猫澤
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すたんどばい、うぃずみー


 それを目にした瞬間、僕の脳裏に浮かんだのは『ごん』の物語だった。
 家の戸口にぽつりと、知らぬ間に誰かに置かれた野花。ふむ……今日はシロツメクサが数本。昨日はタンポポ。一昨日はヒメジョオンだった。
 近所の子供のいたずらかとも思ったけれど、それにしては飽きもせず毎日これが続いている。
 なんだかまるでお供え物をされているみたいだ。
 残念ながら二度三度首を捻ってみても、心当たりと呼べるものが一切ない。モラトリアムの不自由な自由を謳歌するばかりで、特別『ごん』の同情を誘うような不幸もないし……
 ひょっとしたら何か花言葉に意味があるのではと調べてもみたけれど、統一性もなければ関連性も薄く、どうやら『ごん』は花の種類にこだわりがあるわけではなさそうだった。
 唯一わかることといえば、『ごん』はずいぶんと警戒心の強い子みたいだということくらい。
 僕は聖夜にサンタの正体を見破らんとするような親泣かせの子供だったので――ゆえに『ごん』の正体も突き止めてやろうとようよう待ち伏せをしていたのだけれど――そういう日は決まって必ず花の贈り主は現れなかった。
 かなしいかな、好奇心にはめっぽう弱く、抗えない性分だ。
 こうも徹底して姿を隠されると僕も俄然その正体に興味をひかれてしまって、ついに、僕はこっそりと戸口の傍にカメラ付きドローンを設置することにした。
 パソコンのモニター上にドローンのリアルタイム映像を映し、作業の片手間にぼんやりとそれを見つめる。
 正直なところをいえば、たいして期待はしていなかった。
 実際、モニターはなんの変哲もない、時折小鳥が横切る程度の映像を延々と垂れ流しにしていたし。ほら、昔からよく言うじゃないか。幽霊の正体見たり枯れ尾花と。なんだっていいのさ。玉手箱やパンドラの箱だって開けることに意味があるのだから。
 だからまさか、こんなことになるなんて――この出会いが僕の今後の人生を大きく変えるだなんて、このときは全然、思いすらしなかったんだ。


   すたんどばい、うぃずみー


 はてさて、次の路上パフォーマンスでは何をしようか。
 自室のデスクに頬杖をついて構想を練る。
 ……ああ、そういえば孤独な錬金術師のショーがまだ途中だった気がする。であれば照明のドローンを数体。賑やかしのロボも欲しいな。そうだ、クライマックスで花吹雪を散らせるというのはどうだろう?
 そんな調子でサラサラとシャープペンシルをルーズリーフの上で踊らせていると、ふと、不意に鼓膜が微かな足音を拾った。
 ぱっと顔を上げ、すぐさまモニターを見つめ戸口を確認する。するとそこには、小さな子猫が立っていた。
……綺麗な子だな)
 カスタードクリーム色の綺麗な髪色。毛先へと進むにつれ、その色合いは濃くなっていく。その姿はまだ幼く、身長は僕の膝ほどか、それより少し大きいくらいだろうか。
 子猫は小さな手で握りしめていたナズナの花をそっとドアの前に置き、満足げにそれを見下ろしていた。
 間違いない。この子が『ごん』だ。
 確信を得てすぐに、僕はデバイスに手を伸ばし、ドローンのスピーカーをオンにした。
『やあ。この家に花をお供えしていたのは君だったんだね』
「ふにゃ⁉︎」
 背後から声を掛ければ、『ごん』は面白いほどに肩を震わせて――あろうことか、一目散にこの場から逃げ出そうとした。怒られるとでも思ったのだろうか。思わず「待って」と、慌ててその背に声を掛ける。
 きっと素直な子なのだろう。ぴた、と動きを止めた彼は、おそるおそると僕――ドローン――を振り返って、僕の次の言葉を待っていた。まるで殺人現場でも見てしまったかのような悲壮感だ。
 ええとね。と前置いて、なるべく砕いた調子で続ける。
『どうか逃げないでほしいな。ちょっと話がしたかっただけなんだ。……僕は類。君の名前は?』
 ドローンの高さを『ごん』の目線に合わせると、モニター上に蜂蜜色の透き通った瞳が映し出された。
 髪色のみならず、瞳の色まで無垢で綺麗だ。そう思うも束の間、こちらに敵意がないと伝わったのか、――あるいは、見たことのないドローンに興味を抱いたのか――『ごん』は先ほどまでの警戒した表情とは一変し、頭上の三角耳をぴろぴろと動かしながら、どこか得意げに胸を張ってみせた。
「おれは、つかさだ! ええと、セカイをつかさどる、とかいてつかさ!」
『ふむ。司くんだね』
