ある日ある時

ふたりの日常の一コマ。
エット君の耳飾りはジグさん作で、エット君の宝物です。

ある昼下がり、地下の作業場で商売道具のペンチを握る。
手には見慣れた耳飾り。ぶら下がる赤い石と本体を つなぐ、ひしゃげた金属の輪を慎重 しんちょうに外し、真新しい輪と交換した。丁寧 ていねいに形を整えたところで持ち上げて、全体を確認する。
他に歪んでいるところは無さそうだ。
一息つき、 かたわらの布で磨いていく。
アクセサリーが元の輝きを取り戻したタイミグで、遠慮がちに扉がノックされた。
「はいよー。」
「箱、持ってきたよ。」
「おー。ちょい待ち。」
間延びした応答に、抑揚 よくようのない、どこか機械じみた声が返る。物が物だけにおそらく手が ふさがっているだろうと、作業を中断してドアを開けた。
案の定、頭が隠れる程大きな箱を抱えた同棲相手が、箱の脇から赤銅色の頭を出す。
「どこに置けばいい?」
「そっちの かどに置いといてくれ。あ、蓋は開けなくていいからな。そーっと置いてくれよ。」
横にけて道を開けてやりながら、 あごをしゃくって指示を出した。
なお、蓋を開けさせないのは中身が精密機械だからだ。
機械類に興味があるらしい相棒兼恋人は、触った物をすぐ壊すという習性がある。なおタチが悪ぃ事に、本人にその自覚は まったくねえ。
流石 さすがに仕事道具を壊されたら、泣く自信あるぞ、俺は。
「ありがとよ。届いたはいいが、重すぎてどうしようかと思ってたとこだ。お前が休みでよかったよ。」
指示通りそうっと箱を下ろしたアイツを いたわえば、ふるふると首を横に振る。
「気にしないで。あれくらいどうってことないよ。それより……直った?」
綺麗な柳眉 りゅうびを八の字にしておずおずと尋ねるアイツは、迷子の子供のように見えた。その微笑ましい表情に吐息で笑い、机の上の物を布に くるんで差し出す。
「ほらよ。新しい金具に変えたから、 しばらくは大丈夫だと思うぞ。ついでに みがいておいた。」
その眼前 がんぜんに出されたアクセサリーに二、三度目を瞬かせると、 うやうやしく手に取り、優しく両手で握りしめた。
そうして、
「ありがとう。」
と、礼の言葉と共に、ふんわりと笑う。
「べ、別にそれこそ大した事じゃねえよ。元々、俺が作ったモンだしな。」
普段の無表情から柔らかい笑みに変わるその瞬間を、逃すことなく見た。蕾から花開くようなその変わり様の美しさに見惚 みほれ、立ちすくむ。 あわてて体ごと目を逸らし返した言葉は、あからさまに照れ隠しだとわかるぶっきらぼうさで、自分で自分に叱咤 しったしたくなった。
もう少しマシな言葉返せよ、俺。
こっそり顔を おおって不甲斐なさに打ちひしがれていると、ふわりと温もりを感じて顔を上げる。
―― なぐさめてくれてんのかね。
真下の赤銅色の頭に手を這わせると、抱きしめる力が少し強くなった。
「どうした?」
……。」
訪ねても返ってくるのは無言で かたくなに顔は上げない。
なんなんだと思いつつも無理強 むりじいはせず、ただ抱き締め返して背中をトントンとあやす様に叩いた。オマケに尻尾も腰に巻き付けて密着させれば、ぐりぐりと頭を こすり付けて来る。ゆらゆらと揺れる耳飾りの赤い石が、天井の あかりを反射してキラキラと光った。
――ああ、幸せだな。
壁にもたれて、ふと思う。
恋人と抱きしめあうだけの時間が、ただただ愛おしい。
苦手な静寂もこの時ばかりは心地よく感じるから不思議だ。
ひとしきり抱きついて満足したのか、言葉にできない何かを消化出来たのか、おずおずと顔を上げる。言葉はなくとも、弧を えがく唇と端が緩んだ深緑の目が、今の気持ちを雄弁雄弁 ゆうべんに語っていた。
前髪をかきあげ額に唇を落とせば、首に手が回る。
そうして誘われるがままに、キスを交わした。

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