猫澤
Public
 

merry merry!


 ああ、神様仏様サンタクロース様に懺悔します。今日のアタシは悪い子です。
 ――だって待ちに待ったクリスマスイブ。今年のクリスマスパーティーはいつもとひと味違うから!
 天馬家リビングの壁一面に飾られた折り紙の装飾は、アタシといっちゃん、それからえむちゃんの三人で一生懸命作ったもの。
 テーブルの側ではるいさんとねねちゃん、しほちゃんが飾りつけた大きなクリスマスツリー。
 まんまるの生地にチーズがとろ〜りかかる美味しそうなピザは、なんとお兄ちゃんとほなちゃんのお手製!
 いいにおいにつられて、ぐう、と鳴っちゃったおなかを慌てて押さえると、「ふふ、」って隣にいたいっちゃんが笑う。あーん、もう、もう! まだパーティーは全然始まってないのに、今からこんなにたのしくってどうしよう!
「そっち、準備出来たか? む、グラスが空っぽではないか。咲希、このシャンメリーを注いでくれ!」
「はあ〜い!」
「あ、咲希ちゃん。わたしも注ぐの手伝うよ」
「本当? ありがとうほなちゃん!」
……わあ〜! 司くん! これってお酒? お酒っ? すっごくキラキラしてる……☆」
「そんなわけあるか! 大体えむ、お前はまだ未成年だろうが!」
「えらそうに言ってるけど、司もでしょ」
 お兄ちゃんから手渡されたシャンメリーをみんなのグラスに注いでいく。しゅわしゅわ〜、きらきら〜って黄金色の飲み物が宝石みたいに輝いて、それだけでなんだか今日が特別な日! って感じがしてきちゃう。
 全員分のグラスに注ぎ終えると、お兄ちゃんはこの中で一番の年長者らしく「こほん」と咳払いして、グラスを高く高く掲げた。
「それでは僭越ながらこのオレ、未来のトップスター・天馬司が! 乾杯の音頭を取らせてもらおう――、」
「メリークリスマス♪」
――んなっ、オイ! 類!」
「「「メリークリスマース!」」」
「お前達まで――! 勝手に始めるんじゃなーい!」
 グラス同士がぶつかる軽快な音と一緒に、ツリーの傍に立っていたネネロボちゃんがたくさんクラッカーを鳴らす。大きな破裂音にびっくりしたお兄ちゃんとねねちゃんは、息ぴったりに「類ー!」ってるいさんを振り返った。
 テーブルの上にはたくさんのお菓子と、ローストチキンにブッシュドノエル。
 がやがやと賑やかにみんなと食卓を囲むこの時間が、なんだか夢みたいで……ずーっとふわふわしてる。
 本当は去年同様家族やいっちゃん達とクリスマスを過ごす予定だったけど、今年はワンダーランズ×ショウタイムのみんなもパーティーするって聞いて――それならみんなうちで一緒にやろうよってお兄ちゃんに提案してみたの。ほんとのほんとに大正解!
 今夜はいっちゃん達だけじゃなくて、えむちゃん達も我が家にお泊まりしてくれる。クリスマスパーティーが終わったらパジャマパーティーが待ってるなんて、そんなの最高すぎるよ!