 『ごん』あらため司くんがコテンと首を傾げる。
「おまえ、見たことないふしぎな形をしているな。からだ、ないのか?」
『そうなんだ。体がないから羽がなくてもこうして自由に空を飛べるんだよ』
「ほう! すごいではないか!」
 実際は揚力で浮かび上がっているだけにすぎないのだけれど、純粋な子猫くんは素直に僕の言葉を信じてくれたようだ。
(ふむ……
 なんだか騙しているようで偲びない反面、目を輝かせるその姿が愛らしく思える。
 すっかり警戒心を解いた司くんは、ぽて、と戸口の前に腰を下ろした。
 これまで頑なに姿を見せてくれなかったので、てっきり内気な子なのだとばかり思っていたが、案外そうでもないらしい。幼子特有の距離の近さで、もうすっかり僕のことは友達だと思っているみたいだ。
 司くんはゆらゆら尻尾を揺らめかせながら僕――否、ドローンに曇りのない眼差しを向けた。この世界は綺麗なものでしか創られていないと、まるでそう信じているかのような瞳だった。
『司くんはどうして毎日この家にお花を届けているんだい?』
「これか? これは――キュウコンしているのだ!」
『キュウコン?』
 繰り返すと、うむ、と司くんが頷く。
 大切そうにナズナの花を握りしめる、その頬がぽっと赤く染まって、そこでようやく『求婚』の二文字が僕の脳内に浮かび上がった。
 こんな小さな子供が、と思うけれど、その横顔は真剣だ。
 照れ隠しだろうか――ぷらぷらと小さな両足を前後に揺らし、司くんはフイッとドローンから目を逸らした。俯いてしまったそのまあるい後頭部を見つめ、その先の言葉をじっと待っていると、司くんがぽつぽつと話を続ける。
「じつは、このおうちの主人に、ひ、ひとめぼれしてしまってな……しっているか? ムラサキあたまの、でっかいやつなのだが」
『まあ……うん。見たことはあるね』
 ていうか僕だね。
 とはさすがに言えず、僕は天井を見上げ、作業椅子の背もたれに体重を乗せた。
 ――一目惚れと言うからには、おそらく僕と彼はどこかで会ったことがあるのだろう。
 うーん、と小さく唸る。並の人より頭の回転は速い方だと自負していたけれど、いくら記憶の糸を繰ってみても彼と知り合った経緯に心当たりがない。
 くるり。手持ち無沙汰だった左手で、意味もなくシャープペンシルを一回転させる。
『直接渡してあげないのかい?』
「そうしたいのは……やまやまなんだが……
 声がどんどん尻すぼみになっていく。カメラを司くんに向けると、彼はへたりと耳を垂らして、俯いたままもじもじと膝頭を擦り合わせていた。
 先ほどまでの元気はどこへやら。どんどん萎びれていくので、その口元へドローンを近づければ。真っ赤になった顔を隠すようにして、司くんはその場に丸くなってしまった。
「い、いざあの人を目の前にすると……! おむねがドキドキしてしまうんだっ……! それで……つい……
 ……ああ、なるほど。逃げ出してしまったというわけか。
 ふふ、と思わず笑みが溢れる。なんとも純粋でかわいらしいことじゃないか。求婚などと言い出すものだから、随分とませた子だなあと思いきや。
『彼のことが大好きなんだね』
 自分で言うのもなんだけれど。相槌のつもりでそう零すと、司くんはピンと両耳を立てて、勢いよく僕を振り返った。
 きらきらと、その瞳に星が舞っている。
「ああ! あの人はすごいんだ。まほうが使えるんだぞ!」
『魔法?』
 ――あ。もしかしてあの時のあの子だろうか。
 僕は昔からショーが好きで、その延長でこの春から路上パフォーマンスを始めていた。曲芸やバルーンアート、自作のロボやドローン達と即興劇をしたりと場所も演目も気まぐれだけれど、最近ではそれで日銭を稼げるくらいには注目してもらえるようになってきたところだ。
 そして今から約一ヶ月ほど前に、僕は駅前のスクランブル交差点でとあるショーをした。
 孤独な錬金術師と旅の一座の出会いの物語。彼らがかけがえのない仲間になるまでのお話だ。錬金術師らしさの演出に、いくつか仕込んだ手品を披露した覚えがある。
 お客さんの反応もよくて、盛況のあまり最後は警備員の目に留まってしまい、やむなく撤収することとなってしまったのだけれど――ああ、たしかに、最前列で目を輝かせてショーを見ていた少年がいたね。
(そうか、あの時の……
 僕の家を知っているということは、ショーのあとここまでついてきてしまったのだろう。あまり褒められた行為ではないとはいえ、それほど僕のショーが彼の心を動かしたのだと思うと、まあ、悪い気はしない。
