ホットミルク

Twitterお題:最近寒くて寝付きが悪いと言ったら寝る前にホットミルクを作ってくれた。安心する味がする。今日はいい夢見られるかも お題より連想した話。寒さに弱いジグさんと寒さに強いエット君。


This novel was written by sheed/無断転載禁止・無断使用禁止・AI学習禁止
ある日のこと。まだ夜半前やはんまえだというのにくわっと本日何回目かの欠伸をし、しょぼしょぼする目をこする。どことなくぼうっとする頭を抱えていたら、りんとした声がつのに届いた。
「なんか眠たそうだね。」
緩慢かんまんに顔を上げれば、向かいのソファに腰掛ける 相棒兼恋人がじっとこちらを見ている。深緑の目がわずかにしかめられているところをみるに、どうやら心配してくれているらしい。
「あー……最近、なんかうまく寝れなくてな。」
バツの悪さにぽりぽりと後ろ頭の角をかきながら白状すば、ひとつこくりとうなずいた。
「そういえば眠りも浅いよね。」
やっぱバレてたか。
そりゃそうだよな。同じベッドで隣合となりあって寝ているわけだし。俺ならかく、気配にさといコイツが気付かねえわけがねえ。
はあっと重々しくため息をついた。
ここ数日、グリダニアにしては珍しく寒い日が続いている。そして温暖なグリダニア育ちの俺はこの寒さにすっかりやられちまっていた。
体が冷えてなかなか寝付けず、寝付いても直ぐに目が覚めちまう。浅い眠りを何度も繰り返しているせいで疲れが抜けず一日中だるい。そんな日が続いたツケか、今日はついに制作手順まで間違えちまって、失敗作の山を築くていたらくだ。
寝不足からか頭と体がやけに重いし、目がかすむ。どうしようもねえ疲労感にぐらぐらしていると、そんな俺を見かねたのか、向かいの相棒兼恋人が読んでいた本を閉じてポンポンと自分の隣を叩いた。
普段ならばちっぽけな意地を張って多少はあらがうんだが、今日はもう疲労困憊ひろうこんぱいで恥もへったくれもなく素直に従う。おまねきどうり隣に腰かければ、くいっとそでを引かれた。されるがまま横に倒れ、綺麗な脚線美きゃくせんびを持つ硬い脚を頭の下にいた――所謂いわゆるひざ枕の状態になる。そしてその事実に恥ずかしがる間もなく、ゆるりゆるりと頭をでられた。
心地良さに目を閉じる。
「やっぱり眠れない?」
うつらうつらとはするが、眠れるかってえとそこまでにはいたらねえ。細いがこれまた硬い腹に抱きつきつつ首を縦に振れば、少し困ったように眉尻まゆじりを下げた。
たいらな腹に顔を埋めると、優しい手つきで頭から角を通り、わき腹を辿たどって足にのせた尻尾を撫でられる。その心地良さにくたりと力が抜けた。
「ったく、いい歳こいて寒くて寝れねえなんてなさけねえ。おまけに今日は散々だったしよ。」
ついでに心のかせまでゆるまり、ついそう自嘲じちょうすると、尻尾をペシリと叩かれる。
「そういう事言わない。調子の悪い時もあるよ。」
埋めてた腹から顔を上げ目線を上げれば、少し怒ったような深緑と目が合った。けどそれもほんの一時いっときで、すぐに元の無表情に戻る。そしてまたゆるゆると尻尾を撫でながら思案するような口調で話し出した。
「だけど、寝付けないっていうのはかなり問題だね。アウラ族は体が冷えやすいのかな?」
「さあな。イシュガルド居た時はあんま気にならなかったんだが……。俺もとしくったかね。」
「またそういうこと言う。」
撫でていた手でまたペシリと叩かれた。
体が冷えているせいなのか疲労がまっているせいなのか、何となく気持ちがダウナーな方向になっちまってきていて、出てくる言葉が愚痴ぐちっぽくなる。
そんな俺の面倒くさい部分をいち早くぎとった恋人は、自分の脚から俺の頭を下ろすと、ちょっと待ってて、と言いおいてキッチンに足を向けた。
――おいおい、一体何をする気だよ。
アイツの不器用さ――というか雑さは身をもって知っているから、出来ればキッチンには入れたくねえしあちこち触っても欲しくねえんだが……どうしても体が重たくてここから動きたくねえ。
仕方ねえとあきらめて、この後待ってるだろう片付けの事を考えながらソファに残ったぬくもりにほほをこすりつけていると、ずいっと目の前にマグカップを差し出された。
のっそりと起き上がり受け取る。いぶかしげに中をのぞくと、それは真っ白なホットミルクだった。恐る恐る口をつけてみれば、味はいたって普通の――少しぬるいスイートミルクだ。
……お前、物によってはちゃんと作れるんだな。」
我ながらひどい言い草だとは思うが、普段が普段だからなあ……
思っていたよりも普通の物が出てきて、つい口がすべった。
途端に形の良い細いまゆがぴんっと跳ね上がる。
……文句があるなら飲まなくていいよ。オレだってミルクを温めるくらいなら出来る。」
こちらをにらんでくるその目は非常にけわしく、完全にへそを曲げちまった。
「悪かった。ちっと驚いただけだから許してくれ。――ありがとな、エット。」
己の失言にいさぎよく謝罪し、マグカップをかかげて礼を言えば、同じマグカップを両手で包み、顔を赤くして目をらす。小さな声で、どういたしまして、なんて吐き捨てるように言う姿が、とてつもなく可愛かわいくていとおしい。
今度はこっちが手招きをして恋人を呼び寄せる。抵抗もなく素直に隣に腰掛けてちびちびとマグカップの中身を飲んでいく様子を見ながら、俺も自分のマグカップに口をつけた。
ただのホットミルクだというのに、何故だかとても優しい味がする。それがどこか懐かしい。
そんな不思議な安心感にだんだんと心も体もあたたまり、飲み終わる頃には眠気が襲ってくる。
ああ、眠ぃ……
「ベッド行こう、ジグ。ここじゃまた冷えるよ。」
俺の手からマグを奪いローテーブルに置いた恋人が優しくうながした。それに生返事をしながら連れたってリビングをあとにする。
――今日はよく眠れそうだ。
少しだけミルクの香りがする恋人を抱きしめて、久方ぶりの深い眠りに落ちていった。
This novel was written by sheed/無断転載禁止・無断使用禁止・AI学習禁止