉られた時のように血流が廻る度にじくじくと痛む。
泣かせたくなかった。
それがはらりと彼の頬を伝った瞬間、ドラマで何度も撮ったものより早く、遅く、そう思ったし、腕は伸ばせなくて。
口にできたのは事実の面を被ったありふれた言い訳。
そんなことよりももっと伝えなければいけないことがあったのに。
「情けねえな」
彼は今頃お気に入りのぬいぐるみを濡らしているだろうか。
それともゲームに怒りをぶつけているだろうか。
知っただけ解らなくなる彼のことに、些細なことで喧嘩をしていたあの頃を思い出す。
泣かせて、謝って、抱き締めて。そして伝えてきた。
そんなことももう随分としていない。
それだけ自分は甘えて、大事なことを彼に伝えそびれてきたのだ。
言葉にして。言ってくれないと分からない。
彼が度々言っているそれを相方へのものだけだと、思い込んでしまっていた。
紙についた皺よりも深く、彼は不安に駆られていたはずなのに。
「っ」
己の頬を両手て叩いて起き上がる。
元凶となった紙の束は己への戒めとしてそっと引き出しにしまった。
許し請う前に大事なことを伝えよう。
何度伝えたって色褪せることのない、長らく口にしていなかった言葉。
「俺にとってタマが一番。俺は、タマのことが好き」