 それならなおのこと、モニター越しではなく直接顔を合わせて話をしてみたくなった僕は、そっと戸口の鍵を開けた。
 ドローンに夢中になっている司くんはまだ僕の登場に気がついていない。こうして見下ろしてみると、思っていたよりもずっと小さな子供だ。人間だとすれば幼児か、大きく見積もっても小学生くらいだろうか。
 こほん。
「司くん」
「みにゃあっ⁉︎」
 その背中に声を掛けると、まるで時間が逆戻りしたみたいに、司くんは肩を震わせて一目散に逃げ出そうとした。
 ああ、待っておくれと咄嗟にその手を掴んで抱き上げれば、大人と子供、力の差は歴然で。すんなり僕に捕まった司くんはぺしゃりと耳を畳んで、尻尾を股の間で丸めてしまった。
 ――努めて優しく。害意はないのだと、可能な限りの気持ちを込めて背中を撫でる。
 潤んだ瞳がおそるおそると僕を見上げた。
「驚かせてごめんね。僕だよ、類だよ」
「るい……?」
 声を聞いて確信を得たのだろう。僕と、その後ろのドローンとを交互に見つめて、司くんが目を見開く。
「お、おまえがるいだったのか……⁉︎ だが、さっきまであのピンクのやつが」
「あれはドローンと言って、まあ……僕の分身のようなものなんだ」
 空中に浮かび上がるドローンに手を伸ばし、電源を落とす。
 一秒と経たず回転していたプロペラがぴたりと静止し、動かなくなったそれを片手に抱えた僕は、改めてそっと司くんと向き直った。
「すまないね……どうしても直接お礼を伝えたかったんだ。きれいなお花をどうもありがとう。全部押し花にして飾っているよ」
「え……。ほ、ほんとうか⁉︎」
 ぱっと表情を明るくした司くんがうれしそうに綻ぶ。
 もちろん嘘ではない。彼からもらった花は全て加工して、クッキー缶の中に大事にしまってある。
「よろこんでもらえて、なによりだ! るいのすきな花がわからなかったから、その日見つけたなかでいちばんキレイなものをえらんだんだ!」
 顔を赤くして、少し興奮気味に一生懸命教えてくれる姿の、なんと健気なことか。あの花はあの公園で、あの花は川沿いの土手で、とひとつひとつ丁寧に説明する彼の声に、そうなんだね、と相槌を打つ。
 見た限り、司くんは首輪をしていなかった。こんな日中に自由に外を出歩くことが可能となると、ひょっとして野良猫だったりするのだろうか。
 カスタード色の髪を撫でながら、うーん、と思案する。
 僕は少し――他とは『違う子』だったから、成長するにつれて他人に期待をすることをすっかりやめてしまった。独りでいいと、思うようになってしまっていた。
 なのに、そんな凍てついた心がふわりと溶けていくような――そんなあたたかさを、この子から感じてしまって。僕はこの期に及んで、欲が出てしまったんだ。
 手を伸ばし、司くんの頭を撫でる。ぴくぴくと揺れる三角耳が愛おしく、彼への興味は増す一方だ。
 ここで出会ったのも何かの縁だし、と前置いて、僕はそうっと、司くんに目線の高さを合わせた。
「どうかな。司くんさえよければ、これからこのおうちで暮らすというのは」
「それはむりだ」
「えっ、無理……⁉︎」
 求婚するほど僕のことが好きなのに……⁉︎
 まさか断られるとは思っていなかった僕は、はたから見たら面白いほど素っ頓狂な声をあげてしまった。
 そんな僕に構うことなく、うむ、と神妙な顔で司くんが頷く。
 それにしてもこの子、まだこんなに小さいのに何故か言葉や立ち振る舞いが昔の人のそれのようだ。……もしかしておじいちゃんっ子なのだろうか。脳内に定年過ぎたおじいさんの家の縁側で寛ぐ司くんが浮かびあがる。
「すまないが、おれはとーやの飼い猫だからな! さきもいるし、あいつらを放ってはおけない!」
 なるほど、『とーや』というのがおじいさんの名前らしい。
 『さき』というのは奥さんか、お子さんか、ひょっとするとお孫さんかもしれない。きっと司くんはその人達にたくさん愛されている子なのだろう。うん……それなら仕方がないね。
 ほんの少し、名残惜しさは感じるけれど、言われてみればたしかに野良猫にしては身なりも毛艶もいい。近所の公園に住み着いているオレンジ色の野良猫くんと比べたら、人懐こさも歴然だ。
「そうか……君はもう誰かの飼い猫なんだね……
「ああ。だから……その……
 言葉尻を切って、司くんはもごもごと口元を動かした。
 りんご色に染まった頬。小さい紅葉の手で、力一杯に僕の右手を握りしめる。
「お、おれが、りっぱなオトナになったら……! おれとけっこんしてください!」
