猫澤
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ポーカーフェイスはお見通し


「やあ司くん! とっっってもいいタイミングで現れてくれたね!」
 類と廊下の角で顔を合わせたその時、司は内心思わず「げっ……」と微かに毒づいてしまった。
 あまりにも……。そう、あまりにも無邪気な笑顔だったのだ。無邪気といえば聞こえはいいが、この男、神代類の場合油断は禁物だ。経験則、実験と称して宙吊りにされるか屋根まで打ち上げられるか。下手すれば校舎が爆発する可能性だってある。
 今日はいったいどのパターンだろう。そろり、無意識のうちに半歩後ずさって、司はおそるおそる口を開いた。
「なんだかとてつもなく嫌な予感がするのだが……?」
「フフッ、そう身構えなくても大丈夫。司くんを空高く飛ばす実験はまた次の機会にするつもりだから」
「飛ぶのは確定事項なんだな」
 ああ、今度は何メートル打ち上げられるのか。近い未来の自分にそっと手を合わせる。
 ――さて、司達が通う神山高校は現在期末考査の真っ最中だった。司自身、今しがたOC、日本史、数Bと毛色の違う強敵を倒したばかりである。
 明日も明後日も考査は続く。もちろんその間ショーはおあずけだ。司だって一刻も早く次のショーで思考を埋めてしまいたいが、うっかり赤点などとってアルバイト禁止など言い渡されたらさすがに困ってしまうので、今日は早く帰って明日のテストの山張りをするつもりだった。
 けれどこうして、嬉々として司の肩を掴んでどこへやら連れて行こうとする類を前にしてしまうと、素気無く拒むのはどうにも憚られて。
「早速だけれど、これを見てくれたまえ!」
……ふむ」
 結局手招きされるまま連れ込まれた空き教室。指し示された机の上には、ぱっと見ではよくわからない機械がぽつんと置かれていた。
 カワウソ……だろうか、これは。
 形状的には、健康診断などで血圧をはかるときに腕につけるアレに似ているかもしれない。カワウソ型の装置から伸びた線の先にはパッドのようなものがついている。
 何気なく手に取って近くで眺めながら、司はこてんと首を傾げた。
「なんだこれは?」
「嘘発見器だよ」
「う……嘘発見器⁉︎」
「そうとも!」
 キラリ。その瞬間、類の瞳に光が反射した。
 興奮しているのだろう。頬を僅かに紅潮させながら、類が手近な椅子を引いて腰を下ろす。司もそれに倣って隣の席に腰を下ろせば、とん、と意図せず肩が触れ合った。
 誰もいない教室。閉め切ったカーテンの隙間から射し込む陽光が、青く翳る室内に一筋の線を描き揺らめいている。
 帰路につく学生の声は遠く。かち、かちと一定のリズムで廻る時計の秒針の音はやけに耳についた。
 類は続ける。
「これがあればこの世のありとあらゆる嘘を見抜き暴ける……ということになっている。理論上はね」
「お前……そんなトンデモないものを作って将来猫型ロボットにでもなるつもりか?」
「まさか! 僕の夢は演出家だよ。君もよく知っているだろう?」
 よく知っているとは言うが、司はこれまで嘘発見器などとトンチキな機械を作り出す演出家を他に見たことがない。
 類の白い手指が、装置についたパネルを何度かタップするのを横から眺める。
 ふと目線を上げると、俯く類の耳朶を飾るピアスが目に入った。メッシュと同じターコイズのそれを類はいたく気に入っていて、出会ってからこれまで、それを外している姿を司は一度も見たことがないくらいだ。
 ……いや、一度もは嘘だった。遠征先のホテルで寝る前に外していたのを思い出した。けれどまあ、類の気に入りであることは間違いないだろう。
