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望月 鏡翠
2025-01-29 15:34:45
1063文字
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日課
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#1618 「海藻」「宝」「かまど」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
海底の国には、素晴らしい宝物がある。それを手にしたものは海底の国の王になることができる。
そんな噂がありました。
だから高名な武人や、時の王様がその宝を求めて海底の国に向かいました。そこは万人に開かれた場所です。
美しく、食べ物もたっぷりと手に入り、しかも宝貝なども海底の国ならばいくらでも手に入るものですから、とても豊かな国なのです。
しかし、海底の国は海の底にあります。人はそこで生きていくことはできません。美しい景色に見惚れて、帰るのを忘れてうっかり眠ってしまった日には、溺れてころりと死んでしまいます。
だから海底の国は、まだ誰のものでもありません。
たくさんの人が挑戦したのですが、宝は見つけられません。やがてあれは誰のものにもならないのだと、人々は諦めてしまいました。
しかも偉い人は、自分のものにならないのなら誰にものにもなってはならないと、海底の国の入り口を閉じて、厳しく兵に見張らせていました。
海底の国が閉ざされてから,長い時間が経ってからです。
あるとき一人の貧しい男が、海の底の宝物を取りに海底の国に足を踏み入れました。
彼は名誉や豊かな国が欲しかった訳ではありませんでした。ただただ家族を食わせてやるための金が欲しかったのです。宝物ではなくて、いくつかの貝や魚を持って帰りたいだけでした。
門を守っていた兵士は、このような男に宝物を手に入れることができるわけはないと思いました。
確かに海底の国は閉ざされて長い。貝も魚も、ふくふくと大きく育っているはずなのです。
哀れみから、門は開かれました。
男は海底の国に踏み込みます。
そこは木のように海藻が立ち並び、鳥のように魚が頭上を泳いでいる場所です。その中で貝を拾っていた男は、一つのかまどを見つけました。もちろん、そこは国なのですからかまどくらいあります。ただし海の中で火は起こりませんから、なんの役にも立たないかまどの形をしたものです。
男はそこに集めた貝を置こうとして、ポコポコと空気が出ていることに気がつきました。真珠のように丸く輝く、空気の泡です。
それは煮炊きのためのかまどではなく、息をするためのかまどだったのです。無限の空気が、そこからは生じました。
男は、海底の国を己のものとするための宝を見つけることができたのです。
しかし、男は貧しかったものですから、そんなものよりも魚や貝を家に持って帰ることの方が大切でした。
かくして、海底の国は誰のものにもなることはなく、まだ底にあります。
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