「えっ……
「あっ、えと、へんじはいそがなくていいぞ、おれはいいこだからな! ちゃんとオトナになるまで待てるから……!」
「ええっと……
…………ダメか……? もしかして、もうるいには番いがいるのか……?」
 ――つ、番い⁉︎
 待ってくれ、と思わず喉を突いて叫びそうになる。すんでのところで飲み込んで、ううん、と代わりに小さく唸った。
 何故だろう。相手はこんなにも幼い子だ。なのになんの捻りもない、ストレートすぎる告白にうっかり僕の心臓はときめいてしまった。
 ……ああ、不覚だ、不覚だよ。間に受けるべきじゃないと頭のどこかではわかっていても、この子が纏うキラキラに、差し出された小さな手に、どうしても目が離せないのだから。
 こんな、か細い蜘蛛の糸にも縋りたくなってしまうほど、僕は孤独に沈みきってしまっていたのか。
 司くんは小さな手を僕に向けたまま、せきら顔でじっと真剣に僕を見つめていた。ぎゅうと胸が苦しくなる。こんなに切ない気持ちになるのは、僕自身、初めてだった。
「いや、番いは……いないよ」
「では!」
「うーん……そうだね。なら、君が大きな成猫になってもまだ僕のことを好きでいてくれたら、そのときはプロポーズを受けようかな」
「ほんとうか⁉︎」
「本当だとも」
 ……大丈夫だ。この子が大人になって、僕への好意を忘れてしまっても、ただ僕がほんの少し傷つくだけ。無邪気につけられる些細な傷にはもう慣れている。
 ふ、と微笑みを向けると、司くんはわかりやすく頬を紅潮させて、ぴょんぴょんとその場を飛び跳ねた。
「やくそく! やくそくだぞ、るい! ぜったいぜったい! うそついちゃだめだぞ!」
「ああ。指切りしよう」
 小さな指を絡めて、ゆびきりげんまん、と声を掛ける。
 僕の指につられてブンブンと腕を振っていた司くんは、指が離れると同時にほっぺたに両手を当てて、うれしそうにふにゃふにゃと笑顔を浮かべた。
 年相応のかわいらしい仕草に、僕も思わず頬が緩んでしまう。
 和やかな空気。けれどそれを切り裂くように、頭上をカラスの鳴き声が横切っていく。
 ――ふと気がつけば辺りはもう赤く色づいていて、空高く昇っていたはずの太陽は沈みかけていた。
 司くんも家猫というからにはそろそろ帰らないといけないのだろう。ぴ、と尾を高く上げて、あわあわと慌てたように僕を振り返った。
「はっ、しまった! もうお空があかくなっている! るい、えっと……
 キラキラと。陽の光を吸い込んだ瞳が僕を映す。
 少しだけ言い淀んだ司くんは何かを決意したかのように唇を引き結んで、僕の指を数本、両手でぎゅっと握りしめた。
「またあそびにくるから、そのときは、いっしょにおはなししてくれるか……?」
「もちろんだよ。いつでもおいで」
……うん!」
 安心したのだろう。元気いっぱい頷いて、司くんはぱたぱたと駆け出した。
 少し離れてから僕を振り返り、ブンブンと何度も両手を左右に振っている。
……ふふ」
 司くんの浮かれっぷりが僕にも伝染したのかもしれない。
 そのまま機嫌良く母屋のドアを開けると、たまたますれ違った母さんがまじまじと僕の顔を見つめ、不思議そうな――でもどこか安堵したような表情で、目尻を下げた。
――あら。類、なんだかご機嫌ね。いいことでもあった?」
「ちょっとね」

   *

 さて。それからというもの、司くんは飽きもせず毎日のように僕の家にやってきた。
 相変わらず手土産に花を摘んでくるので、僕の押し花コレクションはもうクッキー缶から溢れるほどいっぱいだ。
 猫の成長は人よりも早く、出会った当初はまだあんなに小さな子供だったのに、もうすっかり背丈も伸びて――もしも彼が人間だったなら、今頃中学生くらいだろうか。
 つい昨日まで声変わりで嗄れていた声も、今日には男の子らしく低く落ち着き始めている。彼の成長を喜ばしく思う一方で、なんだか寂しいような勿体ないような――ちょっぴり複雑な気持ちだ。
 とはいえ、彼の持ち前の素直な性格は擦れることなく、まっすぐなまま。
 最近は僕のショーに感化されて、自身もショーの真似事を始めたらしい。なんでも『とーや』さんと『さき』さんに披露して喜ばせているのだとか。
 彼の成長を横から眺めていた身としては、このままたくさんの人に愛されて、幸せな人生……いや、ニャン生を歩んでいってほしいと思う。願わくばそれを、僕も隣で見ていたいと思うけれど……
 だけど。現実というものは、そんなに甘いものではないようで。
「うーん……
