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ssblast_is
2016-04-10 19:58:13
2576文字
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無題
大環。診断メーカーで出た結果より。
愛してる。
後ろから響いたその声は俺の頭を殴りつけて、持っていたスマホは床に落ちた。
ごとりと鈍い音がしたけど俺には拾う余裕はなかった。
だって、さっきまでヤマさんのベッドで二人でゴロゴロして、
俺は漫画読んだりゲームしたりして、
ヤマさんはなんか難しい本とか仕事の台本とか読んでて。
漫画読み終わったし喉渇いたしなんかとってこようと思って俺は立ち上がっただけだった。
愛してると言われるちょっと前。
なんか飲むって聞いた時は普通で、
ビールなんてほざくからまだ夕方にもなってねえぞおっさんって返した。
冷蔵庫にあるもん適当に持ってくればいいやなんて
スマホ持って立ち上がって部屋から出ようとしたら
「愛してる」
と言われたのだ。
あいしてる
たったの五文字なのに、上手く呑み込めず、環の渇いた喉はごくりと音をたてた。
呑み込めなくとも自分の気持ちは一つだった。
この人に伝えなければ。
言いたいことは山ほどある。
気持ちは焦るのに全ての言葉が喉にひりついて、せき止められて出てこない。
外に出られない言葉の変わりに視界が揺れて、ようやく漏れたのは
「ああ」
という何者ともつかない言葉の並びだけだった。
ベッドが僅かに軋む音を立ててそっと背中にぬくもりが触れる。
「ごめん、愛してる」
もう一度言われてもやはり上手く呑み込めなくてぽたりと雫が床に落ちた。
嫌な訳ではない、嫌な訳がない。
ずっと待ち焦がれていた言葉だ。
しかしいざ言葉にされて差し出されると、環はどうしていいかわからなかった。
ごめんって何がごめんなんだ。
いきなり言ったからか、返事しないからか、それとも俺を好きなことか。
どれなのか全部なのかそれ以外なのか俺にはわからない。
文句の一つも言ってやりたいのに口のなかはからからで息をするのも大変だ。
目の前の景色がさっきからはっきり見えない。
それに踊ってる時みたいにだんだん呼吸が荒くなる。
スマホも拾いたいし後ろも振り向きたいのに身体が動かない。
腰に回ってたヤマさんの腕がほどける。
「ごめん」
それだけ言って背中からあったかいものがなくなった。
やばい。
この人なんか勘違いしてる。
環が意を決して振り向くと大和が無表情で立っていた。
「泣くほど嫌だった
…
よな。ごめん、忘れて」
そう言われて環はようやく自分が泣いていることに気が付いた。
視界がぼやけるのも呼吸の荒さもこれで納得がいく。
「おれが、いやで泣いてると思ってんの」
けれど自分がどんな感情で泣いているのかは真っ先に自覚していた。
「あんたばかじゃねえの、いきなりあんなこと言われて、すぐに返せるわけねえだろ。
あんただってそうじゃねえの?」
そう言って睨んでみても大和は終始無表情のままだ。
それが環の苛立ちに拍車をかける。
胸倉を掴んでも一切の抵抗がない。
直情型の環を煽るためにわざとやっているのか環には考える余裕はない。
そのままベッドに叩き付けるように押し倒した環は泣きながら馬乗りになって吠えた。
「ふざけんなよてめえ!勝手に人の気持ちきめやがって!いやなわけねえだろ!」
いきなり言われて、どうしたらいいかわからなかった。
ずっと待ってた言葉だった。
「おれがどんな気持ちでずっと待ってたと思ってんだ!」
好きだって言われたことはある。
でもヤマさんはその先の話をするのを嫌がった。
ヤマさんが何を抱えて何に怖がってるのか俺にはわからない。
教えてほしいと思ったけど、わがまま言って嫌われたくなかった。
「全部ケリつけたんだろ!だから俺に言ったんだろ?!」
こないだヤマさんはヤマさんの問題にケリをつけてきた。
その話を俺にしてくれた。
きっと俺に教えてくれたことは全部じゃないかもしれない。
「うれしいに決まってんだろクソメガネ!」
それでもやっと許された気持ちだった。
となりにいることも、となりで生きていくことも。
優しくするくせに優しくされることは嫌がる、優しい人だから。
そのまま縋るようにして環は本格的に泣きだした。
嗚咽とともに「バカ」「メガネ」「おっさん」などボキャブラリーの限りの罵倒も含まれている。
それでも掴んだ裾を離そうとはしないし罵倒の合間に愛おしそうに名前を呼んだ。
大和がそっと背中を撫でるとびくりとした後に胸に顔を埋めてわんわん泣いた。
「タマ、ごめん」
「その、ごめんはぁ
…
なんのごめん
……
?」
しゃくりあげて上手く喋れない中環は問う。
「泣かせてごめん。あと、お前の気持ち考えてなくて
…
ごめん。」
返事の変わりにふるふると首を振る。
「
…
許してくれる?」
「つ、ぎやったら
…
メガ、ネかち割る」
「うん」
何の変哲もない相槌だけれど、先の話をしても流されることなく受け止めてもらえたことが嬉しい。
涙の止まらない顔を上げて微笑むと
「ひっでーかお」
と言って大和も泣いた。
泣きやんだ頃には外は真っ暗で、あれからどんくらい泣いたのかもうわからない。
顔上げたらヤマさんもちょっと泣いてて、それ見たらまた涙が止まらなくなった。
二人してずーっと泣いてた。
そもそも喉渇いてたのにこんなに泣いたから、俺脱水症状で死ぬんじゃねえかな。
でも死んでもいいくらい幸せってこんな気持ちなのかもしれない。
死因が脱水症状なのはダサいから死なねーけど。
「顔、すっげー気持ちわりぃ」
「同じく」
床に落ちてたスマホを拾うとそーちゃんからそろそろ帰りますってラビチャがきてた。
「やっべ、みんな帰ってくるって」
「この顔なんとかしねーとマズイな」
さっきあれだけ泣いて騒いでたのに急に現実に引きもどされて。
ギャップがおかしくて二人で笑った。
「なあ、これからもこうやってあんたと笑ったり泣いたりしていいってことなんだよな」
俺より先にベッドから立ち上がった背中にさっきとは逆で俺が声をかける。
こっちを見ないままヤマさんはしばらく黙って。
「
……
俺と一緒に笑ったり泣いたりしてくれますか」
それでも俺と違って言葉をくれた。
「当たり前だろ」
だから俺はその背中に抱きついて、一番言いたかった言葉を言った。
「大和さん、俺も愛してる」
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