人は見かけによらない

買い物での一コマ。
エット君は特別力持ちというわけではなく、重たい物を上手に持てるだけだったりします。

「毎度ありー。」
間延びした店主の声を背に、荷物を抱えて店のカウンターを後にした。
「よっとぉ。……っはー、重てぇ。」
あまりの重さに耐えられず、足元に下ろす。
買い出しに出た黒檀 こくたん商店街で、シードルが安売りしていたからつい買っちまったが、流石に買い過ぎだったか。
――でも、美味かったしな。
試飲させてもらったが、程よい甘さと弱めの発泡 はっぽうで軽い飲み口のなかなか良い味だった。
それをアイツにも飲ませてやろうと思ったのが運の尽き。
俺もアイツも、それなりに酒が飲めるし、何よりお互い美味い酒には目がない。多分一瓶 ひとびんじゃ足りねえな、って所から値段の安さに飛びついて、つい箱買いしちまった。
これを無事に家まで運べるかってっと、正直微妙なところだ。けど飲ませてやりてえしな、なんて葛藤 かっとうしながら店の前でうんうん うなっていると、ちょうどその本人がやって来た。
珍しいこともあるもんだ。人混みが嫌いなアイツは、滅多 めったに商店街なんか顔出さねえのに。
「よお。珍しいな、お前がこっちに来るなんて。」
仕事帰りなのか、いつもの黒装束に身を包んだ相棒に手を上げる。
「ああ、うん。今日の討伐でマテリアが多めに手に入ってね。それの換金と、ついでに双剣の調整と整備を頼んでたんだ。そうしたらジグがこっちの店から出てきたから、何買ったのかなって。」
流石 さすがはフォレスター、目の良さは折紙折紙 おりがみつきか。紫檀 したんの端から黒檀に居る俺を見つけるたあな。
感心する俺を他所 よそに、アイツは足元の箱を指さし、首を かしげた。
「これ、何?なんだか凄く重そうだけど。」
「ああ、シードルだ。そこの店で安売りしててな。美味かったからつい箱で買っちまった。」
「ふうん。で、これ運べるの?」
苦笑いする俺に、眉を しかめて尋ねる。
うっ、痛い所を……
「が、頑張りゃなんとか家まで――。」
「この重さはジグじゃ無理だと思うけど。」
言い よどむ俺を一刀両断する。
……だよな。やっぱり無理だよな。
勢いに任せて思わずやっちまった買い物に後悔した。
仕方ねえ、顔役 かおやくのパルセモントレに頼んで台車でも借りるか、なんて考えていた矢先、
「よいしょっ。」
という軽い掛け声と共に、目の前の重たい箱が持ち上がった。
唖然 あぜんとする俺を横目に、平然とした顔でアイツは言う。
「それじゃ、帰ろうか。」
「お、おう……。」
箱を抱えてスタスタと、危なげなく歩いていくその姿に、そう返すのが精一杯だった。

後日、一部始終 いちぶしじゅうを見ていた店主には驚きと共に笑われ、愚痴 グチった先のマスターには あきれられちまった。
人は見かけによらねえって本当だよな。すました顔でフルートグラスを持ち上げる姿の方が、よっぽどソレらしいのに。
そんなことを思いながら、目の前のアイツと同じフルートグラスに入ったシードルに口をつけた。