 部屋の隅で丸くなっている司くんの背中を見つめる。僕の家に来るなり、かれこれ数時間ずっとこの調子だ。
 話しかければ返事はしてくれるけれど、いつもの覇気がまるでない。外で何か嫌なことでもあったのだろうか。
 ……僕では彼の力になれないだろうか。
 そっとその背中に手を置き、顔を覗き込む。
「司くん……、そんなに落ち込んでどうしたんだい?」
「類……
 昔よりもずいぶん大人びた声。けれどその声音にはどこか悲しげな色を感じる。
 ぺたりと畳まれてしまった耳と、萎れた尻尾。はくはくと何か言いたげに口を開いたかと思えば、うる、と両の瞳いっぱいに涙を浮かべる。
 まさか泣き出すとは思っていなかった僕は焦ってしまって、慌てて彼の体を抱きかかえた。昔から、司くんは僕に抱っこされるのが好きだったから、こうすれば少しは落ち着くかと思っての行動だった。
 肩口がじわりと涙で濡れる。気丈な彼がここまで落ち込むほどだ。余程のことがあったに違いないと、彼の声を聞き漏らしてしまわないようじっと動きを止めて耳を澄ませる。
 そうして小さな噦り上げと共に溢れた言葉に、僕は微かに目を見開いた。
「実は、冬弥……オレの飼い主が、オス同士は結婚できないと言っていて……
「え……
 ぽろりと、真珠のような涙がその瞳からこぼれ落ちる。
「冬弥がオレに嘘をつくはずがないから……オレっ、びっくりして…………そのまま家を飛び出してしまったんだ」
「そう……だったんだね」
「どうしよう、類……。今頃冬弥、心配しているかもしれん……
「司くん……。大丈夫、大丈夫だよ」
 たまらず司くんの後ろ髪を撫でると、司くんは目を細め、僕の首筋に擦り寄った。
……類の手は、やっぱり魔法の手だな……。安心する」
……
 ――僕も、そろそろ覚悟を決めるときなのかもしれない。
 『冬弥』さんもきっと、苦心したことだろう。司くんのことを大切に想っているからこそ、彼が悲しむとはわかった上で真実を伝えることにしたんだ。
 オス同士は結婚できない。それに、僕と司くんの間には人と猫の種族の差もある。
 司くんを愛しているからこそ、『冬弥』さんの懸念は僕にも理解できる。それでも――その垣根を超えて、僕は司くんと添い遂げたいと思っているのも、また真実。
 たとえ世界のすべてが敵にまわってしまったとしても、僕はもう、自分の気持ちに嘘をつきたくないから。
 一人と一匹でショーを続けよう。なんの根拠もなくても、無謀だとしても、僕は君と笑い合える未来を信じたい。
「司くんは、僕のことがまだ好きかい?」
「当たり前だ! オレの気持ちは、はじめて出会ったときからまったく変わらん……!」
「うん、僕も……僕も君が好きだよ。だから大丈夫。明日一緒に君の飼い主さんにお話をしに行こう」
――……冬弥に?」


――司さん!」
「冬弥……
 結論からいうと、『冬弥』さんはおじいさんではなかった。
 いや、おじいさんだと僕が勝手に思い込んでいただけなのだけれど――震える手で呼び鈴を鳴らした瞬間、転んでしまうのではとこちらが心配してしまうほど血相を変えて玄関から飛び出してきたのは、僕と年のそう変わらない青年だった。
 その身なりと佇まいから、ひと目で育ちの良さが窺える。
 『冬弥』さんは司くんを目にした途端、安心したのかその場に崩れ落ちてしまった。
 色白く憔悴しきった表情。よほど司くんの安否を心配していたのだろう。
 よかった、と低い声が落ちる。
……っすみません。俺が、無神経なことを言ってしまったせいですよね……
「なっ、ちがうぞ、冬弥は何も悪くない!」
「いいえ、俺の責任です。細心の注意を払ったつもりでしたが……結果的にあなたを傷つけてしまった」
「冬弥……
 やがて司くんを見つめていた薄灰の瞳が、ゆっくりと僕へと向けられた。
「そちらの方は……
「申し遅れてすまないね。僕は神代類。司くんの……そうだね、婚約者といったところかな?」
「! あなたが……。はじめまして、飼い主の青柳冬弥です。……こんなところで立ち話も申し訳ないので、どうぞ中でお話しませんか?」
「ありがとう。お邪魔させてもらうよ」
 玄関に足を踏み入れた瞬間、ふわりとコーヒーのにおいが香る。この香り……。時折なぜか司くんからコーヒーのにおいがするなと思ってはいたけれど、なるほど、この家のにおいだったのか。
 それにしても立派な内装だ。裕福な家庭なのだろう。音を吸収するタイプの壁に、並ぶ賞状とトロフィー。それから、一般家庭にはない大きなグランドピアノ。……相当名のある音楽家の邸らしい。それも、一家総出規模の。