 少しだけ羨ましいと思う。類は意外とアクセサリーを好むようで、司も真似していくつか買ってみたものがある。ピアスはホールを開けるのが恐ろしかったので、ネックレスやブレスレットといったたぐいのものだが、結局私服に合っていないような気がして付けるのをやめてしまった。
 そんなことに思考を逸らしているうちに、類の方も装置の調整が終わったらしい。
 気づけばレモン色の瞳を司の方へ向け、玩具を前にした子供のような笑みを浮かべていた。
「昨晩ふと閃いてしまって装置を作ってみたはいいものの、自分では上手くテスト出来なくてね。困っていたところに、天からの使いよろしく、司くんが現れたというわけだ」
「なるほどな……
 いやテスト勉強はどうした。という不粋な言葉はこの際飲み込むことにする。
「つまりこの装置が機能しているか、オレでテストしたいと」
「いやぁ、さすが司くんだ。話が早くて助かるねぇ」
……まあこのくらいの実験ならかわいいものか……
「フフ。君ならきっとそう言ってくれると思っていたよ!」
 ぱあっと表情を明るくさせて、類はうれしそうに装置に指を滑らせた。
 司もまた、その横でやれやれと肩を竦めてみせるが――なんだかんだ、もう気が乗り始めている。その代償に今夜は一夜漬けでテスト勉強になってしまうだろうが、実験の相手ひとつでそんなに喜んでもらえるならこちらもやりがいがあるというものだ。
 何より、類が作った装置には純粋に興味があった。
 いつだってドキドキハラハラと新鮮な刺激があって、目が離せなくなってしまう。結局いつもこうして良いように口車に乗せられて、最後まで付き合ってしまうのだ。
 そんなだから、仲間のひとりである寧々に「あんまり類を甘やかしすぎないで」なんて苦言を向けられてしまうのだろうが――
「それじゃ、軽く袖を捲らせてもらうよ。パッドを付けるから」
「ああ」
 類の指先が左の袖に触れ、裾を丁寧に折り畳んでいく。
 その様子を見下ろしながら、司は時折触れる人肌の温度にむずがゆい感情を覚えていた。
 どうしてもぴくりと微かに跳ねてしまう腕を、類は疑問に思ってはいないだろうか。そればかり不安になる。
――これをつけた状態で、今から君にいくつか質問するよ。司くんはただそれに答えてくれるだけでいい」
 答えにくい質問には黙秘権を使ってもいいからね、と続いた言葉には「ほう……」と曖昧に応えた。
「まずは簡単な質問からにしようか。君の名前は天馬司くん。間違いはないかな?」
「ああ、間違いない!」
 ピンポーン。答えると同時に軽快なサウンドが装置のスピーカーから流れる。それがあまりに間抜けなものだったので、司は思わず一瞬フリーズしてしまった。
……クイズ番組か?」
「フフッ、では第二問。司くんの家族構成は?」
「両親と、妹がいる」
 ピンポーン。
「司くんの将来の夢は?」
「それはもちろん、世界を股にかける大スターだッ!」
 ピンポーン。
 ええい、この音どうにかならんのか。音が鳴るたび渋い顔をする司に当然気がついているだろうに、類は「うんうん、元気があっていいね」と素知らぬ顔でとぼけている。
 司はほんの少し身を乗り出して、類の顔を覗き込んだ。
「そもそもこんな簡単な質問で装置のテストになるのか?」
「おや? 司くんには物足りなかったかい? ではここからは少し踏み込んだ質問をしていこうか」
 踏み込んだ質問? と空いた方の手で机に頬杖をついて繰り返す。
 類はそれには答えず、何か思案するような仕草で口元に手を当てた。右、左、と瞳を揺らめかせ、やがてゆっくりとレモンイエローが司の姿を捉える。
「そうだな……。ときに司くん、異性に興味はあるかな?」
「っ」
