ssblast_is
2016-02-08 22:54:42
1678文字
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指先

いおたま

「なんかさぁ、意外」
空いている方の手を所在無さげにぷらぷらとさせながら環は一織の手元を見た
「意外、ですか」
意外と言われた一織は環に視線を向けることなく手元の作業を続けていく
「うん。こーいうの自分にやるのは好きそうだけど人にやるのは嫌そうっていうか、いおりんちょっと潔癖っぽいっていうか」
「まとめてから喋ってください。まあ、言いたいことはわかりますけどね」
あと潔癖って言葉知ってたんですねと付け加えて一織はエメリーボードを置いた
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した環の指を強く握ってこれ以上騒ぐと突き刺さすとばかりにプッシャーに持ち替えると察したのか環が行儀よく座り直す

環は部屋で爪の手入れを受けていた

環の爪が伸びてきていることを一織に指摘されたので適当に爪切りで切ろうとしたところ部屋へ連行されたのだ
「女性は男性の手や指をよく見ています。我々は特に見られる機会も多いですし、写真などで形に残りやすい。アイドルとして相応しい程度に手入れをする必要があります」と一織に言われたが環としては生活に支障がなければ爪の長さなど意識しないし多少の手荒れも放っておけば治るだろうくらいにしか考えていない
その態度を読み取ったのか一織が環の爪を手入れすると行って自室に道具をとりにいき、散らかった環の部屋のものをどかすと早々に道具を広げ始めたのだった
既に片方の手はやすりで整えられ綺麗に磨かれている
かざして見ていると今度はバッファーで爪を磨き始めた一織が口を開いた
「誰かにやったのなんて初めてですよ」
「え?」
「手入れ」
「俺が初めて?」
「そう言っているでしょう」
「そっか、俺がいおりんの初めてか」
妙な言い回ししないでください」
一つ一つ環の爪が順々に磨きあげられていく
突然ふっと指先に息を吹きかけられ環はびくりと肩をすくめる
なんともなかったように細かな屑を拭き取っていく一織に、先の手はそんなことしなかったと睨むと口の端を持ち上げて笑われ環は口を尖らせた
「もうちょっと手出してもらえます?」
なにすんの」
「拗ねないでください。マッサージしてあげます」
チューブが手の甲に当てられ環の手に白い筋が伸びる
一織の手に包まれて白い筋は環の手に馴染んでいく
心地よい人肌と心地よいぬるりとした感覚にたれ目がちな環の瞳がさらに下がる
「これ、きもちー」
「それは良かった。フルコースですよ、感謝してください」
「あんがと」
まあ、いいでしょう」
「いおりんの手、あったかくてきもちいい」
ふにゃふにゃといつも以上に脱力して喋る環は目元も口元もだらしなく緩んでいて、温まった指先よりもぬるい笑顔を一織に向けた
「可愛い人だな
「えー、なに。なんかいった?」
「なんでもないですよ。ほら、反対の手も出してください」
同じように手の甲にハンドクリームを出し丁寧に揉み込んでいく
その間もゆるゆるとした口調で環が話をして、一織が答える
ゆったりと流れる時間が2人にはとても心地よかった

最後にキューティクルオイルを塗って仕上げると環は自分の手を裏表とくるくると回し満足げに微笑んだ
「すげーぴかぴか!」
「ご満足いただけましたか」
「うす!いおりんありがとな」
「どういたしまして。できれば自分でやれるようになってくれるともっといいんですが」
「それは無理。いおりんやって」
一織にやってもらうのがいいのだと環は綺麗になったばかりの手で一織のそれを掴む
しっとりとした手の感触は先程まで触っていたものと変わりのないはずなのに、ぬるりと一織の心に入り込み弱いところに触れる
また気が向いたらやってあげますよ」
光る指先にこれは自分が作ったのだという恍惚が一織の中をかけめぐる
思わず口元まで引き寄せたところでぱっと環の手が離れ、唇から香るハンドクリームの香りに一織は自分が何をしたのか理解した
顔を赤らめ固まっている環と生まれた沈黙、自分の腹の内とが混ざり合って一織は珍しく適当に道具をまとめて逃げるように環の部屋を後にした