思わぬ特技

ジグさんの意外な特技。
細工切りを彼が習得しているのは、子供の頃に可愛い物好きの師匠兼養母に叩き込まれたからです。

ある日の昼下がり。
一日休みであるのをいい事に、リビングのソファに陣取って、つい昨日発行された週間レイブンのページを めくっていた。
今週の特集は、リムサ・ロミンサの有名レストラン・ビスマルクで行われた、調理師対抗の細工切り対決だ。
どれも見事なもので、見習いが作ったであろう簡単な花模様から、どうやったらそうなるの、なんて思うほど複雑な幾何学模様 きかがくもようまで、ありとあらゆる細工の絵が描かれている。
その中で一際 ひときわ大きく取り上げられているのは、まるで本物のような形をした、ドードーの飾り細工だ。
……凄いな。」
イシュガルドの貴族の一端 いったんとしてある程度の教養は身につけたけれど、こんな飾り細工は見たことがない。しかもそれが食べ物で出来ているなんて信じられない。
もっとも、オレが国にいた頃はまだ竜詩戦争の最中 さなかだったから、食べ物でこんな事をする余裕がなかっただけなのだろうけど。
思わず呟けば、背後からエプロン姿の同居人――もとい、相棒兼恋人が覗き込んできた。
「どうかしたか?」
どこか楽しげなその様子に、例のドードーの飾り細工を見せる。
「ほら、この飾り細工、全部食べ物で出来ているんだって。信じられないよね。それから、これも、これも、全部野菜や果物なんだって。凄いよね。」
元の形を知っているからこそ、その技術の素晴らしさを余計感じてしまう。
珍しく高揚 こうようする気持ちのまま彼に話せば、軽く目を見張った後、眉尻を少し下げた。
「ああ、なんだ。これか。」
「え?」
「ちょいと待ってろよ。」
そう事も無げに告げると、よっこいせっ、という掛け声と共に立ち上がり、キッチンへと戻っていく。
その後ろ姿を慌てて追いかけると、一本のクルザスカロットを取り出した。
……いったい何をするつもりなのだろう?
いぶかしむオレを他所 よそに、彼は慣れた手つきで包丁を滑らせる。
トントン、ザクザク、ショリショリ……
次々と作られていく細工に目を丸くした。
「ほれ、出来たぞ。」
可愛らしい花から、星芒祭に飾りつけられる星、向こう側が透けて見えるほど薄く削られた渦巻きに、黒衣森の花畑を飛んでいる小さな蝶々、極めつけはオールドローズそっくりな立体型の花の切り細工。
その出来栄えの良さと数に圧倒 あっとうされ、言葉がでなくなる。
そんなオレをしり目に、包丁を置いた彼は、しげしげと作り出した作品を満足げに見やった。
「久々にやったが、覚えてるもんだな。――っと、ぼちぼち煮えたか。」
そう呟いて、コンロにかかった鍋の方へと去っていく。
……手先が器用だとは思っていたけれど、まさかこんな事が出来るなんて。
改めて知った彼の特技に、驚いたやら、嬉しいやら、気恥しいやらで、雑誌ばりの見事な作品を前に頭を抱えた。

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