 ぎくり。喉から心臓が飛び出るかと思った。まさか類の口からそんな下世話な質問が飛び出すとは思わなかったのだ。
「い、異性だと?」
 この男を高尚だと思ったこともないが、少なくとも司は類と幾度となくした対話の中にその手の話題が上がったことはないと記憶している。
「そっ、れはアレか、恋バナ的なやつか⁉︎」
「そうだね、恋バナ的なやつだね」
……、ぐぬぬ」
 そして司が戸惑い、動揺を浮かべたのには他にも理由があった。
 どうして、とか、思う余地すらないほどに。――気づいたときにはもう、司は神代類という男を無意識に目で追ってしまうほど心底惹かれていたのだ。
 とはいえ自覚したところで現状を変える気はいっさい無く、また、この淡い恋心を直接告げるつもりもない。
 いまはただ傍にいて、こうして笑顔を向けてくれるだけで十分幸せで。いつかは離れ別々の道を往くこともあるだろうが、それも人生、スターの定めと割り切れるくらいには司は達観していた。
 類は司の想いに気づくことなく、いつか素晴らしい演出家として世界に名を馳せ、人々に愛されてその生涯を閉じるのだろう。そしてそれを最期まで見守るのが司の愛だ。
 触れられずとも構わない。何はなくとも、互いの間にショーがあれば満たされるのだから。
「ノーだな! ……いまのところは」
 ピンポーン。
……うん。本当みたいだ」
 装置を確認する類の声色に変化はなかった。本当にただ単に興味本位で聞いたのだろう。
 いい気なものだ。こちらは予想していなかった質問に妙に気持ちが逸って、類の顔をまともに直視すらできないでいるというのに。
「いつかは恋をしてみたいと思う?」
「まあ、それは……人並みくらいにはな」
「なるほど。では司くんの好きなタイプは?」
「すっ、好きなタイプ⁉︎⁉︎⁉︎」
 思わず声を張り上げる。
 好きなタイプだなんて、そんなもの考えたこともなかった。司が恋をしたのは類が初めてで、それもわかりやすく型に嵌まる恋ではなかったからだ。
 強いていえば類がタイプということになるのだろうか。
 どう答えるべきか考えあぐねた末に、司は当たり障りのない回答で濁すことにした。
……ショーが好きで」
「うんうん」
「仲間のためなら努力を惜しまず……
「へえ」
「たまに頑固で困らせられることもあるが、心優しくて、」
……
……あと、気を許したときの……。目を細めて笑った顔が、かわいい……?」
 いやダメだ。完全に類だ。
 司は頭を抱えた。まず『ショーが好きで』の時点でかなり絞られる。
 いくらなんでもこんなにピンポイントな回答、類に勘繰られてもおかしくないのではないか。バレバレなのではないか。なんなら、本当は類も司の気持ちにはとうに気がついていて、面白がってからかっているだけなのではないか⁉︎
「司くん、もしかして……好きな人がいるのかい?」
 そ〜らみたことか!
「い、いいい、いないが⁉︎」
『ウソ発見! ウソ発見!』
「どわ――――‼︎‼︎‼︎」
 突然ぴょんぴょこ飛び跳ね出したカワウソを咄嗟に両手で押さえつける。なんだなんだ急に⁉︎ まるで敵の大将討ち取ったりと言わんばかりの威勢じゃないか。さっきまでの可愛らしい『ピンポーン』はどうした⁉︎
「なるほどねえ」
 慌てふためく司を他所に、類はふむ、ふむと頷いて。そのまますっかり黙り込んでしまった。
 ……気まずい沈黙。
 たぶん、別に友人と恋バナをすることくらいなんてことない。同級生達が今日の天気を語るくらい気軽に恋愛談義している姿を司も何度も目にしたことがある。
 人を好きになることは特別恥ずかしいことではないのだし、堂々としていればいいのだと、……頭では理解しているが。
……顔が熱いな……
