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スサ
2025-01-27 23:18:19
3149文字
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【鬼水】さえずり
プロポーズの日とお聞きして…。虫の声わかるし鳥の声もわかるよね?なんならすごく上手くさえずれるよね?と思ったので…。わかりにくいですができてる鬼水です。でもプロポーズは何度してもいいからね。(せやろか?)
高く澄んだ鳥の声が響き、もうすっかり春になったこと、何なら初夏が近くさえあることを知る。鳥のさえずりは多くの場合求婚のそれとされるから。
「
……
ん?」
しかし水木は微かに眉をひそめた。なんだか、
…
すこし、音痴、かもしれない
…
?
──春の早い時期、まださえずり慣れていないうぐいすを応援してしまうことがある。ちょっと下手っぴだな、それで大丈夫か、と。また、下手でもないのにだいぶ温かくなってから聞くと、うまく相手が見付けられなかったのだろうかと応援したくなる。
そんなことを水木にとって特別なあの子に言ったら、肩をすくめるようにしてくすくす笑った。あの子には鳥の、いや、鳥だけでなく、様々な生き物たちの言葉がわかるから。
「笑ったな、こいつめ」
そんな子はこうだ、とじゃれ合うように首に腕を回してぎゅうぎゅう自分の胸に押しつければ、くすぐったがるように笑って、苦しい、ごめんなさい、とすぐ降参したけれど。
「
…
あなたは優しいですね」
「
………
おだてたって、昼飯はラーメンから変わらないぞ」
鬼太郎は今度こそ声を出して笑った。
「水木さんの作ってくれるラーメン、僕大好きですよ」
……
結局その時は煙に巻かれてしまった。ということを、今、うぐいすではないが、少したどたどしく鳴く鳥の声で思い出した。
今日の水木は鬼太郎に誘われて、気持ちが良い森の中でピクニックとしゃれ込んでいた。朝早くに起きて用意したいなり寿司も、唐揚げも、ゆで卵も
…
、皆鬼太郎は喜んでくれた。もっと今時のものが作れたら、と後になって思ったりもしたけれど、鬼太郎は喜んでくれたからいいだろう。
水筒からお茶をついで渡してやりながら、水木は聞いてみる。
「なあ、今鳴いてる鳥、ちょっと
…
なんていうか、その
…
」
鬼太郎は軽く首を傾げた後、ありがとうございますとお茶を受け取ってから、下手ですね、と事もなげに言った。言い切った。
「
……
そこはもうちょっと。あるんじゃないか。
…
練習
…
してるのかもしれない」
人間よりもずっと自然に近しい幽霊族の少年
―
中身は三回くらい成人式を終えている計算だが
―
は肩をすくめた。特に厳しい様子ではなかったが、庇うような考えはないらしい。
「そんなのんきなことをしていたら繁殖の季節が終わってしまう。うまく鳴けるようにならなければ
…
」
水木がよほど情けない顔をしていたのだろうか。
鬼太郎は片目を瞠って、それからふっと細めた。やれやれ、というように肩をすくめ、それから小さく口元をほころばせた。
そうして、ピュイっと口笛を短く吹く。それは正しく鳥のような美しい声音で、水木は目を丸くした。虫と話しているのも、烏と話しているのも見たことがある。それでも、その美しく高い、一瞬の声に驚いた。軽く顎を上げた鬼太郎の、前髪で隠れたその横顔の美しさにも。
しかし本当に驚いたのはその後だった。
「
…
!?」
水木が見ている前で、青い鳥、そう、まさに見事な瑠璃色の鳥が鬼太郎の差し出した腕に止まったのだ。頭と翼が青く、腹の白い鳥
…
オオルリだった。
烏なら見慣れている。だが他の鳥も呼べるなんて
…
、それは考えたらおかしなことではないのだけれど、それでも初めて見た気がして驚いてしまった。
「このオオルリは、たぶん去年この森で生まれた」
「
……
それで、帰ってきたのか」
オオルリは春の半ばから終わり頃にかけてやってくる渡り鳥だ。美しい鳴き声でも知られている。雄は濃い青い背に白い腹をしている。
「どうかな
…
普通の山里の方が暮らしやすいように思いますけど。たまにいるんです、浅いところだけど、ゲゲゲの森の近くに迷い込んできてしまう鳥も」
「
……
」
鬼太郎は水木に答える合間に鳥に何事か話しかけている。
烏といる時の鬼太郎も、水木には聞き取れない言葉で、声で烏と話していて、正直に言うと、そういう時寂しさを感じる。何ならやきもちに似た気持ちがわくことだってある。
…
鳥相手にさすがに大人げないと思って、隠しているけれど
…
。
だが、その時は。どんな奇跡が起こったのだろう?
