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タロイモ
2025-01-27 23:01:42
10153文字
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初めの夜に至るエトセトラ
みっつさん(@mimituame )主催の素敵企画に参加させていただきました!開催ありがとうございますm(*_ _)m
プロットのご提供ありがとうございます😭✨️
モダモダする二人が好きなので、初夜に至るまでをめちゃくちゃモダモダさせましたm(*_ _)m
すみません無駄に長いです。ギチギチ一万字!
突然だが、バーソロミューは激怒していた。
同業者連中に全てが計算ずくの伊達男と揶揄されることもあるこの海賊紳士は、いつも脳内で数手先まで予測を走らせ、合理的に算段をつけ、そうして一番適切と思われる表情を顔に貼り付けて行動する事に長けた男である。それ故に、普段の彼は感情をそのまま表に出すことは少ない。少ないが、今回はその例外のうちの一例であった。
つまり、彼は絶賛、珍しくその内なる怒りが表出してしまっていた。
起動したシミュレーター内で、バーソロミューはひたすら敵を切り刻んでいる。そうしなければ、他の何かに八つ当たりして暴れ出しそうだからだ。
海戦、それも船同士での模擬戦闘を想定したシミュレーションモデル。大元となっているのは、あのネオ・アルゴノーツが駆け回ったというアトランティスの記録だ。
本来なら緻密に計画を立て、船を配置し敵と交戦するのが正道のシミュレーションであるが、今のバーソロミューの動きはその真逆を呈していた。
手当たり次第に彼の船ーーロイヤルフォーチュン号を敵艦に接舷させたかと思えば、エネミーとして配置された敵影に迷いなく接敵し、淡々と、まるで機械のように屠っていく。その動作は正確無比、しかし手つきは反比例して非常に荒いものだった。
カトラスを握り締めては叩き割るようにして敵の骨を断ち、銃を抜いては照準もつけずに撃ち込む。あるいは直接の殴打や、時に鋭い蹴りも混ざった。その身のこなしは普段の何倍も粗雑で、それでいて確実に敵を破壊していくのだから恐ろしい。
平生のにこやかな、紳士然とした笑みはなりを潜め、端正なその顔からは全く表情が読み取れない。だが、海を映したような紺碧の瞳には、相反するように掠奪者としての火が燃え滾っていた。
それをモニター越しに見やりながら、まだ少年と言ってもいい見目の歳若いマスターは大きく嘆息した。
「
…
これ、キレてるよねぇ」
「キレてるねぇ」
「キレてますわねぇ」
「キレてんなぁ。どーせ犬も食わねぇってヤツでそ?」
マスターの横で同じようにモニターを覗き込んでいた古参の海賊連中ーーメアリー・リード、アン・ボニー、黒髭ことエドワード・ティーチからも、概ね同意ととれる返事が返ってきて、マスターはさらに頭を抱えた。何となく理由は分かっている
…
ちょっと頭痛のするような理由であるが。
「やっぱり原因はパーシヴァル?」
「それ以外にあのエセ紳士がここまでキレねーデショ。マスターもいい加減お気付きなんじゃねーの?」
ばりばりと頭を掻きながらそう返した黒髭は、「あーヤダヤダ、馬に蹴られたかねーですしおすし!」と付け足して、喧しく足音を立てつつシミュレータールームから出て行った。その後を追うようにして、メアリーとアンもそそくさとその場を去る。気にはなるが、巻き込まれるのは御免だ、ということだろう。
一人残されたマスターは、ハリケーンの大海原の如く荒れた男がシミュレーションを終えて出てくるまで待つかどうか暫く悩んで、結局は待つことを選んだ。それくらいには、彼を喚んでから絆を深めていたので。
「もー
…
ちゃんとくっついたんじゃなかったのかよー!」
モニターの音声はオフになっている。マスターの声は、無音の室内に小さくこだまするばかりだった。
※ ※ ※ ※
マスターのリフレッシュ夏季休暇の行き先として BBがセッティングしたという、近未来都市ドバイ。そこに同行するサーヴァントとしてバーソロミューが選ばれ、望外にもかけがえのない一夏の思い出を得てから暫く。
