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ssblast_is
2017-02-26 04:52:03
2209文字
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季節のタルト、二人の思惑を添えて
※お題箱に頂いたリクエストより。「天環、スイーツ食べ放題」
綺麗に磨き抜かれた床にふかふかの絨毯。
天井には豪華なシャンデリア。フロントにいる職員はみなにこやかにそして清潔感溢れる対応で業務をこなす。
そんな様々をきょろきょろと見渡し足を止める環を先導する彼よりいくぶんか小さな背中は待ってくれない。
「待てってば」
小走りで追いかけ丁度きたエレベーターに慌てて乗り込むと乗り合わせた老夫婦は環のことを見てすっと目を逸らした。
「何階ですか」
環が口を開く前に置いていってしまった彼が老夫婦に尋ね行先のボタンを押す。
ほどなくして箱は彼らを目的の階へと運び、先に環たちが窮屈な空間から解放された。
「ほら、いくよ」
開けた先にも煌びやかな世界は広がっていて環はまた置いて行かれてしまう。
「てんてん!置いてくなよ」
何歩か大股で歩き隣に並び立つと白く薄い桃色が透ける様な髪色の彼は、優雅に深紅の絨毯の上を歩く。
「環がいちいち遅いんでしょ」
「だってこんなとこ来た事ねーし」
環の中ではホテルは泊まるところであって食事をしにくる場ではない。
それも泊まるホテルはいつも安っぽいビジネスホテルばかりだし、なんなら寝坊を理由に一人部屋を宛がってもらったこともないのだ。
「だから連れてきてるんだけど」
「は?」
眉間に皺を寄せて顔の覗き込む環に、九条天は言わないとわからない?と小悪魔の笑みを浮かべる。
「わかんねー」
早々に思考を放棄する癖のある環は答えを求めるが天は楽しそうに笑うだけで答えを教えてくれない。
「なんなんだよ」
頬を膨らませて拗ねる環についたからしゃんとしてとぴしゃりと言い放った天はお目当ての受付で名前を告げた。
「九条様、お待ちしておりました」
この場にあまり似つかわしくない普段着の環を見ても眉一つ動かさずににこやかに案内する様は流石一流ホテルと言ったところか。
席につくまでに目に入ったスイーツの数々に目を輝かせ先程のことなどもう忘れている環を見て天は口元だけでくすりと笑う。
「ごゆっくりお楽しみくださいませ」
一礼して去って行った店員を見送り、待ちきれないと顔に書いてある環にどうぞと言えば早足でケーキの方へ向かっていった。
遠目にみなくてもラフな格好で猫耳のついた服を着て身長の高い環は目立つ。
あれこれ迷うでもなく目に入ったスイーツを片っ端から皿に乗せていっている。
こうして嬉しそうな彼を見るとわざわざ予約してまで連れてきた甲斐があったというものだ。
自他ともに認める甘党の彼のことだ、仕事でスイーツビュッフェに来る機会もあるだろう。
その時に今日のことを思い出せばいい。
物を知らない真っ白な彼の思い出をどんどん自分とのもので埋めていく。
それは天の中の密かな楽しみであった。
好きな人が自分の色に染まる。
意識的にも無意識的にも、これから先目にした光景と共に自分のことを思い出せばいい。
一度環が置きに来た皿に盛られたカシスソースよりも暗く、チョコレートケーキよりも甘く、チーズムースよりも純粋に天はそう願っていた。
「ただいま」
「おかえり」
往復一回両手に二皿計四皿。
テーブルの上に並べられた色とりどりの宝石たち。
「先食べてていいよ」
立ち上がりながら天がそう言うと環は首を横に振って答えた。
「んーん、一緒にいただきますしたい」
「じゃあすぐ戻ってくるから」
「ゆっくりでいい」
今すぐにでも食べたいだろうに、こういうところは律儀だ。
天が席を立ちスイーツを見に行くと環はこっそりと溜め息を吐いた。
環の知らないところへいつも天は連れて来てくれる。
テレビでやってたスイーツビュッフェに行きたいと言った環の言葉を覚えていてこうしてオフの日に連れて来てくれた。
みんな揃って綺麗な角度でお辞儀をして、エレベーターのボタンに至るまで磨かれているようなホテルに環は来たことがない。
ホテルだけじゃない。焼肉が食べたいと言えば小皿で何千円という肉が出てくるところに連れて行かれたし、服が見たいと言えばスーパーではなく値札の点いていない服屋に連れて行かれた。
それらが嫌ではないけれど、いつも環の知らない天の顔に出会う。
自分は初めてのことばかりなのに天は初めてじゃない。
誰に教えてもらったの。誰と来たの。誰を連れて行ったの。
言いたいけれど言えない言葉が環の喉元で燻る。
環の知っている世界と天の知っている世界が違い過ぎて、モンブランのように思考の糸がぐるぐるして絡まってしまう。
たくさん考えてもわからなくて最終的には天が好きで一緒に居られればそれでいい。で終わってしまうのだ。
それもなんか悔しくて二回目の溜め息を吐いた時、環に負けず劣らずケーキを乗せた天が戻ってきた。
「何溜め息なんて吐いてるの」
「
……
てんてんのこと好きだなって」
「僕のこと好きだと溜め息が出るの?」
椅子に腰かけながら意地悪そうに笑った天の顔を見て、やっぱり好きだなとバニラより真っ白な白旗を上げる。
「俺にだって色々あんの」
「あ、そう」
見透かすように笑われたのは気にくわないがそれより今は目の前のケーキの山にありつきたい。
手を合わせていただきますをして、二人で皿で城を立てよう。
ここには軽食としてサンドイッチもパスタもある。
口直しには充分だ。
全種類二回は食べたいと心の中で意気込んで、環は一皿目に盛られた季節のタルトに手を伸ばした。
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