ssblast_is
2016-01-17 02:06:44
1877文字
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『風邪』

大環ワンライ


遠くに聞える車の音
それに交じる子供たちの声で四葉環はふと目を覚ました
枕元に置かれたスマートフォンを引き寄せれば時刻は16時前
丁度下校の頃合いだろうとスマートフォンを握ったまま再度目を閉じる
寝起きのものだけではない怠さと身体の熱は息を吐き出してもどうにもならない
どうにか熱を逃がそうと目を開けても愛用の王様プリンぬいぐるみと目があうだけだ
環は珍しく風邪をひいていた
身体は丈夫な方であり仲間内でも一番体力があると環は自負しているがそれが裏目に出てしまった
もともと露出度の高い衣装が多い環はその分人よりも身体が冷える
勿論撮影の合間などは上に羽織るものを用意しているが、多少無茶をしても大丈夫だろうとたかをくくっていた
しかし徐々にハードさを増していくスケジュールや季節の変わり目特有の安定しない気候は確実に環の体力を奪い、遂に風邪をひいてしまったのである
今日の環のスケジュールは学校とレッスンだけで仕事が入っていなかったのが不幸中の幸いだろう
朝から万里に病院に連れていかれたんまりと処方された薬を持って帰ってきたのは昼前だった
事務仕事が立て込んでいるだろうに自分の看病まで申し出た万里の申し出を断ってラビットチャットにメッセージを送る
グループ窓へ病院から帰ってきたこと、インフルエンザではなかったこと、安静にしていればすぐに治るだろうということ、それから迷惑をかけてしまっていることに関しての謝罪も
自分の管理不足が招いたこととはいえ素直に謝罪したことが気恥ずかしくなってそのまま布団に潜り込み薬も相まってすぐに眠ってしまった


みんな仕事中なのだろう
送られてきていたメッセージを読み返信してもスタンプを送ってみても既読の表示はされない
至極当たり前で、普段であればさして気にも留めないことなのに今はちくりと胸を刺した
窓の外から聞こえる子供たちの声はいつの間にか遠くへ行き辺りに静けさが戻ってくる
誰もいない寮は静かで自分の部屋でさえこんなに広かっただろうかと錯覚を起こす
こちらを見つめるプリンのぬいぐるみは何も喋ってくれない

まるで、世界にひとりぼっちみたいだ

そう思考してしまってから環は熱を吐き出すようにため息をついた
心と身体は繋がっているとはよく言ったものだ
身体が弱っていると心まで弱くなる
今の自分は一人ではない
それはわかっているのにどうしても寂しさが拭えない
潤む瞳で既に読んだ仲間からのメッセージを読み返す
ナギと壮五からはそれぞれお見舞いの言葉、三月とマネージャーからは食べたいものがあれば買ってくるという旨、一緒にいるのだろう一織と陸は喧嘩しつつも風邪の時の過ごし方、大和からはちゃんと寝てろの一文だけが表示されていた
それぞれ合間合間に入るツッコミが何とも自分達らしい
自分のため贈られた言葉なのに会話の輪に入れず寝ていたことがさらに寂しさを加速させて環はもう一度ため息をついた
寂しさを紛らわせるはずだったのに逆効果にも程がある
それに大和からのメッセージが一文だけというのも今の環には少し堪えた
個人窓にもメッセージなし、仮にも付き合っているのだからグループ窓の方でももう少し何かないのだろうか
「ヤマさんのばか」
一日碌に使用していない声帯は上手く音を紡げず掠れて間抜けな音は更に寂しさを助長させた
仕方なく寝直そうと目を閉じた瞬間手の中で通知音がし閉じた目を慌てて開く
そのまま画面を見るが会話のログは増えていない
通知をよく見るとグループ窓ではなく個人窓の方に新着マークがついている
開き直すと大和からのメッセージだった
『多分俺が一番早く仕事終わる。すぐ帰るから』
了解の意を込めた王様プリンのスタンプを送ればすぐに既読の表示がついた
それをいいことに続けざまにメッセージを送信する
『ヤマさん』
『なに』
『ヤマさんのばか』
すぐに返ってきたメッセージに思わず口元が緩む
そのまま先程本人に伝わらず床に落ちた言葉を打ち込んでみる
『突然何なの』
『まあお兄さん馬鹿だから風邪ひかないのかもな』
『すっげーむかつく』
返事がうちやすいように寝返りをうちながら怒りに燃えるスタンプを送信してみる
それでも環の口元は先ほどよりも緩んでいた
『いいから寝てろよ、今から帰るから』
『うん』
『良い子にしてろよ』
プリンのスタンプを送り返したあと返事はこなくなったが不思議と寂しいという気持ちはどこかへ行っていた
三度目があったプリンのぬいぐるみを抱きしめて環はもう一度眠りについた