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ssblast_is
2017-05-17 16:39:57
2271文字
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※evanescentの続き。大和←環。環が一部記憶喪失。
あの日の夢が影となって、まとわりついて離れない。
「なありっくん」
夜更けに現れた彼を出迎えて、適当に見ていたテレビの音量を少し下げると陸は深刻そうな顔をした訪問者の隣に座った。
「どうしたの?」
「
……
俺と、ヤマさんって、さ」
「うん」
歯切れ悪く話しだした環の言葉を陸はじっと待つ。
聞いているよと相槌を打ちながら。
打ち明けにくいことほど本当は誰かに聞いてほしいことだから。
「仲良かったの、かな」
環が倒れてから環と大和の関係は変わってしまった。
大和が築いた砦のせいで今、大和と話ができるメンバーはいない。
だからみんな変わってしまったと言えばそうなのだけれど、そうではなくて環の方も変わってしまった。
陸でもわかるくらいに大和との想い出を忘れてしまったのだ。
「良かったよ」
小遣い稼ぎと称しながら肩たたきをしたことも、リビングで二人で肩を寄せ合って昼寝をしていたことも、大和が作った弁当に感激してSNSに投稿したことも、大和に褒められて目を輝かせたことも、みんなみんな忘れてしまった。
忘れて、ただのメンバーとそのリーダーになってしまった。
「
…
そっか」
「やっぱりって思った?」
「なんでわかんの」
「そんな顔してる」
陸ができることは、きっと、そんなに多くない。
忘れてしまった環の代わりに想い出を語ってやることくらいだ。
痛むのであろう頭を押さえながら環は一つ一つ想い出を聞いていく。
「そんなこと、あったんだ」
「あったんだよ。俺が知らないだけで他にもきっとたくさん」
「なんにも覚えて、ない
…
」
頭を抱え込むようにして蹲ってしまった環の頭をそっと撫でてやる。
彼が本当に欲しいのは自分の手ではないだろうけど、今はこれで我慢してほしい。
「今は覚えてなくても環の中からなくなった訳じゃない」
「
…
ん」
「だから怖がらなくていいんだよ」
空気の震えで環が息を潜めたことがわかった。
陸はそのまま環の頭を撫で続ける。
「いたい、いたいんだ
…
」
「うん」
「いたいのに
……
」
痛いのか、居たいのか。
大和が帰ってきた時、そこに環がいなければ駄目だ。
ただのメンバーとリーダーではなく、陽だまりでそっと寄り添うように笑いあっていた二人でないと駄目なのだ。
その日はそのまま環を慰めるように二人で眠った。
明かりの消えた廊下。
差し込む夕日だけが照らすリビングが苦しくて部屋に戻ろうと思ったのに。
自分の部屋よりも幾分か先のこの部屋の前に足が向いてしまった。
一人きりの寮内は静けさに支配されて、それに慣れない環に重くのしかかる。
鍵もかけられずに主人を待つ部屋は簡単に開くのに埃っぽさは感じられない。
いつ帰ってきてもいいように壮五がこまめに換気をしていると言っていた。
みんな大和の帰りを待っている。
じゃあ自分は。
忘れてしまって、あの日に置き去りにしてきてしまった自分は彼の帰りを待っているのだろうか。
「タマキ?」
「ナギっち
……
」
まるで海外ドラマのように開けられた扉にもたれる彼の髪が夕日に煌めていてオレンジに染まる。
「何か探し物でも?」
探し物。そうかもしれない。
「ちょっとな」
「ワタシで良ければお手伝いしましょうか」
細められたブルーグリーンの瞳に促されるまま環は主のいないベッドへ腰かけた。
音を極力立てずに閉められた扉。
背負っていた鞄を床に置いてナギも環の隣に腰かける。
「おかえり」
「ただいま」
「ナギっちだけ?」
「ええ、ワタシだけです」
モデルのお仕事でしたからと、長い足を組んでポーズを取ってくれたナギはそのまま手を組んで名探偵モードへ入る。
その時も、何かあったはずなのにそこだけ靄がかかって上手く思い出せない。
「それで、探し物とは」
「あの日に置いてきちまった物全部」
「hm
…
それは難しいお題ですね」
「
……
ヤマさん、出てったんだろ」
「思い出したのですか」
映画撮影のための泊まり込みだなんて嘘だと環にもわかるくらいにみんなの空気は重い。
「思い出せないけど、わかんよ」
「そうですか
…
」
「りっくんに聞いたんだ、俺とヤマさん仲が良かったって」
「ええ、仲良しでしたね」
「でも、それだけだったのかな」
仲が良かっただけなら、あんな夢は見ない。
いつかの日、無意識に縋ってしまった手。
「失くしちまった鍵が、鍵のかかった箱に入ってる感じ」
「開けたいのに開ける手段がない?」
「ん」
「スマートな方法で行けば合鍵を作ってしまえばいいのですよ」
「スマートじゃない方は?」
「斧で叩き壊してしまいましょう」
「ぶは」
「だって結論はでているじゃないですか」
どちらにしたって箱を開けたいという気持ちは変わらない。
「
…
俺、ヤマさんのこと、好き、だったのかな」
「それを答えることこそスマートじゃないですね」
もう答えは出ている。
都合よく失くした記憶。
裏を返せばそれだけ大事だったはずで。
「ありがとな、ナギっち」
鍵ごと詰め込んでしまった箱を壊しに行こう。
合鍵を作るなんて真似は自分には似合わない。
「また何かあれば名探偵六弥ナギにお任せを」
それにいつまでも待っているなんてことも性に合わない。
あの日のことを覚えていない自分だからこそ切り込めることもある。
まだ頭は痛むけれど、この部屋に入った時の違和感よりはマシなはずだ。
見送るナギを背に環はどうしようもない想いを抱えて走り出した。
自分よりずっと手のかかるどうしようもない大人を迎えにいくために。
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