ssblast_is
2016-09-11 00:40:59
1856文字
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『夜更かし』

※大環ワンライ




コンコンと彼にしては控えめなノック音が部屋に響く。
そっと扉を開けて出迎えてやればいたずらな笑顔と目が合った。
「へへ、おじゃましまーす」
言うが早いか大和の脇をすり抜けて部屋の真ん中にどっかりと座った環は持ち込んだ菓子でぬいぐるみとパーティを始めている。
「タマ、時間遅いんだからほどほどにな」
へーいと言う返事の合間にはパリパリと小気味いいスナックの音。
揃ってオフの日の前日決まって環は大和の部屋を訪れる。
理由を尋ねた時はきょとんとした顔で恋人ぽいからと答えられ、友人同士のお泊まり会の間違いではないのかと頭を抱えそうになったが環が楽しそうにしているので突っ込むことは止めにした。
「ヤマさんゲームしようぜゲーム」
お気に入りの王様プリンのぬいぐるみをクッション替わりに抱え環は部屋から持ってきた筐体をテレビに接続している。
ちなみにこのゲームは大和からのプレゼントだ。
というのも預金通帳と電気屋のチラシを必死に睨めっこしている姿を見て声をかけたところ
「これほしーけど俺貯金しなきゃなんないからさ、予算オーバーすんだよ」
そう言って何度見ても変わることのない数字を見比べてはため息を吐いた。
何でも欲しいものを手に入れそうなイメージがあるが、意外にもこの子供は妹と暮らすという目標のため堅実に貯金をしている。
今までずっと施設で暮らしてきて周りの子供のように強請る相手のいなかった環は、菓子や漫画など安いものをたかってくることはあっても高額なものは大和にも強請ってくることはなかった。
どうやらこのゲームはネット環境があれば通信対戦ができるらしく学校の友達の間でも流行っているとのことで環の中でもすぐに諦めることができないらしい。
今までそういうのできなかったから、とぽつりと言われてしまえば大和の出した答えは一つだった。
「お兄さんもタマと一緒に遊びたいしな」
と付け加えた結果毎度の襲来にお供としてやってくるようになったのである。
環はこのゲームを相当やりこんでいるようで、そこまで熱中してプレイしてもらえるのであれば名利に尽きるというものだ。
コントローラーがべたつかないようにティッシュを引っ張ってきながら反対の手で開けたてのポテトチップスを摘まむ。
「なんでのりしおにするかなぁ」
「なんか言った?」
いーやなんも」
アクセントになるこの青い海藻は油を拭っても指にはりついたまま時折コントローラーを侵食する。
これは後でコントローラーを拭かねばなるまい。
特に環の持っている方は念入りに。
潔癖症ではないが環ほど雑にはなれず、いつも後始末は大和の仕事だ。
それすら楽しいと思えるほどには甘くはないが、それでも環に甘い自覚はある。
こうやって自分とゲームをするのを楽しみにしている顔を見てしまえば仕方がないと思ってしまうのだから。

こいつでもないあいつでもないと独り言をいいながらキャラクター選択をする環の口元にはさっそく細かいカスがついている。
指で拭ってやってもいいがここは恋人らしく舌で拭ってやろうと顔を近づけると、画面を見ていたはずの環によけられてしまった。
「なにすんだよ」
「お前さんが食べカスつけてるからだろ」
「ふつーにとれよな!ヤマさんのえっち」
自分の手でごしごしと口元を拭った環が大和を睨みつける。
「嫌なら綺麗に食べなさい」
そう言って大和がコントローラーを持ち直すと環が小声で言う。
「い、いやだなんて言ってねーだろ」
「へえ。嫌じゃないんだ」
にやりと唇の端を持ち上げると顔を赤くした環の一発が肩に入る。
「ぐっ」
「だから、そういう事すると、ゲームできなくなんだろ!」
あとで!と言って再びキャラクター選択に戻ってしまった環の頬は赤く染まったままだ。
後でということは環としてもやぶさかではないらしい。
「じゃあ勝った方がやりたい体位で今日はするってのどうよ」
意地悪ついでにそう言ってやればキャラクターを決めた環がこちらを見ずに口を開いた。
「ヤマさんさいてー、へんたい。でものった」
「じゃあお兄さん本気出しちゃおっかな」
「ぜってー負けねえしボッコボコにしてやんよ」
先程のあれでは恥ずかしがるのに、これは恥ずかしがるどころかノリノリで目が輝いている。
ああもう本当にこの子供はどこまで自分を翻弄すれば気が済むのだろう。
いつも予想外のことをしては自分を楽しませてくれる。
愛しい子供とのたのしいたのしい夜更かしは始まったばかりだ。