 司はこの火照りの冷まし方を知らなかった。そのうえたいした確証もなかった。
 内心「もしかしてオレの勘違いかも?」「友情と恋慕を混同してしまっているだけかも?」なんて淡い期待すらどこかで抱いていた。しかしそれもウソと見破られた以上、見事に最後のトドメを刺されてしまったようなものだ。
 ちら、と隣に座る類を盗み見る。
 類は眉間に皺を寄せ、険しい表情で何もない机を見下ろしていた。
 ふと目が合う。澄んだ眼差しが、司の姿を捉える。
……僕が先だったのになあ」
……? る」
 い、と。その名を呼ぶべく口の端を引き結んだ瞬間、司の視界を紫陽花の色が掠めた。
 はっと目を見開く間もなく、顔の近さと、睫毛の長さに呆けているうちに――口に柔らかいものが押し当てられて。やがてそれは音もなく離れていった。
(え……
 なんだ、今の。感触の残るくちびるに手を当てる。類は拗ねたような顔で外方を向いていたが、そのせいでほんのりと朱に染まる耳朶が丸見えだった。
 勘違いだろうか。気のせいだろうか。あらゆる可能性を考えてみるものの、結局同じ答えに行き着いている。
 脳裏にデカデカと『接吻』の二文字が浮かんで、司は足の先から頭のてっぺんまで一気に沸く感覚を覚えた。
……だっ、……い、いま……、きす、」
『ウソ発見! ウソ発見!』
「どわっ⁉︎ なに、なんだ、ウソ⁉︎」
「あ……、すまないね。この嘘発見器は装着した人物の心拍や発汗の状態を見て嘘をついていると判断するから――ええと、つまり……
「お、オレがドキドキすると作動するってことか……⁉︎」
 飛び上がった拍子に椅子がガタン! と大きな音を立てる。類は一瞬息を飲んで、そろりと手を伸ばし司の腕を掴んだ。
 形の良いくちびるの端を持ち上げ、不自然に類が笑う。
 笑っているのに――瞳の色はどこまでも真剣で。掴まれた腕の感触を嫌でも意識してしまう。
 緊張が、伝染する。
……ドキドキしたんだ。僕にキスされて」
「ハッ、いや、それは……ぬ、ぬうう……!」
 ひとしきり低く唸った末に、司は勢いよく類の手を振り払った。キャパオーバーだ。頭の中がカッカして、いい加減爆発してしまいそうだった。
「外す‼︎‼︎‼︎」
「うん。もう十分なサンプルは得られたし構わないよ」
「そうかそうかそれはよかった! さすがオレだないつでも頼るといい!」
「うん……
 腕に巻きつけていたパッドを外して机に置く。カワウソ、もとい嘘発見器は役目は果たしたとばかりに沈黙し、それきり動かなくなった。
 しん、と再び室内が静まり返る。
「ところで先ほどの話の続きなんだけれど」
……その前に、オレに言うことがあるだろう」
「言うこと?」
 ぱたぱたと類の長い睫毛が瞬く。司は眉根を寄せ、半ば呆れながら類を振り返った。
「未来の大スターであるオレのファーストキッスを奪ったんだぞ⁉︎ あるだろう、ほら、『ご』から始まるアレだ、アレ‼︎」
……ごちそうさま?」
「ごめんなさいだ‼︎」
 どうしてそうなる! と類の額を小突く。
 類は突かれた額を手のひらで摩って、つい、と視線を司から逸らした。
「だって」
 雫が落ちた水面に波紋が広がるように。凪ぎの中に激情をひた隠すように。
 戸惑いの滲む声を絞り出す類の表情は、まるで置いてけぼりにされた子供のようで。何故だかひどく心臓がぎゅうと鷲掴みにされたみたいに痛み出す。
「悔しかったんだ……。ずるいじゃないか。僕の方が先だったのに」
「む……? 先?」
「異性に興味がないのに好きな人がいるだなんて……相手は同性だって白状しているようなものだろう?」
……お、おお」
「ずっと傍にいた僕を差し置いていったいどこの馬の骨を好きになってしまったんだい、って思ったら……つい体が動いていたんだよ」