まさかその一夏の思い出に加えて、同性の恋人ーーそれもぴかぴかに輝く一等美しい宝石のような男を手に入れるなんて、おそらく半年前のバーソロミューが聞いたならば一笑に付してしまうに違いない。そうはならんやろ、と。
だが、半年後のバーソロミューはそれに声を大にして反論するのである。なっとるやろがい、と。
つまるところ、あのドバイで夏の魔物に襲われた最後の大海賊ことバーソロミュー・ロバーツは、何の因果か円卓第二席にして聖槍の守護者、サー・パーシヴァルと恋に落ち、ひと夏の思い出と割り切っていた所を口説き落とされ、あまつさえ交際をスタートしていたのである。
何度思い返しても信じられない、とバーソロミューは思う。一介の船乗りとしては割と数奇な人生を送った自覚があったが、死後にサーヴァントという仮初の生を受け、その上に御伽噺の騎士様に愛され付き合い始めるなんて、なろう系主人公も真っ青だ。生前の稀有なあれやそれやが霞んでしまうというものだった。
さて、付き合い始めてからはや三ヶ月は経つのであるが、実を言うとバーソロミューには彼の騎士と付き合っているという実感が薄かった。
というのも、未だにあの騎士はバーソロミューに『性的な意味で』手を出してきていないのである。
何度か勢いに任せてバーソロミューからキスはした事もあるが、その度に彼が茹でダコのように真っ赤になってしまうので、何となくそれ以上は手が出せずにいた。清いお付き合い、というヤツだ。
そのくせ、パーシヴァルは二人きりの時はこちらが溶けてしまうんじゃないかというぐらい熱の籠った目で見つめてきては、同じぐらいの熱量で甘い言葉をバーソロミューに投げつけて来るのだ。どこまでも澄んだ蒼穹の瞳は、いつだって雄弁に「好きです!」と語りかけてきていた。そうかそうか、ならばとっとと手を出したまえよ。これではまるでローティーンの恋愛だ。
サーヴァントは見た目の年齢に内面が引っ張られるというが、あの騎士はどう見てもバーソロミューより歳若い。しかし子供という訳でも勿論ない。
同じ男だからこそ分かるのだが、普通あの年代ならば『ヤりたい盛り』だろう。それなのに、この老若男女問わず目を引くと謳われた美貌の持ち主であるこの私に手を出して来ないなんて、というのがバーソロミューの主観であった。
男同士?そんなものはこの世紀の色男にとっては些事である。公式イケメンを舐めるなよ。
もしや彼の逸話からして、聖槍の守護者として純潔を護らねばならないのかとも考えたバーソロミューは、恥を偲んで他の円卓の騎士たちにそれとなく聞きに行ったりもした。
…
が、どうもそういう訳でもないらしい。
何なら、(畏れ多くも)彼ら円卓の騎士の供する茶会に招かれた際には、夜の作法や、男性と『致す』にはどうすれば良いかとの相談も受けたとガウェイン卿からは聞いてしまっていた。バーソロミューも流石にその時は含んでいた紅茶を噴き出しそうになったし、藪蛇だったと深く反省した。
ともかく。あの騎士に『そういう欲』があり、男である自分と『そういう事』をするつもりがあるのは分かったのだが、如何せん彼は『そういう意味』でバーソロミューに触れて来なかった。それは三ヶ月経った今も、である。
お陰で人心掌握に精通していると自負のあったバーソロミューは、すっかり自信を失くしてしまった。パーシヴァルが何を考えているのか、さっぱり分からないのである。
ならば、と、いい加減やきもきしていた海賊の方が先に撃鉄を上げるのも必定というものだろう。彼とて男で、それなりに欲はあったし、生前にそういう経験が無かった訳でもない。
…
要は、バーソロミューとて欲求不満なのである。
与えられないのなら、奪ってしまえば良い。こちとら掠奪はお手の物、そのスピードにかけてはスキルに昇華されているレベルである。
という訳で、バーソロミューは動いた。
具体的には、一週間前に遡る。
※
その日、バーソロミューは伊達男かくやあらんという風情で、まぁそれはイイ感じにパーシヴァルに夜のお誘いをした。
…
もちろん二人ともいい大人なので、それとなく匂わせる程度に、ではあるが。
すると、存外にも騎士はその誘いに乗って、夜半には海賊の根城に訪れた。ひとまず作戦成功、である。
その後、予め照明の照度を落とし、香を焚いておいた自室にバーソロミューは騎士を招き入れた。雰囲気づくりというのは大事だ。