確かに水木には、その時鬼太郎がさえずりが少々下手なオオルリになんと話しかけたか、わかった気がした。
【聞いて覚えるんだ】
そうして、水木の聞いた言葉を裏付けるように、鬼太郎は見事なさえずりを歌い上げた。
「
……
あの、足しびれませんか」
「平気だ」
今、鬼太郎は水木の膝に載せられ、それだけでなく、ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられていた。水木は少し拗ねたような雰囲気で、めったにそんな姿を見せない人だから、鬼太郎は顔がにやけないようにする必要があった。
──オオルリにまさに実践でさえずりを聞かせてやるまでは良かった。たぶん。
問題はその後だ。鬼太郎の美しいさえずりを聞きつけて、雌のオオルリが集まってきてしまったのだ。教えてやるつもりが、むしろ恋泥棒といった有様。
雄とは違って地味な色合いの鳥達にぴいぴいまとわりつかれ、鬼太郎は苦笑していた。やはり何事か話しかけているのだが、今度は何を言っているかひとつもわからなかった。やはり、あの時だけが特別だったらしい。なぜかはわからないが
…
。
ただ、今現在鬼太郎が鳥にやたらとモテているということだけははっきりわかった。何なら水木をつついてくる鳥さえいたし。水木に危害を加えるような鳥には鬼太郎の鋭い視線が飛んだけれど、水木だって鳥に負けるわけにはいかない。
「鬼太郎は俺のだぞ、しつこいと焼き鳥にして食っちまうからな!」
なんて通じる通じないなどお構いなしで鳥を追い払う。
…
鬼太郎を抱きしめているのも、そういう主張のためらしい。この人かわいすぎるな、と鬼太郎は胸のうちで吐露した。どうにも自分のことになると自信がなくなりがちな水木をここまでにしたのは間違いなく鬼太郎なので、僕が育てましたの顔をしたくてたまらない。
…
と、そんなほとんど茶番のような事態が起こる中、下手っぴだったオオルリが鳴いた。飲み込めたのか、単純に声帯の使い方に慣れたのか、最初とは聞き違える程に音が伸び、上手くなっている。
「おお!」
そのさえずりに、水木がぱっと顔を輝かせたのがわかった。
…
こうなると今度は鬼太郎が少し面白くない。少し、だけれど。
「
……
なあ、これ、俺には綺麗な声にしか聞こえないけど、やっぱりその
…
」
「口説いてるんですよ。嫁に来てくれって」
「
……
だよな」
水木は苦笑し、ゆるやかに鬼太郎を抱きしめた。人間達が静かにくっついている間に、鳥たちがそれぞれに去って行く。上手くなったオオルリと一羽の茶色い鳥が連れ立っていくのが見えて、鬼太郎って教えるのがうまいのかな、と水木は思った。さすが俺の鬼太郎、と。
…
こっそり、胸の内で。
しばらく黙って水木のなすがままになっていた鬼太郎は、鳥たちがそれぞれ去っていったのを確かめ
―
実際は、そうするように鬼太郎が告げたのだけれども
―
、水木の腕の中伸び上がるようにして、彼の耳元に囁いた。
「
……
水木さん、耳を貸して」
「え?」
突然の囁き声と近づいた唇に、水木の声が揺れる。
そして耳に飛び込んできたのは、声量を抑えた、先ほどのさえずり──と、よく似た短い鳥の歌。
「
………
」
水木は、目を丸くして鬼太郎を見た。
悪戯めいた顔でもしているのかと思ったがそんなことはなく、鬼太郎は、穏やかに笑っていた。
「僕が愛を乞うなら、あなたにしかしない。やきもちなんかやかないで大丈夫ですよ」
「
……………
っ」
水木の顔は一瞬で赤くなり、彼は言葉を失ったまま、
…
とりあえず照れ隠しで茶色い頭を軽くはたいた。
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