ssblast_is
2016-05-03 03:19:26
2260文字
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雨宿り

大環。君とさんのワンドロイラストを元に書かせて頂きました。

※僭越ながら君とさんのイラストを元に書かせて頂きました。




ぽつり、ぽつりと視界が濡れ大和が空を見上げると、ソレは突然その身に襲い掛かった。
「うわっ」
こちらに身構える隙すら与えず、ほんの僅かな警告の後に辺り一帯を蹂躙する。
視界を奪われ常人よりも反応が遅れた大和の手を引いて環が走り出す。
「ヤマさんこっち!」
引かれるままに駆けだせば、なんてことはない。
すぐそこに安全地帯だ。

「雨マジやべーって」
突然の豪雨に見舞われた大和と環はすぐ近くにあったコンビニの軒下に避難していた。
同じく難を逃れたサラリーマンは鞄の中身の無事を確認し、女子高生は前髪を直しながら雨を睨んでいる。
大和はシャツで適当に眼鏡の水滴を拭くと濡れた環の髪をわしわしと撫でてやる。
「タマさんきゅーな。眼鏡やられっと前見えなくてさ」
「うす」
褒められて嬉しいのか人前なのに手は振り払われなかった。
しかしすぐにその唇を突き出し何かぶつぶつと唱え始める。
「ゴリラ?」
「は?」
「雨。これなんて言うんだっけ。ゴリラじゃなくて」
いきなりゴリラと言われて間抜けな声をださない方が難しい。
当の本人は大和の視線など気にせずにあーとかうーとか言っている。
鞄が無事だったサラリーマンがコンビニの中へ入った時、ようやく思い出せたらしい。
「あれだ。ゲリラなんとか」
「ゲリラ豪雨な」
なんで肝心な雨の方忘れちゃうかな、とからかってやると環はぷいっとそっぽを向いてしまった。
そしてそのまま少し静止したかと思うと急に振り返りコンビニの中へ入っていく。
どうやらデザートコーナーに王様プリンが陳列されているのが目に入ったようだ。
早速手に取ってほくほくとした顔をしているのがガラス越しに見える。
人よりは彼と近しい間柄であると大和は自負しているが、この独特のテンポと思考回路に順応するにはまだまだのようだ。
自分も何か買うかと店に入ると先を急ぐらしいサラリーマンがレジから受け取ったばかりの傘を広げて、ゴリラもといゲリラ豪雨の中へ突撃していった。
頑張れジャパニーズビジネスマンと心の中で応援しながら目ぼしいものを物色する。
初めてきたがここのコンビニはホットスナックに力を入れているようでたい焼きが置いてある。
数種ある中でチョコを選んでしまうのは仕方がないことだろう。

バイトだろう青年がたい焼きをケースから取り出している間に、いつの間にか隣にきた環が手の中の商品をレジに置いていく。
王様プリン、炭酸飲料、ポテトチップス、プリン味の飴。
「おい、タマ」
「ヤマさん。ありがとー?」
間延びした声でにへらと笑われ面食らう。
この子供はいつからこんなに賢くなったのか。
戻ってきた店員が環が無造作に置いた商品を面倒くさそうに追加していく。
仕込んだのはきっとあの七五三辺りだろう。
帰ったらどうしてやろうかと思いながら袋を受け取った。
あざーしたーと送り出されたものの外は未だ土砂降りだ。
前髪を直し続けていた女子高生は自分達に気が付いたのか二度見したあと一瞬固まった。
口に指を当ててしー、と笑いかけてやるとすごい勢いで頷いてくれた。
待ちきれないのか袋からプリンを発掘していた環もそれに気づき大和のマネをする。
どうやら本命は環の方だったらしい、首がもげるんじゃないかというくらい激しく首が動いていた。

「ねーヤマさんそれ何味」
既にプリンの三分の一をその身の糧とした環がたい焼きを取り出した大和に問う。
「これ?チョコ」
「チョコ」
頭から一口かぶりつくとほんのりと舌先にチョコレート。
「食う?」
「食う」
差し出してやるとあーんと大きな口でぱくりと一口。
完全に頭はなくなった。
「でけぇ一口だな」
「ひとくちはひとくちだし」
もぐもぐと美味しそうに租借しながら環は子供らしい屁理屈をこねる。
ごくりとたい焼きを飲み込んだ環が再び標的をプリンに据えた。
しかしスプーンにすくったプリンは何故か環の前を通り過ぎ大和の口元へ運ばれる。
「特別にプリンわけてやんよ」
たい焼きが相当お気に召したのか雨が降ったのはこのせいか、スプーンに乗せたプリンが大和の目の前でふるりと揺れた。
同じようにぱくりと食いつけばプリンならではの甘さとつるりとした触感が舌を刺激する。
「うまい」
「だろ?やっぱ王様プリンが一番うまい」
好物を褒められて嬉しいのか目尻を下げて環が笑う。
その笑顔にどきりとしながら、大和はそれを隠すように依然として勢いを弱めない雨に向き直った。
「雨やまねえな」
「すっげー降ってんな」
「洗濯物やばくねえか」
「誰か寮いたっけ」
ラビチャで聞けば洗濯物の安否も確認できるし迎えも頼めるだろう。
それでも二人ともスマホをだそうとすらしない。
「ゲリラごーうってこんなに長く降るもん?」
「さあ?」
たい焼きも王様プリンも粗方食べてしまった。
先程からちらちらとこちらを見てはスマホと睨めっこしてを繰り返していた女子高生はどうやらお迎えがきたようだ。
彼女は一時停止した車に素早く乗り込むと去り際に手を振ってくれた。
これでこの軒下に逃げ込んだ難民はとうとう大和と環だけになってしまった。
急ぐ用事はないができれば早く帰りたい。
二人ともそう思っているはずなのに手にしたのはビニール製の防具ではなく食料だった。
けれども、それでよかった。

「雨、やまねえな」
雨の匂いと甘い匂いにまじって、ふわりと幸せが香った。