 リビングを通り抜け、奥の一室のドアを開かれる。そこはどうやら青柳くんの自室のようだった。
 シックな色合いでまとめられたインテリアをぐるりと見渡して、ふと、壁掛けの制服に目を留める。
「神山高校の制服……君も神高に通っているのかい?」
「はい、今年の春から……
「僕もなんだ。といっても、僕は転入生だから君より学年はひとつだけ上のようだね」
 これは予想していなかった共通点だ。
 僕は――なまじ学業の成績が良かったばかりに、教師に薦められるまま都内の名門校へと進学したのはいいものの――どうにも真面目一辺倒すぎる校風が肌に合わず、この春から思い切って神山高校へと転入していた。幼なじみや中学時代の旧友も通っているし、周囲の理解を得られているとは残念ながら言い難いが、現状は大きな不満もなく過ごせている。
 大きな窓から陽光が射している。所在なく、とりあえずカーペットの上に腰を下ろすと、律儀にも僕に合わせて地べたに座った青柳くんが小さく口を開いた。
「神代先輩のお話は、司さんから聞いています」
 落ち着いた声だった。
 先ほどまでの動揺を噯にも出さず、僕から視線を逸らさないまま。隣に座る司くんの方がよっぽどそわそわと落ち着きがないくらいだ。
 カチ、と壁掛け時計の音がやけに響く。
 静まり返った室内で、青柳くんは決して視線を逸らすことなくまっすぐに僕を見つめていた。その瞳の力強さには覚えがある。――司くんも、よくそんな目をしている。
「さすがは司さんです。一目見てわかりました。神代先輩になら、安心して司さんを任せられると」
「おや……。フフ、はじめましての相手をそんなにあっさり信用してしまっていいのかな?」
「こう見えて人を見る目はあるつもりなので」
……!」
 まさか、言い切られてしまうとは。
 僕が返す言葉に詰まっていると、そうと知ってか知らずか、青柳くんはふっと表情を綻ばせた。
「それにしても……奇妙な縁ですね。実は昨日、咲希さんも引き取り先が決まりまして」
「な……なにいいい⁉︎ 咲希が⁉︎」
……ええと、その『咲希』さんというのは?」
「司さんの妹さんです。以前からお話自体はいただいていたのですが、咲希さんは生まれつき体が弱かったので、病状が落ち着くまでは青柳家で面倒を見ることにしていたんです。最近は体調も快復傾向でしたし、これを機にと」
 妹さんの引き取り手の方は、詳しくは言えないが素敵な女性だと言う。その人も音楽活動をしていて、妹さんもよく懐いていたらしい。
 司くんは妹さんを引き取ったという女性に心当たりがあったのか、安心したように胸を撫で下ろしていた。
 微笑みを浮かべたまま、青柳くんが話を続ける。
「俺は……見ての通り音楽一家に生まれ、幼い頃から厳しい教育を受けてきました。厳しさのあまり、心が折れてしまいそうになる日もありましたが……司さんからたくさんの勇気をもらったおかげで、今も挫けず音楽と向き合うことができています。……神代先輩、あなたのショーにもたくさん励まされました」
……!」
 思わず目を見開く。
 なぜ、と呟くと、青柳くんは小さく笑い声を零して、司くんの背中をそっと撫でた。そういえば――僕のショーに憧れて、自分もショーの真似事を始めたのだと以前司くん本人から聞いたのを思い出す。あのとき司くんも言っていたじゃないか。『とーや』と『さき』も喜んでいたぞ、と。
……そう、か……
 満たされたくて、ただ自分のためだけに始めたショーだった。けれどそれは、僕が蒔いた種は、知らないうちに誰かのエールとなって芽吹いていた。
 拳を握りしめる。胸が打ち震えていた。
 ――たぶん、僕は、もう二度と独りにはなれないのだろう。この歓びを知ってしまったら。
「きっとこれが飼い主として、里親として、司さんのためにできる最後の大仕事です。どうか……司さんを、よろしくおねがいします」
……もちろんだよ」
 大きく頷くと、青柳くんは安堵の色を滲ませて「ありがとうございます」と微笑んだ。
 ――それから。僕達は他愛もない世間話をひとつふたつ交わして、そのまま青柳家をお暇することにした。この家にある必要最低限の司くんの荷物を引き取り、残りは近日中に取りに来ると約束して。
 玄関の外へと一歩踏み出す。
 ふわりと秋の始まりを仄めかす風が横切った刹那、僕はすっと目を細めた。わずかに香る哀愁は、コーヒーのにおい。
 少し遅れて、青柳くんと別れの挨拶を交わしていた司くんが、ざり、と地面を鳴らす。背後を振り返ると、司くんはぺたりと頭上の耳を垂らし、静かに、けれど芯のある声を響かせた。
