ssblast_is
2016-05-29 01:51:45
2021文字
Public
 

『王様/騎士』

大環ワンライ

※王様と騎士設定。
ふんわりとした設定で書いてるのでふんわりとした目でお読みください。


ざわざわと騒がしい騎士団寮の食堂は、良くも悪くも情報収集にうってつけだ。
そう言っていたのは、同期のイオリだったか。
面白い話のみならず知りたくもないことまで耳に届いて、タマキはそのたびにうんざりしながらフォークを突き刺して食事ごと胃に流し込んでいた。
今も数人がこちらをちらちらと見ながら噂話に花を咲かせている。
どうせ自分の悪口だろう。
類まれなる剣の腕を見込まれ、若くして小隊の隊長を務めるタマキのことを面白く思わない人物は多い。
ましてや貴族でもなくただの孤児だったタマキが王のお気に入りとくればその風当たりはますます強くなる。
噂ややっかみにいちいち振り回されては身が持たない。
それはここにきてからタマキが学んだことの一つだ。
けれど今日の話はタマキにとって、平静を保つことはできなかった。
「隣国の王が戦争をしかけようとしている」
「国境に騎士団が派遣される予定らしい」
「派遣部隊の指揮官に任命されるのは――。」


「ヤマさん、いる?」
その夜居ても立っても居られず王の私室を訪ねたタマキをいつもと変わらぬ声がどうぞと出迎える。
しかし、ほっとして扉を開けたタマキの目に飛び込んだのは所狭しと広げられた書類に埋もれたヤマトだった。
なに、これ」
普段ヤマトは私室に仕事を持ち込まないし、持ち込ませない。
ぐるりと部屋を見渡せばベットのサイドテーブルにまで書類の束が置かれている。
「それを聴きたくてきたんじゃないの」
動揺するタマキをよそに手に持った書類から目を離すことなくヤマトは言った。
やはり噂は本当だったのだろうか。
タマキの中をぐるぐると色々な感情が駆け巡る。
怖い。悲しい。寂しい。
誰かがいなくなることも、誰かを傷つけることも。
そんなのは、嫌だ。
「ほんとう、なのかよ」
消え入りそうな声で呟いたタマキにようやくヤマトが顔を上げる。
おいで、と手招きをされタマキは素直に傍に寄った。
タマキを招いた右手がするりと頬を撫でくすぐったさに身を震わせると、安心させるように優しくヤマトが告げる。
「どんな尾ひれがついて噂になってるか知らないけど、すぐにタマが心配してるようなことにはならない」
「でも、」
タマキはしどろもどろに隣国には新しく王になった男のみならず好戦的な側近が多いと、食堂で聞いた話をヤマトに告げる。
「はは、好戦的なのは否定できないけど何でもかんでも戦争すればいいと思ってるような馬鹿じゃねえよあいつは。どっちかってーと若い王と側近を妬んで失脚させようとか、その気にさせて戦争させようとしてるジジイどもの方が面倒かなぁ」
ため息をついて両手を広げめんどくせえと笑ったヤマトにタマキの表情は少し明るくなった。
「戦争、ない?」
「そうなるように、お兄さん今頑張ってるんだけど」
張りつめていた糸がほどけるようにゆっくりと息を吐き出すとくしゃりと頭を撫でられる。
「だから安心して、さっさと部屋戻んな」
明日も早いだろと付け加えられ、ヤマトの言葉に安心したタマキは言いつけ通りに部屋に戻ることにした。
自分を見送る視線の本当の意味に気が付かないまま。


足音が遠ざかったことを確認して、ヤマトはため息を吐いた。
タマキに言ったように今すぐ事が起きるわけではないが、国境沿いに隣国の兵が集結していることは事実だ。
隣国の王は好戦的な性格ではあるが無益な殺生は好まない。
兵をだしているのは先王の一派だという。
よくあるお家騒動だが、巻き込まれたこちらはたまったものではない。
何も対処しないという訳にはいかないからだ。
そして国境の監視、防衛の先遣隊としてタマキの名前が上がったこともまた事実であった。
剣の腕は優秀だが監視などの任には不向きと説明し話は消えたが、どこからか嗅ぎ付けたタマキのことを快く思わない連中がその部分を誇張して吹いて回っているのだろう。
特定でき次第そいつらは騎士団長経由で先遣隊に推薦してやるつもりだ。
イオリ辺りに頼めばどちらも容易だろう。
一国の王がたかが騎士団の小隊長に固執するなど馬鹿げているのは百も承知だ。
けれど自分のことを守ると言って笑った、その笑顔こそヤマトの守りたいものだった。
本当は心優しく誰かを傷つけることを怖がるあの子供に剣の才があったのは何の因果だろうか。
いつかこの手で、自らの言葉で、王である自分のために死にに行けと告げなくてはならない時がくるだろう。
避けられないことならば、どうか、彼に生きろと命ずるのも死ねと命ずるのも自分だけであってほしい。
そしてこの想いに気づかずに、前だけを向いていてほしいのだ。
「めんどくせえなぁ」
書類の山から逃避するようにかざした手のひらで、もう残っているはずもないぬくもりがひやりと笑った。