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みすず
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創作
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ミロキサ
ブラックジョーク。
「おちおち買い物もできねえ世の中とかクソ」
「キサラギ、左に回ってくれ」
「はいはい!」
「『はい』は一回じゃないのか?」
「ごめんなさいねえ!!」
侵略者からの襲撃である。
本日晴天。出撃もなく一日を終えて夕飯の買い物でもしましょうね、と商店を巡っていたキサラギとミロは、突如夕焼けをも遮る黒い影に単車へ飛び乗り、上空を旋回する巨大な鳥型の侵略者に舌打ちをしていた。
侵略者はペンキでべたべたと塗って描いた鶏のような形をしており、鶏冠の部分は血管の浮く生肉をてきとうに盛り付けたような醜怪さがある。ぱかっと開けられた嘴から雨のように降り出した鳴き声は意味を成していないように聴こえたが、後々に解析されたところによれば聖書を逆読みしたものであったらしい。人々の祈りをも嘲笑する侵略者に憎悪は止まない。
侵略者は上空をフレームの少ないモーション動画のようにかくかくとした動きで飛んでいる。優れた身体能力を持つミロであっても流石に拳を届かせるのは難しいだろう距離に、キサラギは彼に単車へ仕込まれた銃を持たせて運転に集中する。
肉弾戦を得意とするミロであっても兵士である以上、銃の扱いは訓練されている。一瞬やり難そうな顔をしたもののミロは侵略者へ向けて絶え間ない発砲を続け、キサラギは単車を街から離れた場所へ向かって走らせる。すぐ背後には混乱しながらも避難に走る民間人がいる。彼らに近づけないよう、侵略者を引き付けたい。
呪文染みた鳴き声を上げていた侵略者はミロの銃弾が届くと締められた鶏のような鳴き声を上げ、ふらふらと不安定な飛空を続けながら高度を下げてくる。耐久値は高くないらしい。ならば一気に撃ち落とすべきだと判断し、キサラギは「ミロ」と短く相棒の名前を呼んだ。
「Bか?」
「
……
Aのほうがいい」
「分かった──こちらEマル八番、七十四地区にてタイプ四四三飛行型侵略者の襲撃を確認。A型武器の使用を申請」
ミロが通信機で司令部に連絡を入れると一拍の間の後に古めかしい機械のような音声が「申請を確認」と返る。だが、続いた言葉はキサラギとミロの望んだものではない。
「申請を却下。民間人との距離が近すぎます。B型以下の武器にて迎撃をしてください。増援が必要な場合は
……
」
「侵略者の迎撃にはEマル八番が対応する。避難誘導員を送ってくれ」
早口で言って通信を切るミロの語気は荒く、ヒューマノイドであるキサラギにもいまミロが感じているであろう苛立ちは非常に共感できた。
「はは、信頼されてるな」
「これが?」
兵士として戦うために生み出されたミロだが、彼がもう少し私人としての情緒を発達させていれば押し付けられたのだと憤慨していたかもしれない。
「ミロ、偉くなったときのために覚えとけよ。戦力の逐次投入はアホだ」
キサラギはバックミラー越しに一瞬きょとんとしたミロの顔を見る。無防備な表情はすぐに迫ってきた侵略者への剣呑なものに変わり、ミロは銃口から一発一発が重たい銃撃音を響かせる。侵略者はゲエエエ、ゲエエエ、と濁った鳴き声を上げ、高く飛翔してから走る単車へ向かって真っ直ぐに滑空してきた!
「キサラギ」
「はいよ」
キサラギが手元を操作すると単車の側面が翼のように開き、収納されていた武器とそれぞれの強化部品が出てくる。ミロはそのなかから散乱式レーザー銃を取り出し、跳ねる単車をものともせず後ろ向きに座り直すと下半身の力だけで単車に跨ってレーザー銃の引き金に指をかける。
侵略者は一瞬で頭部をレーザーによって焼かれ、破壊されたが、地面に落ちた体は金属のようにぎらぎらと光る四本の脚で疾走を始めた。
「ああ、くそ。だからA型が良かったんだよ!」
「キサラギ、突っ込む」
「お前は簡単に無茶を言う」
だからUターンしてくれとも言わないミロの意図を汲み取り、キサラギは単車を大きく跳ねさせると一瞬ミロが宙へ跳ぶ瞬間に合わせて向きを後ろへ変える。前輪が地面に着いたのと同時、キサラギの後ろにかかるミロの重量。タイヤが唸り声を上げる。
前方には迫る侵略者。距離が近くなれば羽毛に似た体毛が鋭い刃となっているのが分かる。あれではただ体当たりされただけで一般人はミンチになるだろう。左様、あくまで一般人はである。
「俺たちがどれだけお前らと戦ってきたと思ってる」
再びミロが照射するレーザーが侵略者の体毛を焼き焦がし、怯んで侵略者が蹈鞴を踏んだと見るや彼はグローブをぎゅっと鳴らして単車を飛び降りる。
侵略者がどんな姿形を取るか、能力を有しているか、その体の構造、攻撃手段。人類は生き残るために調べ、学び、対抗手段を練り続けてきた。ミロのグローブも侵略者との戦闘を前提とした装備である。彼の強靭な拳は焼かれて鈍となった刃の体毛など容易く砕き、柔い肉を打ち据える。どちどちと重たい打撃音がぐちゃぐちゃと粘着質なものに変わる合間、キサラギは片手に構えた銃で振り上げられる侵略者の脚を撃ち逸らした。
連携を取っての戦闘を開始してどれほどか、侵略者は一番星の下で沈黙し、ただの肉塊として転がった。
途中で避難誘導を終えた兵士たちが駆けつけたおかげもあってキサラギとミロに目立った負傷はなく、彼らに後の現場を任せてふたりは帰還することになる。
「買い物全然できなかったな」
「ああ
……
飯は作れるか
……
?」
「今日は食堂使ったほうがいいかもな」
キサラギの返事にミロがむっと眉を寄せるが、その肩はしょんぼりと重たげに見える。その肩をキサラギは軽く叩き、ぐっと抱き寄せてから大きく笑う。
「明日また来ようぜ! なにが食いたい?」
問いかけるキサラギにミロは悩ましい表情を浮かべてから、思いついたように軽く頷いた。
「焼いたチキンがいい」
はて、この坊やはいつブラックジョークを習得したのかしら。
恐らくは純粋に食べたいものを口にしただけなのだろうが、さっきのいまのである。ミロの情操教育に不安を覚えたキサラギは最後には焦げ目の目立つ肉塊となった侵略者を思い浮かべ、軽くため息を吐く。
(やっぱりあいつらは害悪だな)
ヒューマノイドと兵士は今日も戦う。
それは平和な明日を勝ち取るために。のんびりと買い物をして、和やかに食卓を囲む日々を取り戻すために。
その日々を当たり前の日常とするために。
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