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ssblast_is
2017-05-13 04:55:55
3361文字
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evanescent
大和←環。三部三章五話後の捏造話。環が一部記憶喪失。
馬鹿だと言った唇が戦慄く。
お前が言うかと言われて、何も言えなかった。
苦しい。
頬を伝う涙が床に零れて、息を吸おうとした時に嫌な音がした。
気管支が締め付けられる音。
陸が混乱して発作を起こしたのかもしれない。
ナギが泣いている、壮五が戸惑っている。
苦しい、苦しい。
どうしてだろう身体が動かない。
早く慰めなくてはいけないのに。
指先が痺れる。
赤い瞳が駆け寄ってこちらを見た。
おかしい、陸が発作を起こしたのではないのか。
ならば先程のあれはなんだ。
指先が痺れる。心臓の音が煩い。視界が歪む。
苦しい、苦しい、苦しい。
どうして出ていくの。
どうして一人になろうとするの。
言いたいことがたくさんあるのに言葉が出ない。
汚い呼吸音になって吸い込まれていく。
ヤマさん。ヤマさん。
名前を呼びたいのに声が出ない。
追いかけたい。追いかけなければ。
痺れる脚を踏み出して手を伸ばした瞬間、景色がぐるりと回って鈍い痛みが全身に走る。
おれをおいていかないで。
それを言葉にできないまま環の意識はそこで途切れた。
目が覚めると、そこは見慣れない真っ白な部屋だった。
「環くん、目を覚ましたんだね」
いつもより幾分か目の下の隈を深くした壮五が椅子に座ってこちらを見ている。
枕元にぶら下がったナースコールを押してほっとしたように息を吐いた。
「ここ、病院?」
「そうだよ」
「なんで」
「環くん過呼吸を起こして倒れたんだ。頭を打ったみたいだから念のため、ね」
「なんで」
「なんでってそれは
…
」
「四葉さんお加減どうですか」
病室に入ってきた医師と看護師に遮られて壮五はそこで言葉を止めた。
「別に。なんともない、です」
続いて病室に入ってきた陸とナギが見守る中、自分の名前や住所だとか壮五の名前だとか指が何本に見えるかとかを聞かれ昼過ぎには退院できると告げて医師は部屋を出て行った。
「何ともなくてよかったです」
「心配したんだよ環」
一人、二人、三人。
あと三人メンバーが足りない。
「いおりんとかみっきーは。あとついでにヤマさん」
「えっと、それは
…
」
口々に良かった良かったと言っていた三人が示し合わせたかのように黙り込む。
「なんか仕事?それならいいけど」
仕事なら仕事で構わないのだ。どうしても駆けつけられないことがあるくらい環だってわかっている。
「一織くんと三月さんには連絡しておいたよ。でも、大和さんはラビチャが既読にならなくて」
「ふーん」
「ふーんって環くん」
「だって俺とヤマさんそんなに仲いいわけじゃねーし。そーちゃんいるなら別にこなくてもいいって思っただけ」
「環、そんな言い方
…
」
「ちょっと待ってください。タマキ、今ヤマトと仲良くないといいましたか?」
「そうだろ。話すことあんまねーし、嫌いじゃねーけど仲良しってわけでもない」
「え」
「
…
環くん、昨日の夜何があったか覚えてる?」
「昨日の夜?」
昨日の夜は部屋で過ごしていて、大きな音がして、それで。それで。
「っ」
頭が痛い、胸の奥がじりじりと灼けるように熱い。
「い、た
……
あたま、いたい
…
!」
「環くん!」
目を閉じると聞き覚えのない大和の声がする。
お前がそれを言うのか。
冷たくてどこまでも拒絶を孕んだ言葉。
知らない、知らない。
「うあ、あ
…
!」
かぶりを振っても言葉が消えない。
胸は熱いのに足元から急激に冷えていく。
知らないのに知っている。
この拒絶は初めてじゃない。
罵しりの言葉が芋づる式に上がってきて環の脳内で響く。
わからない。怖い。痛い。寒い。熱い。
ぐるぐると渦巻いた何かが行き場を失って環の中を侵食してくる。
駆けつけた医師が何を言っているのかもわからない。
何も聞こえないのに大和の声が離れない。
「 」
「 」
一際頭痛が大きくなりベッドの上で身体を折り曲げ耳を塞ぐ。