「よーし、今夜はとことん遊んじゃうぞー!」
「咲希ってば……。今からそのテンションで大丈夫?」
「日付、変わる頃には疲れて寝ちゃうパターンでしょ」
「むむっ、そんなことないってば。今日のためにみんなと観たい映画とかやりたいゲームとか、お兄ちゃんといーっぱい用意しておいたんだから! 今夜は寝かせてあげないんだからね、し、ほ、ちゃん♪」
「はいはい……
 ほなちゃんが切り分けてくれたピザにあむっとかぶりつくと、すごい、あま〜いハチミツの風味とチーズの絶妙なハーモニー! 思わず顔がふにゃんってなっちゃって、隣の席に座っていたるいさんに「フフ、」って笑われちゃった。
「あっ、すみませんるいさん、はしゃいじゃって……
「いえいえ。……だけど本当に良かったのかい、僕達までお邪魔してしまって」
「いいんですいいんです! ウチはこのくらい賑やかな方が落ち着くので!」
 それに、実は今日のパーティーにはアタシにとってとっても大事なミッションがある。
 ミッションというか、使命かな? ちらっと前の席のえむちゃんとねねちゃんを見ると、アタシの視線に気付いた二人はうんうんとまるでアタシの考えてることがわかるみたいに頷いた。
……? それなら良いのだけれど」
……あれ、そういえば司さんはどこに行っちゃったのかな。さっきまでそこに座ってたと思うんだけど……
「お兄ちゃん? お兄ちゃんならキッチンの方に――
――待たせたな諸君!」
 家中にお兄ちゃんの声が響き渡る。みんなびっくりして声がした方を振り返ると、そこに立っていたのは――
「ふぉーっふぉっふぉっふぉ! 良い子の皆の衆! サンタからのプレゼントが欲しいか――⁉︎」
「「ぶふっ……」」
 現れたお兄ちゃんの姿を見て、いっちゃんとしほちゃんは同時に吹き出した。
「つ、司さん……その、サンタコス……っ」
「もう、志歩笑いすぎ……ふふっ」
 赤と白のサンタ服を着たお兄ちゃんは、どこからどう見てもサンタクロース……のおじいさんで。
 お兄ちゃんてば、いつの間に着替えたんだろ。おなかにたくさん詰め物をして、お口が隠れちゃうくらい真っ白なつけ髭はふさふさとお兄ちゃんが喋る度に揺れてる。
 アタシは昨日の試着の時点でもこの姿を見てるから、インパクトは半減しちゃったけど――それでもやっぱりおかしくって笑っちゃった。だってお兄ちゃん、すっごく似合ってるんだもん!
 えむちゃんなんて、お兄ちゃんサンタさんを見た瞬間ぱあっと目をキラキラさせて、ちっちゃい子供みたいに大はしゃぎでお兄ちゃんに飛びついちゃった。
「司くんプレゼントくれるの⁉︎ やったやった〜!」
「ぬあっ、こらえむ! 勢いよく抱きつくんじゃない! それにオレは司くんではなくサンタだ! ……あっ、待て、ひげを取ろうとするな、あいたたた!」
 お兄ちゃんサンタさんが背負ってる大きな袋。やけに大きいなって思ったら、アタシ達の分までプレゼントが入ってるみたい。
 このあとのプレゼント交換会ではみんな予算の都合があるから、アタシ達Leo/needはLeo/need内で、ワンダーランズ×ショウタイムはワンダーランズ×ショウタイムのみんなで交換しあおうねって話してたのに。
 ……もしかしてお兄ちゃんも、クリスマスパーティーをすっごく楽しみにしてたのかな。
 そういえばこのところのお兄ちゃん、フェニックスワンダーランドでのアルバイトのほかにエキストラのバイトをたくさん入れてたような。スターになるためにはどんな経験でも積まねばな! とかなんとか言ってたけど、そっか、このためだったんだ……
 じ〜ん、と、なんだか胸があたたかくなる。
 お兄ちゃん、全然変わんないな。小さい頃からずっとそう。おやつを半分こするときはいつもアタシに大きい方をくれるし、誰かの笑顔のためならいっぱいいっぱい頑張れちゃうような――優しくて、強くて、カッコよくて……ずっと、いつまでもアタシの自慢のお兄ちゃんのまま。
「ほら咲希。これはお前の分だ」
……。えへへ、ありがとう、お兄ちゃん♪」
「だーかーらー、お兄ちゃんではなくサンタクロースだっ! ……まったく」
 お兄ちゃんサンタさんからもらったプレゼントの箱を抱きしめて、えへへ、と口元をゆるゆるにする。
 大好きなお兄ちゃん。ほんとは知ってるって言ったら、どう思うかな――毎年アタシの枕元にサンタさんからのプレゼントをお兄ちゃんが置いてくれてたこと。
 一歳しか変わらないのに、アタシのことをいつも大事にしてくれて……そんなお兄ちゃんに、アタシも少しでもいいからお返ししてあげたいって思ってるんだよ。
 だからアタシ、決めたの。今日はお兄ちゃんのためにひと肌脱いじゃうんだって。
「それではプレゼント交換会、始めるぞ――!」
……ぜったい、」
 ぜったいぜーったい、――思い出に残るクリスマスをプレゼントしてみせるからね!