「冬弥……。寂しい思いをさせてしまってすまない」
 ぱちくりと青柳くんが瞬く。整った薄い唇の、その端を持ち上げて、彼は小さく首を振った。
「寂しくないと言えば、嘘になります。なのでもしかすると……俺はまた、猫を飼いたくなってしまうかもしれません。ですが、司さんと、咲希さん。お二人のことを大切に想う気持ちは絶対になくなりませんから」
 ひと呼吸おいて。青柳くんは僕と司くんを交互に見つめ、どこか晴れやかな表情で続けた。
「たまにでいいので、俺のところにも遊びに来てもらえるとうれしいです」
……ああ!」


 夕陽が世界を照らしている。
 二人分の影を長く伸ばしながら、僕達はしばらく、互いに言葉を発することなくまっすぐに帰路を進んでいた。
 ようやく見慣れた住宅街へ辿り着いたところで、ふと、それまで唇を引き結んでいた司くんが顔を上げる。
 ぴくりと揺れる三角耳。琥珀色の瞳に映る、僕の姿。
「ありがとう、類」
「うん?」
 少しだけ屈んで司くんの顔を覗き込むと、司くんは目を細め、僕の肩口にぐりずりと頭を擦り付けた。
 普段からしっかり者でちょっぴりええかっこしいの彼は、あまり外でこのように甘えることはない。どういう風の吹き回しだろう。そう思いながらも司くんの丸い後頭部を撫でると、僕のシャツの裾を掴んだまま、司くんが小さく呟いた。
「残念ながら類と結婚はできないようだが……でもオレはいま、心から幸せだ!」
「司くん……
「嬉しかったぞ! 婚約者だと呼んでくれて。これからは、その名に恥じない振る舞いをすると約束しよう」
 たくさん泣いたからだろうか。目尻がほんのりと赤い。
 たまらず唇を寄せれば、まだ湿った肌が薄い皮膚に吸い付いた。
 ……僕は、ショーで誰かを笑顔にするのが好きだった。
 なんだって良かったんだ、演劇でも、曲芸でも、手品でも。僕が手掛ける演出で、観客があっと驚き歓声をあげる、そこに年齢も性別も人種も――あるいは、種族さえ関係ない。そんな世界を夢見ている。追いかけている。
 だけど今は、今だけは、誰よりもこの子を。司くんを、笑顔にしたい。
 そのためなら、僕はなんだってできる気がするんだ。無敵になれる気がするんだよ。
……大事にするよ。君のこと」
 ぽつりと呟く。
 それは誰にともなく、ただ自分自身への誓いとして零れた言葉だったけれど。きょとんと目を丸くした司くんが、あまりにも嬉しそうに微笑んでくれるものだから。
 僕はまた、勝手に救われた気持ちになってしまった。

   *

 さて、ここからはほんのちょっぴり蛇足の物語。
 
 ――ふと、ひんやりとした空気を感じて、ソファーで仮眠をとっていた僕はゆっくりと瞼を持ち上げた。
 隙間風だろうか。冬真っ盛りの今日び。空調をつけているとはいえソファーで寝るものじゃないなと、ゆっくりと軋む体を起こす。
……おや」
 作業の片手間、少しのうたた寝のつもりだったけれど、いつの間にか僕の上にはふわふわのブランケットが掛けられていた。たぶん、司くんだ。部屋の隅でショーのDVDに夢中なその後ろ姿を捉え、ふ、と眼差しを和らげる。
 司くんが我が家に居着いて数ヶ月。僕に負けじと劣らず育ち盛りの彼は、また少し身長が伸びたみたいだ。
 あんなに小さかった司くんが、いまでは僕と同じくらいの年頃の見た目にまで成長している。
 それはもちろん、とても喜ばしいことだけれど……
 ふう、と人知れず陰鬱なため息が零れた。
 ――目下、僕にはある悩みがある。というのも、司くんはこれから僕をおいてどんどん歳を重ねていく。人と猫。種族が違うのだから仕方のないことだと頭ではわかっていても、いつか訪れる別れのときが恐ろしくて仕方がない。
「不老不死の研究、しようかな……
 不老不死とまではいかなくても、成長を人並みに遅れさせる薬とか……。古来より需要のある題材なだけに、どこかの国でも論文が上がっていた気がする。
 はあ。再度重たいため息を吐き出すと、それを拾った司くんの耳がぴくりと震えた。ショーもいいところだろうに、一時中止して司くんが僕を心配そうに振り返る。
「起きたのか。……ふむ、浮かない顔だな。類」
「ああ、ちょっとね……。君のことが大好きでたまらないなと思っていたんだよ」
「む……! それは……無論、オレも大好きだぞ!」
「ふふ、知っているよ。こっちにおいで、司くん」
 照れるとほっぺたがりんご色に染まるところは、今も昔も変わらない。