それからラム酒入りの紅茶を供し、取り留めもない話をいくらかして
…
会話が途切れた時に、海賊はベッドに腰掛ける騎士から、静かに唇を奪ってやった。
唇を離すと、彼は酔ったようにぼうっとしていたので、バーソロミューはこのままいけそうだな、なんて呑気に考えていた。
騎士のがっしりとした太腿に腰を下ろし、バーソロミューは彼の形のいい額や鼻先に、慈しむような、触れるだけの口付けを落とした。彼の喉がごくりと鳴るのが聞こえて、バーソロミューは我知らず唇を舐めて濡らしていた。
そうして彼に見えるように態とらしく飾り襟をするりと外し、シャツの前を寛げて、酩酊したかのようなの豊かな体躯をベッドに押し倒しーー
「
…
っ駄目だバーソロミュー!こんなのは良くない!!」
そして、唐突に我に返った騎士に肩を掴まれ、バーソロミューは逆にベッドに押し倒されてしまった。
いや、訂正しよう。そんな色気のあるものではなかった。ベッドに押さえ付けられた、が正確な表現だ。高級品とは言い難いスプリングに叩きつけられて、バーソロミューの頭はぐらんぐらんと嵐の船内のごとく揺れた。
あまりに突然の事で反応出来ずにいると、騎士殿が小さな声で「ちゃんと、段階を踏んでから
…
」と自分に言い聞かせるようにして呟くのが聞こえた。彼の手に込められた力は何なら痛いくらいに強くて、急激にバーソロミューの頭の芯は冷えていった。
状況を整理しようと、目の前の高潔なる騎士を見やる。彼の目元には明らかに欲の色が滲んでいたし、耳や頬は薄暗くても分かるくらいに真っ赤だ。そして何より、期待からか彼の下肢は笑ってしまいそうなぐらいに反応していた。バーソロミューの太腿に触れるソコは、まだ触れてもないのに形が分かる程度には硬くなっている。若いなァ、なんて脳みその隅の方で思った。
バーソロミューは、これ以上無いぐらいにスマートに誘い、着実に段階も踏んだはずである。さらには、騎士自身もこんな風に反応しているし、さっきまでいい雰囲気だったはずだ。
…
なのに、この騎士は今更何を言っているんだ?
疑問の後に沸々と湧いてきたのは、この完璧とも言えるお膳立てを無碍にされたという怒りだった。
元来、バーソロミューは短気なタチである。常時は伊達男たれ、紳士たれ、と自らを律し、本音を隠しているだけに過ぎない。なのでこの時、ぷちん、と音を立てて、バーソロミューの中で何かが切れた。
騎士の両腕に押さえられた肩を、船上で鍛えた膂力でもって押し返す。うわ、と声が聞こえたが、知るものか。そうして無防備に浮き上がった騎士の上躯、その中央にある鳩尾に、バーソロミューは慣れた手つきで鋭く拳を突き入れた。人を殴りつけるよく知った硬い感覚の後、くぐもった呻き声が聞こえる。ざまぁみろ。
咄嗟のことで受け身も取れなかったのか、騎士は後ろに倒れた。げほっ、と一つ咳き込むだけで済んでいるのに腹が立つが
…
その大きな身体を跨ぐようにして、バーソロミューは仁王立ちとなった。
「
…
私に恥をかかせるとはいい度胸だな、」
我ながら、中々ドスの効いた声が出るものだとバーソロミューは思う。地を這うような声に流石に怯んだのか、騎士は縋るような目で海賊を見上げた。
「ちがっ、」
「何が違うと言うんだね?
…
まぁいい、どうでもいい。私はやりたいようにやる。貴殿もそうするがいい」
そこまで言って、バーソロミューは恣意的に霊基を一番重装備のものに編み直し、これみよがしにブーツの音を立てながら甘ったるい香りのする自室を出た。少し遅れて、後ろから追ってくる騎士の気配を感じたので、さっと霊体化してしまう。
そのままバーソロミューは、するするとストームボーダーの壁を抜け、天面を抜け、ついには轟々と風を切る音のする甲板に出た。霊体化とは、非戦闘時においてはつくづく便利なものだ。
辺りを見回せば、真っ白な何もない大地と、天上には星々の散らばる真っ暗な夜空が広がっている。頭を冷やすには丁度いい、おあつらえ向きの殺風景な景色だーーいや、何故私が頭を冷やさねばならないんだ?
あぁ、駄目だ。駄目だ。数多の船を手中に収めた男ともあろう者が、こんなにも感情が抑えられないなど。人畜無害そうな顔をした騎士一人のために、こんなにも心を乱されるなんて。
(ーークソったれめ!!)