 ――――……
 ――……
 ……

 風呂から自室までの通り道、横切った咲希の部屋から楽しげな笑い声が聞こえてきて、思わずふっと笑みが零れた。
 咲希のやつ、あんなにはしゃいで……。だがまあ無理もない。中学までの咲希は今より体も弱く、体調を崩しやすい冬は特に入院ばかりでクリスマスパーティーなんてしてやれなかったからな。……あの子がいま心から青春を楽しめているのならば、兄としてこれほど嬉しいことはない。
 オレは鼻歌まじりに髪の毛先をタオルで押さえながら、自分の部屋のドアを開けた。
「咲希達の方、随分と盛り上がってるみたいだな」
「みたいだねえ」
 客人である類はオレの前に風呂を済ませている。既に寝支度は整っており、客用の布団の上で胡座をかいて寛いでいた。
 どうやら類のやつはオレが風呂に入っている間に本棚を物色したようで、手元にはオレの幼少期のアルバムが見えた。アルバム然り、部屋にあるもの然り、見られて困るものは何一つないので好きにして一向に構わんが……。「そんなにオレの過去が気になるか?」と茶化したら、なんとも生暖かい表情で微笑まれたのが腑に落ちん。
 なんだその顔は。言いたいことがあるならはっきり言え。
「まあ……そうだね。気にならないといえば嘘になるかな。君は本当に、いつになっても興味深いよ」
「ハッハッハ。オレの魅力をもってすれば当然だな」
「いやあ、本当に」
 ベッドに腰掛け枕元の目覚ましをセットする。今は冬休みで学校もないが、規則正しい生活は天馬家の家訓のひとつ。それに明日はオレを含め八人分の朝食を用意しなくてはならんので、とりわけ朝から重労働になりそうだ。
 ぱたん、と類がアルバムを閉じる。ほんのり湿った髪を見つめ、オレはそっと視線を落とした。
 類と一緒の部屋で寝るのは初めてじゃない。フェニックスワンダーランドの宣伝大使として今年は特に遠征も多かったし、男二人、女子二人のショーユニットともなればホテルの部屋割りは自ずと決まる。類のその、お前の身長でよくそのサイズがあったなと思わせるゆるい部屋着を見るのもこれで何度目か。
 ただ思い返してみれば、ただの友人としてお泊まり会をしたことはなかったように思う。はは、あれだけ毎日学校でもバイト先でも顔を合わせておいて、もうすぐ高校卒業するというのに。お互い腐ってもショーバカだから、互いの人生にショーは切っても切り離せない。ま、こればかりは仕方がないな。
「ところで……サンタさんへ、良い子の僕からもプレゼントがあるのだけど」
「誰が良い子だって?」
 散々学校やらステージやらを爆発させておいてよく言うな、まったく。オレが本当にサンタだったならば、類少年の枕元にプレゼントを置くのは少し躊躇してしまうぞ。
 ……ん? いや待て、今サンタにプレゼントと言ったか?
