チューブからクリームを絞り出して手に乗せる。チューブの蓋を閉じて片手で鞄に放り込んでから、手に乗ったクリームを両手で伸ばし、塗り込むように広げる。
慣れた動作だった。
手指は大切な商売道具でもある。CCMの操作をするのに乾燥でアカギレにでもなればたまったものでは無いし、タロットカードを扱うのに人前で手を晒すし、カードだって指を切る可能性があるのだ。
良いコンディションを保つのは当然の行いだ。
「さみぃのか?」
カウンターを挟んで向かいに立った郷田はヌッと手を伸ばして来て、まだクリームを塗り込んでいる最中の両手を片手で掴んだ。
「うわっ」
と、同時に間抜けな声をあげて、文句を伝える前に離れていく。
「……失礼な奴だな」
わざとらしく不機嫌を顕にして言えば、郷田は同じように両手を擦り合わせた。
「そんなにヌルヌルしてると思わなかったんだよ!」
両手をプラプラとさせて乾かすような仕草に、仙道はまた神経を逆撫でされた心地になる。
勝手に勘違いして、勝手に触れてきたのはそちらのくせに悪びれもない態度が気に食わない。
仙道は閉じたチューブの蓋を再び開き、手のひらにクリームを継ぎ足す。郷田に取られたからでは無い。
今度は閉じたチューブをカウンターテーブルに置きっぱなしにしてしまって身を乗り出すと、心なしかしっとりとした郷田の手を無理矢理引っ張って両手で握り込んだ。
「なにすんだよ!」
節くれ立った、自身より太い指、分厚い手のひら、全体的に大きな手。指の腹はやはり少し乾燥しているのか、皮がめくれかけているのが見えた。
手のひらをなぞって、甲に浮いた骨を撫で、指の間に指を滑り込ませて握り込む。
好きなように触れてやりながら郷田の顔を見やると、照れたような不快なような妙な顔をしていて愉快だ。
「仙道!」
存分に塗りたくってから、握った手を引いて顔を近付ける。郷田の身体がビクリと跳ねたのが分かったが、そのまま鼻から短く息を吸って、手を離した。
「ふん……」
香料の無いクリームだが、クリームの香り、というものはする。加えて郷田の匂いがした。
「こんなんじゃコーヒーが淹れられねぇじゃねえか!」
「ハッ! どうせ閑古鳥だろう?」
「ンだと!?」
息巻いた郷田だが、ハンドクリームなど塗らない彼は強い違和感があるらしい。口を引き結んで手首から先を振っているのを見ながら、仙道は入って早々に出されたコーヒーを煽った。
「お、スゲぇなこれ。仙道の手と同じ匂いだぜ」
同じクリームだから当然だろ。なんで俺の手の匂いを知っているんだ。そもそも俺の匂いはそんな匂いじゃない。妙な事を言うな。
コーヒーを口に含んだ仙道にはどれも発することは出来ず、コーヒーと共に飲み下すしかなかった。代わりにじろりと睨めば、まるで気にしていないとでも言うように郷田は目を細めて笑うのだ。
「……マズい」
小さく言ってから、空になったカップを置いた。
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