霊体化しているので誰にも聞こえなくて良かったと思いつつ、バーソロミューは普段ならば絶対に口にしない汚い言葉で悪態を吐いた。
※
ーーというのが一週間前の夜の話である。
あの後、バーソロミューは翌朝には何事も無かったかのように皆の前に姿を見せた。何せ大人で、サーヴァントの身でもあるもので。元々、気持ちを切り替える術には長けていた。それは勿論、恋人たるパーシヴァル卿の前でも、である。
だが、こともあろうかあの騎士は、今度は目に見えてバーソロミューに触れて来なくなった。それどころか、まるで怯えたようにこちらを伺うような素振りすら見せるようになったのだ。
お陰でうっすらとしか事情を知らないマスターには白い目で見られるし(付き合い始めたとだけは言っている)、海賊連中には何したんだと面白がられるし、散々である。まるで此方が悪者のようではないか、全くもって遺憾である。いや悪人ではあるが。
そのまま一週間が経って現在に至るのだが
…
考えると未だに腹が立つので、思い出さないようにしている事でもあった。
※
シミュレーターは尚も続く。
バーソロミューは喉奥が灼けそうな感覚を呑み下しながら、無心でカトラスを振るい銃を撃った。敵の強さを自分と同等程度に設定しておいて良かった、と思う。いくらか攻撃を喰らいながらも相手を倒すこの『作業』は、まさに生前もよくやった命の取り合いのようで、何もかもを忘れて没頭させてくれるものだったからだ。
…
しかし、終わりというものは何にでも、そして突発的に訪れるものであり。
ほんの一瞬、敵の斬撃によりバーソロミューの集中力が僅かに途切れた。そう思った刹那。
敵の船が放った魔力砲弾が、バーソロミュー目掛けて飛んできてーー
「っはぁ〜
……
ゲームオーバーだな」
あえなく敵に倒され、演算装置から放り出されたバーソロミューは、深くため息を吐き出した。シミュレータールームは今日いっぱい貸切にしているのだか、時刻は既に21時を回っていた。疲れたし、引き上げる頃合だろう。
シミュレーターの良い所は、実際にはダメージが霊基に反映されない所である。勿論、気力や精神力的な部分は削れるので、そこら辺はゲームと似ているかも知れない。ただいま現実、といった所である。
「お疲れ様!」
ふと。無人だと思っていた室内に、よく知る明るい声が響いた。驚いて顔を上げると、そこには何故か保温性のマグボトルを持って立つマスターがいた。
バーソロミューが何某かを言う前に、少年ははいどうぞ、とボトルを手渡してくる。少々面食らいつつも「ありがとう、」とバーソロミューがそれを受け取ると、中身は温かいカモミールティーだった。恐らくマシュにでも淹れてもらったのだろう、少し口に含むと、ささくれ立っていた心が僅かに凪いだ。
(さて、この少年は私が出てくるのを待っていたようだが
…
そんなに暇ではないよな。一体何のために?)
探るような目でマスターを見ていると、それが知れてしまったのか、少年はにこりと一つ微笑んだ。彼のこの下心のない笑みに、実はバーソロミューは滅法弱い。色々な悪どい隠し事が出来なくなってしまうからだ。
はて何を言われるのかと思っていると、夏空の様な瞳をきゅっと細めてマスターは告げた。
「模擬戦闘後でお疲れのところ申し訳ないけど、ちょっと会わせたい人がいます」
その言葉に何だか嫌な予感がして、バーソロミューは知らず片眉を釣り上げていた。
マスターに促されて向かった先は、何故かバーソロミューの自室だった。相手はこの中で待っている、ということだろうか。
マスターに問おうとすると、彼は「オレの仕事はここまで!じゃっ!おやすみ!」と歩いて行ってしまった。
…
じゃ、では全く分からないんだが。
しかし、何となく中に誰がいるのかは想像がつく。バーソロミューは一つ諦めたように細い息を吐いて、自室の扉を開けた。
すると、そこには予想通りの白銀の騎士とーー予想外に、もう一人の騎士が立っていた。
「っ、ベディヴィエール卿?」
「やぁ、お久しぶりです。船長殿」
白絹のような髪を持つ銀腕の騎士
…
サー・ベディヴィエールは、穏やかな微笑みを浮かべ、恭しく胸に手を当て目礼した。
それからやや眉尻を下げ、申し訳なさそうな表情を浮かべてから、この度は、と王の右腕は続けた。
「我々円卓の騎士の一員たる、サー・パーシヴァルが、貴殿に『色々と』失礼を働いたようで」
そこまで言って、騎士はそっと頭を下げるものだから、流石にバーソロミューは狼狽えてしまったーーウェールズの誇り、円卓の騎士に頭(こうべ)を垂れさせるなんて、あまりにも畏れ多すぎる。
「ちょっ
…
ちょっと待ってくれサー!私は、貴殿に頭を下げられるような謂れは無いはずだ!」
「いいえ。此度のことは、元を正せば私がパーシヴァル卿にしたアドバイスが原因なのです」
そう言って、真摯に謝罪をしてくる銀腕の騎士に、バーソロミューはうん?と内心首を傾げた。アドバイス?