「パーティーでもう貰っただろう、お前から」
 先程のプレゼント交換会で類からは腕時計を貰っている。
 今どきらしいスマートウォッチで、スマホとペアリングすれば音楽を流したり通話も可能なのだと、他でもない類自身がその口で嬉々として説明していただろうが。
 まさか忘れたわけじゃあるまい、とオレが訝しむと、類は僅かばかり頬を染めて「ああ……」と言葉を濁した。
「あれは、友人兼、僕らの大切な座長である君へのプレゼントでね」
「む……
「こっちは……、恋人としてのプレゼント、……のつもり」
 ベッドの脚の裏に隠されていた紙袋を引っ張り出して、類は中の小さな包みをオレに向けた。赤色の包装紙に緑のリボンの、意外とちゃんとしたクリスマスラッピングだ。
 むず……と途端に腹の底が擽ったくなって口元をもごつかせる。
 恋人としてと、類は言った。オレにとってはまだ慣れない言葉だった。それもそのはず、オレと類の関係に「親友」「仲間」に続き「恋人」が新しく加わったのはつい先月のことだ。
 ――恋をするなら、君とがいい。
 風の吹く屋上でそう言った類の言葉は、冗談で流すにはあまりに熱を帯びていて、さすがのオレも少しばかりたじろいでしまった。
 あの日のことは今もしっかりと覚えている。その割にまだ実感が湧かないのは、オレも類も恋にうつつを抜かすタイプではなかったのもあるが――あれきり恋人らしいことを一切してこなかったせいだ。
 付き合いたてのカップルにあるまじき冷め具合。正直白昼夢でもみたんじゃないかとそろそろ思い始めていた頃だった。
 ……なんだ。
 そうか。ちゃんと恋人同士だったんだな、オレ達は。あまりに類が悠長すぎて、オレとしたことがすっかり拍子抜けしてしまったぞ。
「メリークリスマス。……受け取ってくれるかい?」
「もちろんだ。……今開けてもいいか?」
「フフッ、なんだか照れくさいけど、どうぞ」
「む、これは……ピアス?」
 包みを開けると、中から出てきたのは一対のピアスだった。無論オレの耳に穴は開いていない。
「君のピアスホールは僕に開けさせてほしいんだ」
 ぱっと類を振り返ると、だらしなくふにゃりと緩んだ口元が視界に入った。
 ぎし、とベッドが軋む。細められた眼差し。ああ、そういえば類はときどきこうして眩しそうにオレを見ていたなと、そんなことに今更気がついた。
 指先が触れたかと思えば、温かな手のひらがオレの手を包み込む。妙な雰囲気を感じ取って、ど、ど、とオレの薄い胸の奥で心臓がやかましく音を立てるので、オレは内心どうしたものかと困ってしまった。
 これだけ近くにいては、この音も類の耳に聴こえているんじゃないかと気が気じゃない。
「司くんの『はじめて』、貰えるものは全部欲しくてね」
「ほう。見かけによらず欲張りだな」
「ああ……どうやらそうみたいだ。欲深い錬金術師にぴったりだろう」
 フフフ、と照れくさそうに笑う類につられて、オレまで顔がにやけそうになる。手の中の小さな石を天井の照明に翳せば、それはきらりと光を屈折してきらめいた。
……いい色じゃないか」
「そうだろう? 君はやっぱりイエローがよく似合うからね」
「ああ。……類の瞳の色だ」
……!」
 類の顔の横にピアスを翳せば、類は驚いたように目を見張った。