 おずおずと僕の元へやってきた司くんは、まるでそこが定位置であるかのように僕の足の間に腰を下ろし、僕の背中に腕を巻きつけた。
 ゆらゆらと揺らめく尻尾。耳の後ろに鼻先を寄せる。
 ――ああ、司くんのにおいだ。落ち着くな……
「なあ類……最近、オレおかしいんだ」
「えっ、おかしい?」
 ドキ、と悪い意味で心臓が跳ねた。
 もしやどこか悪いのかと肝を冷やしながら次の言葉を待てば、司くんは相変わらず頬を染めたまま、何かに耐えるような顔をして。縋るように僕を見上げる。
「類をこうしてぎゅってしていると、ドキドキして、そわそわして、おなかの中が熱くなる。これは何かの病気なのだろうか……
……
 今度は、ガン、と後頭部を殴られたみたいな衝撃を覚えた。
 無意識なのだろうが、僕の足に尾を巻きつける司くんのかわいさたるや――……大人ぶってはいても、結局のところは僕も健全な男子高校生だ。好きな子にそんな、誘惑めいたことをされたら、心の天秤がぐらりと大きく揺れてしまう。
……ひょっとしたら、司くんの体が大人になったのかもしれないね」
「大人に……?」
「そうとも」
 頷くと、司くんはますます頬を赤らめて、まるで事実を噛み締めるかのように俯いた。
 昔は紅葉の葉のように小さかった手のひら。今は僕より一回り小さいくらいの手で、僕の胸元を撫でる。
「ということは……ようやく、類にオレの求婚を受けてもらえるんだな」
 うれしいぞ、と。司くんは花が綻ぶように微笑んで、僕の肩に腕を回した。
 勢い余ってそのまま諸共ソファーに倒れこむ。脳内はもう、爆発に爆発を重ねて大惨事だ。
 腕の中のぬくもりを抱きしめ、虚ろに天井を見上げていた僕は、暴れる心臓をいなして司くんに唇を寄せた。
「司くん……
「ん……? んっ」
 顔を上げた司くんの頬を手のひらで包み込んで、鼻先を触れ合わせる。それから、ちゅう、と桜色の唇に吸い付けば、司くんは肩を揺らして小さく声をあげた。
 唇を離して、今度は司くんのうなじを撫でる。顔が熱い。けれど、もう自分の意思では止まれそうにない。
……司くん、……僕達もそろそろしようか、交尾」
「こっ……
 わかりやすく明け透けな物言いをしたからか、司くんはすぐさまぶわっと尻尾を膨らませて飛び跳ねた。
 その表情に嫌悪は浮かんでいないか慎重に見極めつつ、僕も追いかけるように体を起こす。
 司くんは男の子なので、発情期はない。でもその体はもう立派に成熟していて、生殖器も発達している。挿入……とまではいけなくとも、互いに触れて愛し合うことは十分可能なはずだ。
「〜〜オレ達にはまだ早いのではないか……⁉︎」
「え〜……でも、僕達もう番いだろう?」
「それは……
……ダメかい?」
 両手で顔を覆ってしまった司くんの、無防備なうなじに軽く歯を立てる。
 ふにゃっ、と可愛らしい声をあげて腰が砕けてしまった司くんをソファーに優しく寝かせ、その上に覆い被されば、司くんは指の隙間からそうっと僕を見上げた。
「る、るい、だがこれではオレがメス側……
「おや? 何かおかしかったかな?」
「おかしいだろう! オレはオス猫――ふにゃあ!」
「うーん、でも僕もオスだし、ね?」
 ちゅ、ちゅ、とわざとリップ音を鳴らして、司くんの頬や、こめかみ、ぴるぴると震える耳へと順番にキスをしていく。
 然りげなくシャツの裾から手のひらを潜り込ませることに成功した僕は、したり顔で司くんの瞳を覗き込んだ。
「まあいいじゃないか。細かいことは」
「こ、細かくなああああい……! んっ、る、んんん……!」
 うんうん。――騒がしいお口は塞いでしまおうね。


 部屋の中が暗い。
 どうやら僕の胸元に擦り寄ってすよすよと気持ちよさそうに眠る司くんを眺めているうちに、いつの間にか夜になっていたようだ。
 涙の跡を指先でなぞり、さらりと髪を撫でる。するとそれが心地よかったのか司くんは喉をぐるると鳴らして、嬉しそうに頭を擦りつけた。
……
 どうしたって、日々愛しさは積もるばかりだ。
 司くんに出会って僕の人生は大きく変化してしまった。もう、彼のいない人生なんて一切考えられないほどに。
 ――「司さんからたくさんの勇気をもらったおかげで、今も挫けず音楽と向き合うことができています」
……勇気、か」
 脳裏に、いつかの青柳くんの言葉が蘇る。
 司くんの優しさに、強かさに、心を揺さぶられていたのは僕も同じ。
 きっと出会った瞬間から運命だった。
 叶うなら、先の未来までずっと。ずっと、傍にいられますようにと、切に星に願う。