「詳しくは、こちらの愚か者から説明いたしますので。
…
申し訳ないが、私はこれにて失礼させて頂きます」
ベディヴィエール卿は、その見目からは想像出来ないほどきっぱりとした口調でそう宣い、では、とバーソロミューの横をすり抜けるようにして去って行った。
残されたのは、気まずい雰囲気を纏う二人の男だけだ。何となく、どちらとも言葉を発しにくい雰囲気だった。
「
…
とりあえず、座りたまえよ」
先に口を開いたのは、やはりというか何というか、バーソロミューの方だった。
ベッドの前で立ち尽くしていた騎士に、仕方なしとばかりに声をかける。騎士は小さな声ではい、と応えてから、ゆっくりとベッドに腰を降ろした。ぎしり、と彼の重みに寝具が軋む。
この部屋には椅子が一つしか無いから、その場所が彼の定位置ではある。のだが、つい一週間前の事が思い出されてしまって、バーソロミューは少し苛ついてしまった。
「さて、言い訳を聞こうか」
どかり、と椅子に身を沈め、足を組んで騎士と向き合う。バーソロミューはメカクレのような秘匿性に美を見出すものの、人間関係だとか恋愛だとかは、回りくどいのは正直嫌いだった。そういうものは何事もシンプルな方がいい。把握し易いからだ。
向かい合った騎士は、ほんの少しだけ視線を泳がせて僅かに俯いたが
…
ややあって顔を上げた時には、まるで戦場に向かう時のように精悍な顔つきをしていた。射るような視線は、覚悟が決まった証左だろう。
…
なんだ、ちゃんと目を見て話せるんじゃないか。
「先ずは、貴方を傷付けてしまった事に対して、謝罪を。それから
…
私の思いと考えを伝えきれていなかった事を、釈明させて欲しい」
そう言って、彼はその『釈明』とやらを話し始めた。
※
曰く、パーシヴァルはバーソロミューと恋仲となってから、かの円卓の騎士たちに何度か恋愛相談をしたらしい。(そこはバーソロミューも彼ら本人の口から聞いている。)
しかし、ロマンスに事欠かない彼らからのアドバイスは、潔癖な彼にとってはあまりに『即物的』に感じてしまったのだという。聖槍の守り手は、果たして結果よりも過程を重視する性質だったもので、百戦錬磨の彼らとは根本的に反りが合わなかったのかも知れない。
そこで彼がアドバイザーとして白羽の矢を立てたのが、円卓随一の人格者であるベディヴィエール卿その人であった。
「で?その彼のアドバイスに従った結果が、『アレ』だったと」
「それは
…
面目次第もない
…
」
素直に頭を下げる騎士の左頬は、よく見ると少し腫れて赤みが差していた。
…
これはもしかしなくても、ヌァザの手ーーアガートラムで殴られたんだろうか。ベディヴィエール卿は円卓の中でも温厚な方だと思っていたが
…
案外過激なのかもしれない。
「私が卿にいただいたアドバイスは、『しっかりと段階を踏んで、ステップアップすること』でした。ですが
…
私は少々、その
…
意味を履き違えていたようで
…
」
そう言って目を伏せて身をすくめたパーシヴァルの身体は、常よりもやや小さく見えた。とはいえデカいのは変わらないのだけど。
「じゃあ、貴殿は私とどうしたかったんだい?」
それを見て、何だか急速に怒りが萎んできたバーソロミューは、誘導尋問のように問いを投げかけてやる。パーシヴァルは、俯きがちになっていた顔を上げて、一つ一つ言葉を紡いだ。
それはまるで、星に願いをかける子供のようだった。
「私は
…
貴方と共に、仲を少しづつ深めたかった」
「うん」
「知らない街を、手を繋いで歩いて」
「うん」
「夕陽が見える砂浜で
…
貴方にキスをして」
「うん」
「素晴らしい夜景を見ながら、二人きりで食事をして」
「うん」
「海が見えるホテルで、貴方に薔薇の花束を渡して」