「いたい、たすけて、たすけ、て!」
誰に助けてほしいのか、誰に助けられたいのかわからないまま環は叫んだ。
そして頬に雫が伝った時、また環の意識は闇へと沈んでいった。
「環くん!」
今度はそんなに長時間眠っていなかったらしい。
白い部屋の外はまだ明るいままだったし、壮五も変わらず隣に座っていた。
それに今回はなにがあって倒れたのかきちんとわかっている。
「ごめん」
「謝らなくていいよ、ごめんね環くん」
「あんたも謝んなくていい」
仕事に向かったらしい陸とナギの代わりに万理がいて、医師からまた質問を受けた。
覚えていないのは昨日の夜のこと。
それから大和のことを思い出そうとすると頭が痛くなること。
でも大和のことは覚えていて、メンバーでリーダーで、でもそんなに仲は良くないことを話した。
大きな機械を使った検査をして、環の話を聞いた医師が言うには頭をぶつけたことと精神的なショックによる記憶障害だろうとのこと。
日常生活に支障があるような状態ではないため明日には退院できることも告げられ壮五と万理は帰っていった。
その時に事情があり一織と三月は暫く実家に帰っていること、大和は映画の撮影で泊まり込みになることを聞かされた。
真っ白な天井を見上げ環は考える。
あの時もう一人頭の中に自分がいて、何かを言っていた。
伝えられない言葉にならない何かを必死に誰かに伝えようとして、黒い海に飲まれてしまった。
それが何だったのか今の自分にはわからない。
思い出そうとすると頭痛がする。
頭痛がするということはきっと大和に関係することなのだ。
でも、大して仲が良くないはずなのに何故。
見つめた白い天井は答えをくれることはなかった。
環が退院して、一織と三月が寮に帰ってきても大和が帰ってくることはなかった。
七人揃っての仕事でも楽屋におらず仕事が終わればすぐに帰ってしまう。
漂う雰囲気にさしもの環も何かあったのだとわかったがそれを聞こうとするのを心のどこかが止めるのだ。
そんな時にテレビ局の休憩スペースで大和と会った。
「ヤマさん!」
声をかけたのは自分なのに、自分から出た声のトーンに目を丸くしたのは大和ではなく環の方だった。
自分はこんなに親し気に大和に接したことなどないはずなのに。
随分と呼び慣れた声で、口調で、彼の名前を呼んだ。
「なんだよ」
コーヒーの缶を片手に持った大和に、慌てて何でもないと言うと大和は缶を捨てて立ち去ろうとする。
「離せよ」
その服の裾をいつの間にか環は掴んでいて、離せと言われたことに胸がチクリと痛んだ。
「ごめん」
言われるがままに裾を離せば、大和はすぐには去らずに環に話しかけた。
「そういや倒れたんだってな。もう、平気か」
「ん、だいじょーぶ」
「そっか」
ぽん、と頭に手がのせられくしゃくしゃとかき混ぜられた後、大和は去ってしまった。
その日の夜夢を見た。
どこか知らない縁側に二人で腰かけ、日向ぼっこをしている夢。
暖かくて、穏やかで。
大和の手にはビールが握られている。
空いている左手にそっと自分の右手を重ねてみるときゅっと握り返されて心臓が跳ねた。
手の先から伝わる温もりがじわじわと環を満たしていく。
ゆっくりと血液の流れに乗って全身に回った時、たまらずにそっと抱き着いた。
そして大和はビールを置き環の頭を撫でる。
髪の毛を一掬いして弄んで、後頭部の丸みを確かめるように撫でて。
堪えきれずに涙が出た。
「ヤマさん」
そう呼べば、優しい声でタマと呼んでもらえた。
嬉しくて腕の力を強めれば抱き返されて雫が頬を伝う。
ずっとこうしてほしかった。こうされたかった。
どこにも行かないでほしい。
一人になんてならないでほしい。
違う。俺を置いて行かないで。
涙ながらに懇願すれば大和は困ったような顔で笑った。
「どうして、あんな夢
…
」
甘くて優しくて残酷な夢から醒めた環は自分の頬が本当に濡れていることに気が付いた。
あんな夢を見るほど親しかっただろうか。
大和のことを好いていたのだろうか。
自分は一体何を忘れてしまったのだ。
わからないまま布団に潜りこんで大好きなぬいぐるみを抱き締めればもっと涙が溢れて止まらなかった。
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