……オレの気持ちを知ってからかったわけではないのか……?」
「え?」
……え?」
 顔を上げた類と見つめ合ったまま、数秒。どうにも類の言葉に食い違いを感じて、ええと、と口籠もりながら話を続ける。
「オレが好きなのは、類、お前なんだが……
 ショーが好きで。
 仲間のためなら努力を惜しまず。
 気を許したときの笑顔がかわいい、そんな相手は、司にとってはひとりしかいない。
「いや、てっきり僕は……旭さんか、もしくはワークショップで好い人に出会ったのかと……
……
 墓穴を掘った。それもスコップどころかショベルカーで思い切りザクっと。
 思わず顔を手で覆って項垂れる。天馬司、人生の大失態だ。出来ることなら数分前に戻ってやり直したい。嘘発見器なんて奇天烈なものを作ってしまうくらいなのだから、類に頼めばタイムマシンくらい簡単に作ってもらえるだろうか。
「ちょっと待ってくれ。僕のことが好きって本当かい? いつから僕のことを?」
「も、黙秘権……黙秘権を行使する!」
「そんなものないよ!」
「さっきあるって言ってなかったか⁉︎」
 逃がさんと言わんばかりの形相でじりじりと迫る類に合わせ、司も負けじと体を反らせて対抗する。もうほとんど取っ組み合いだ。両者一歩も譲らない攻防。しかしそれもさほど長くは続かなかった。
 司が椅子から引っ繰り返りそうになる寸前に、教室の引き戸が開いて、生活指導の先生が顔を覗かせたのだ。
「こらワンツー! いつまで教室で駄弁ってるんだ早く帰れー!」
「すみません!」
 司の上に覆い被さる類を、男子高校生の他愛無いじゃれあいと思ったのだろう。先生はそれ以上首を突っ込むことなく、注意したきり踵を返してどこかへ行ってしまった。
 ザッザッと廊下を歩む先生の足音が遠ざかり、聞こえなくなるまで。司も類もじっと体勢を崩さず静止していたが、やがてどちらからともなく吐き出した息と共に肩から力を抜いた。
 ぱち。視線が絡まる。目元を僅かに染めた類が小さく口を開く。
……どうしようか」
……〜〜ええい、どうもこうも、なーい! ほら、早く帰るぞ!」
 類の体を押し退け勢いよく体を起こす。
 教室の時計を見上げると思っていたよりもずいぶん時間が過ぎていた。嘘発見器を類に押し付けて、置き去りにしていたリュックを掴む。
……
 そして、少しだけ逡巡したのちに司は類に左手を差し出した。
 司に倣って身支度を整えていた類が、司の大きく開いた手のひらを見下ろす。類も類でいろいろ思うところはあっただろうが――指先を迷わせながらも、思惑通りに触れた手のひらをぎゅっと握り締め、司は満足げに頷いた。
……そういえば、オレはまだお前の気持ちを聞いていないのだが」
「ええ……。もう暴露したようなものじゃないか。言わせたいのかい?」
「聞きたいんだ、オレが」
 引き戸を開け、廊下に一歩踏み出す。
 そのまま兄が下の子にそうするように、類の手を引いて先導していると。連れられるまま半歩後ろを歩いていた類がやんわりと握っていた手を解き、代わりに指を絡め合わせた。
 ぴたりと密着する手のひら。互いの体温が溶けて混ざり合っていく。輪郭が、曖昧になっていく。
……仕方ないね」
 言葉とは裏腹に、どこか照れくさそうに声を弾ませて。
 わざとらしく咳払いをひとつ。ほんの少し屈んだ類のくちびるが司の耳殻に息を吹きかける。
「僕も司くんが好きだよ」
……ピンポーン」
「フフッ……
 柔らかな陽光の射す校舎の片隅。誰もいない広い廊下の真ん中を、身を寄せ合って歩きながら。
 類は、「やっぱりちょっと間抜けかもね、それ」と目尻を下げてはにかんだ。