「うん」
「そこで、貴方にプロポーズをして」
「うん」
「
…
貴方と、結ばれたかった」
そこまで言い切って、パーシヴァルは熱を持つ顔を誤魔化すように、口元に手をやった。残念ながら、全く隠せてはいないけれど。
「なるほど。貴殿は律儀に、その『計画』を一から順にやろうとしていた訳か」
蓋を開けてみれば、何のことは無い。
ただ、この騎士は馬鹿が付くほど正直で、愚直で、そして自分の作ったルールに縛られる、清き愚か者だったというだけだ。秩序・善の擬人化のような男である。
その上で何ともまぁ、可愛らしい計画を立てたものだった。
でも、と、尚も騎士は続ける。
「これはただの私の理想だ。貴方と共に描くものじゃない。そもそもそこが、間違っていたんだと思う」
深刻な表情をして、騎士は言う。どうやら彼は、自分で気付きと答えを得たようだった。
なんだ、そこまで分かってるんじゃないか。
バーソロミューは途端に面白くなってきて、ふは、と吹き出した。
この騎士は、少しきっかけがあれば直ぐに答えに辿り着けるのに、それが無ければ延々と同じ所を回る男なのだろう。
…
あぁ、なんて、愛おしい愚かさか。ならば気付きついでに、教えてやろうというものだ。
「パーシヴァル。貴殿は順を追ってと言っていたが、」
「はい」
「思うに、貴殿が今言った『計画』に類することを、私達は既に今までの間に、積み重ねてきてはいないかな?」
「
…
え?」
「ドバイに赴いて、私達は知らない街を共に歩いたろう?夕陽が見える砂浜にも行ったし、私からだがキスもした。ブルジュ・ハリファからの夜景も眺めたし、海が見えるホテルにも泊まった」
ぽかん、と口を開けた騎士に、バーソロミューはくすくすと笑いながら、とどめの一発をくれてやる。
「
…
あとは、私がプロポーズを貴殿から受けて、結ばれるだけだと思うんだが?」
バーソロミューは立ち上がり、固まる騎士の膝の上に乗って、その肩に腕を乗せてするりと回す。それは、一週間前と全く同じ動作だった。
「さて。貴殿はどうしたい?」
サー・パーシヴァル。
耳元に吹き込むように囁いてやれば、白い巨躯は面白いほどに揺れた。騎士の耳や首筋は、血を透かして真っ赤に燃えている。
少し身を離して銀糸から覗く美しい瞳を覗き込めば、薄青の宝石には情欲の炎が宿っていた。聖人のような普段の彼からは想像もつかないぎらついた視線に、バーソロミューはじくじくと肚の底が疼くのを感じる。
あぁ、この清廉なる男を獣に貶めているのは自分なのだと、暗い興奮が冷めやらなかった。
「私、は」
「うん?」
「
…
貴方を、愛しています」
ここに、薔薇の花束は無いけれど。
陽の沈む浜辺も、豪奢な夜景も、海の見える景色も見当たらないけれど。
「貴方を、愛する許可を、栄誉を、愚かな私に与えてください」
懇願のような、贖罪のような、祈りのような。プロポーズというには、あまりに稚拙で敬虔な言葉が並ぶ。しかし、ただそれだけで、バーソロミューの心は充分満たされていた。
そも、既にこの心は、彼の一挙手一投足で千々に乱れるほど、彼に奪われているもので。そんなこと、お首にも出さないけれど。
「パーシヴァル・ド・ゲール。一つ教えておこう」
告白へ返答するでもなく、海賊は海賊らしく返答を煙にまく。
「海賊とはね。奪って、奪い尽くして、最後には奪われる者なんだ」
しかし、それは否定の言葉ではなく。
「だから、君は与えられるのを待つんじゃなくて、奪ってみせたまえ」
にい、ととびきり悪い顔で微笑みながら、黄昏の大海賊は白亜の騎士の唇を、再び奪ってやったのだった。
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