 自然とどちらからともなく指先が絡む。
 相変わらず心臓は類相手にドコドコ騒いでやかましいし、腹の奥はむずむずして居心地が悪くてたまらんのだが、――類も類で、なんだからしくない顔をしていたから。
「いいぞ」
「え……
「このピアスも気に入ったし、オレのこれからの『はじめて』、お前に全部やってもいい。ああ、だがオレばかりはフェアじゃないな……。これは類の『はじめて』を全部貰わんと、釣り合いそうもないんじゃないか?」
 どう思う? と早口に続けたオレを類はまじまじと見つめた。
 どうもこうもないわ、と我ながら思う。けれど類は口元に手を当て、「そうだね――」とやや赤く色づいた、真剣な表情で俯いて。
……じゃあ、手始めに……
 顔が近づく。吐息が唇に触れた瞬間、メデューサにでも睨まれたか、オレの体は石のように硬くなってしまった。
 ほんのり湿った類の髪の毛先が眉間に落ちる。逆光の中で光る瞳が美しい。やはり、あの石は類の瞳の色によく似ている。
「ファーストキス、してみるかい……?」
……それは名案だな」
 類の肩越し、天窓の先の濃紺に白がちらついているのが見えた。そういえば昔はあの窓からサンタが来るのだと根拠もなく信じていたな、と、何故か今ふとそんなことを思い出した。
 ああ、でも。
 柔らかな感触とあたたかさを知ってしまったオレの元には、きっともうサンタは来ないのだろうな。

 ……
 ――……
 ――――……

「あっ、咲希ちゃん! 司くん達どうだった?」
「もうバッチリだったよ〜!」
 廊下から急いで自分の部屋に戻ると、待ちきれなかったのかな、ドアの前で待ってたえむちゃんがすごい勢いでアタシに抱き着いた。
 アタシの言葉を聞いたえむちゃんの髪がぶわっと膨らんで、いえーいと何度もその場で手を合わせてくるくる回る。
「二人きりにしてあげる大作戦、大成功だねえ〜!」
「うんうん! えむちゃんのおかげだよ!」
 今回のクリスマスパーティー。きっかけは先日、宮女で零したえむちゃんの一言がはじまりだった。
 ――『司くんと類くん、お付き合いはじめたって言ってたのに……あたし達が一緒だとドキドキきゅーんって出来ないんじゃないかなって』
 ――『クリスマスもみんなで過ごそうって言ってくれたの、すっごくうれしいけど、でも二人に我慢させちゃうのは嫌だなあって……どうしたらいいのかなあ』
 話を聞いた瞬間、ピコーンって頭の上に電球が浮かんだんだ。
 だったらいっそのこと、みんなで過ごしてから二人きりにしてあげればいいんじゃないかなって!
 ねねちゃんやいっちゃん達にも協力してもらって、とにかく今日はお兄ちゃんとるいさんに『恋人らしいクリスマス』を過ごしてもらおうといろいろ頑張っちゃった。
 たとえば、お兄ちゃんの手作り料理でお料理も出来るところをさりげなくるいさんにアピールしてみたり。
 ゲーム大会では、お兄ちゃんとるいさんを同じチームにしたりもしたっけ。
 そしてパーティー解散後。お兄ちゃんの部屋の壁は一面だけ吹き抜けになっていて、アタシの部屋の前の廊下からこっそりと様子が見えるから、ちょっとだけ覗いてたんだけど……アタシ、たしかに見たの。暗くて見えにくかったけど、絶対絶対、お兄ちゃん達ちゅーしてた!
 きっと今頃は……。想像したらだんだん自分のことみたいに恥ずかしくなって、アタシは熱いほっぺを手で押さえた。
 えむちゃんと色違いのパジャマ(二人で買ったんだって。羨ましい!)姿でスマホゲームをしてたねねちゃんは、フロアマットの上で足を抱えながら、深いため息をついた。
「ほんと、二人とも不器用なんだから……年下に気、使わせないでほしい」
「でも草薙さん、司さん達のことすごく気にしてた、よね」
「そ、それは……別に……類はお隣さんだし、司もウチの座長だから……
 もにょもにょと話すねねちゃんに、ふふって笑いかける。
 ――お兄ちゃんとるいさんがお付き合いを始めたのは先月のこと。
 お兄ちゃん達はまわりに交際を隠すつもりはないみたいで、だからここにいるみんなも、うちのお父さんとお母さんも、るいさんがお兄ちゃんの彼氏だってことは知ってる。
 アタシも、ふらふらとした足取りで学校から帰ってきたお兄ちゃんに突然「大事な話がある」って言われて……、るいさんに告白されたからこれからお付き合いするんだって直接教えてもらったんだっけ。
 いつも堂々としてるお兄ちゃんにしては珍しく顔を真っ赤にしてて、お兄ちゃんにこんな顔をさせられるのはるいさんだけなんだなって思ったら、ちょっぴり羨ましくなっちゃったりもして。
 でも同じくらい、すっごくうれしかったのを覚えてる。
「いいな〜、アタシも恋したいよ〜!」
 わっとアタシが勢いよくローテーブルに伏せたせいで、いっちゃんとしほちゃんが作ってる途中のトランプタワーが崩れる。ちょっと、ってしほちゃんが怒る声が聞こえてきたけど、もうアタシの頭の中はさっきの光景でいっぱいだった。
 だってほんとに、見てるこっちがドキドキしちゃうくらい良い雰囲気だったんだよ!
 アタシもいつかあんな感じのドキドキ体験をしてみたい。だってそれってすっごく青春みたいだもん。お兄ちゃん、るいさんとちゅーしてどんな気持ちだったのかな。後で聞いたら教えてくれないかな……
「言っとくけど、プロのバンドマンになるなら恋に感けてる余裕、ないよ」
「ええー! そんなぁ……そこをなんとか! しほちゃん先生〜!」
「無理」
 ううっ、とりつくしまもない……
 でも、ちゃんとわかってる。アタシはもうプロになるって決めたし、まだまだ作曲も、キーボードの技術だって足りてない。これからだってたくさん練習して上手になって、アタシ達の歌を届けなくちゃ。
 がんばろう。もしかしたら、プロになったら、運命の出会いとかあるかもしれないし。うー、でも高校生って人生で一度きりなのに、いいのかなあ、こんなにのんびりしてて。
「咲希はまず、理想の相手を見つける方が大変かもね」
「え? どうして? いっちゃん」
「ふふっ……ちょっとわかるかも。だって咲希ちゃんの好きな人、『司さんみたいな人』だもんね」
「ええー! そうなの咲希ちゃん⁉︎」
「ちょっ、ちょっと待って、ちがうちがぁう! それは幼稚園の頃の話! さすがにお兄ちゃんは恋愛対象にならないからっ! るいさんにも悪いし……!」
 たしかに昔は大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるんだって思ってたけど! ほんとにちっちゃい頃だよ、まだとーやくんとも出会ってないくらい子供の頃の話!
 うう、でも理想が高くなっちゃうのはあるかも。だってお兄ちゃん、ちょっぴり変なところもあるけど、アタシにとっては宇宙一カッコいい最高のお兄ちゃんなんだもん。
 るいさんがお兄ちゃんを好きになっちゃう気持ちもわかるなあ。お芝居をするお兄ちゃんもすっごく素敵だもんね。
 せっかく結ばれた恋だから、お兄ちゃん達には幸せになってほしい。……ううん、きっと大丈夫。だってお兄ちゃんを見つめるるいさんの瞳はいつも、とっても、とーっても優しいから。
 マグカップヒーターに乗せていたカップを握りしめる。ほなちゃんが作ってくれたホットミルクは、あまくて、あったかくて、やさしい味がする。
――あ、でも、こんな恋がしたいな〜ってイメージならあるよ!」
 そう言い切ると、ローテーブルに肘をついてトランプを切っていたいっちゃんが「へえ、」ってアタシを見た。
「なんとなくわかるけど、一応聞こうか? ……咲希はどんな恋がしたいの?」
「えへへ――それはズバリ、もちろん!」
 ああ、神様仏様サンタクロース様。明日からはちゃんと良い子になります。
 ――なのでいつかアタシもお兄ちゃんとるいさんみたいな、素敵な恋ができますように!