めめた
2023-02-22 21:24:09
2625文字
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りゅぱん

未確認会話あります。



 愛しい声で目が覚める。なんと幸福なことか。さらに目を開けば愛らしい顔で起床を迎えてくれる。きっと自分も、今同じような目をしているのだろう。
「おはようございます。神竜様」
「おはようございます。パンドロ」
 朝は、幸せだ。千年に比べれば決して長くはない眠りから覚める。起こしてくれる人がいて、言葉を交わすことができるのだから。
 けれど、リュールは漠然と物足りなさを感じていた。
 夜眠る時の静寂。人と別れて部屋に戻るときの焦燥感。広い部屋に大きなベッド。ぽつんと座る、一人。
 これが物足りない、ではなく、寂寥であることに気が付くのはそう時間がかからなかった。
「それでは、また明日」
……あの」
「! どうかされましたか?」
 過ごし慣れた部屋の扉の前。ここまで見送りに来てくれたパンドロは、リュールが部屋の中へ入るのを待っている。それをありがたく思いながらも、リュールは離されたばかりの手を取った。
「一緒に眠りませんか?」
「はい!?」
 思わず飛び出た大きな声は、静かな廊下に響いてから消えた。
「し、神竜様!? 突然なにを……?」
「駄目でしょうか……
 眉を下げてみれば、パンドロは驚きに丸くした目を戻して、手を握り返す。
「それはあまりにもまだ畏れ多いというか神竜様がオレとそんなことをいや! とっても光栄ではあるのですが!」
 早口に言うパンドロはみるみる赤くなっていき、やがて指の先までじわりと熱を持っていく。
「パンドロと眠れたら暖かそうだと思うのですが」
「え!?」
「パンドロ、夜も遅いのであまり大きな声は迷惑になりますよ」
「あ、はい……。そうでした……
 互いの胸の前で手を取り合い、リュールは期待を抱く。光栄だと、嬉しいと言ってくれるなら、共に寝られるかもしれない。
 夜の静寂を二人で過ごし、広いベッドを持て余すこともなく、暖かさに身を委ねて充実感を抱いたまま眠れるかもしれない。
「こう言うのは少し恥ずかしいですが、少し寂しくて」
 子どもっぽいと思われるかもしれないと、出来れば言いたくは無かった本音だ。けれど、隠したままにしておくのも、騙したようで居心地が悪い。伴侶として、誠実でいたいとも思った。
 暗がりでも分かるほどに赤さを増していたパンドロの頬が、今度は色を無くしていく。落ち着いたのか、と思ったが、その表情は平常では無い。
「あ、あの……眠るっていうのは一緒に布団に入ってってことでしょうか……
「はい。そうしてくれると嬉しいです」
「オレは……オレは!」
「パンドロ?」
 悲観の表情で、いっそ青褪めてしまいそうなほどの悲壮感をまとって、パンドロは項垂れた。
「最低だ……
 ひょこひょこと跳ねた髪も、悲しげに揺れる。リュールはパンドロの気持ちを落ち着けたくて、握る手の力を強めた。
「なんだかよく分かりませんが、元気を出してください! 私はパンドロの笑顔が好きです」
「神竜様……すみません、取り乱して……
 互いに手を握り、パンドロは落ち着いたのか顔を上げる。その眼差しには決意が見えた。
「神竜様のお気持ちは大変嬉しいのですが……オレがあの、祭壇とも呼べるベッドに入るのは、やはり難しいと言いますか
「そんな……
 真面目な面持ちで、説得するように言うパンドロに、これ以上は強要になってしまうことを察して、しかし落胆は抑えきれずにリュールは肩を落とす。
「そんなに気を落とさないでください。眠るまでお側におりますので」
 パンドロの優しさが、いっそ苦しかった。リュールが眠るまで、パンドロは部屋にも戻れず眠ることも出来ないではないか。我儘に付き合わせて、パンドロを苦しめているように思えた。
 それに、リュールはどうしても、同じ布団の中で、暖かさに身を委ねて共に眠りたくなっているのだ。
「そうだ!」
 ふと、リュールの脳裏には別の部屋の風景が浮かんだ。己の部屋よりも狭く、小さなベッドがある部屋。魔導書や聖書が置かれた部屋。
 リュールはパンドロの手を引いて、その場を離れた。階段を降りて、別の扉を開き、廊下を行く。そうしてたどり着いた扉には、ネームプレートがかけられている。似た扉が並ぶため、間違えないようにしているのだ。
 パンドロの名が書かれたその扉の前で、リュールは笑みを浮かべた。
「パンドロの部屋で寝ましょう!」
「えぇ!?」
 さあ早く、と言わんばかりに、パンドロの手をドアノブに乗せる。
「私のベッドで寝るのが難しいと言いましたよね? なら私がパンドロのベッドで寝ます」
「神竜様! 何を仰るのですか!?」
「だから、一緒に寝ましょう?」
 開いた口を、何も言わずに閉じて、パンドロは少しだけ頭を下げた。考え込んだ様子にも見えたし、項垂れているようにも見える。
 リュールはやはり困らせるだけなのかと、次の答えが否であれば、潔く諦めて謝ろうとも思ったのだ。
「狭いですよ……二人で使うのは」
「私は構いません。パンドロは嫌ですか? それなら……
「そんなこととんでもない!」
 大きく頭を振ったパンドロを見て、リュールはやはり遠慮されているだけなのだと悟った。彼は真面目で、信心深い聖職者だ。そんな彼に、自身がどう見られているのかなど、既に知っている。同じような存在が居ないので、その胸中を深く理解することは出来ないが。
 視線を泳がせるパンドロを覗き込んで、リュールはにこりと笑った。
「一緒に眠ってくれますか?」
……はい」
 その返事に、リュールは飛び上がりそうなほど嬉しくなった。眠ることを寂しいと思ったことは無いのに、パンドロと離れることになると考えれば寂しくなる。
 眠ってしまえばすぐなのに、起きるまでパンドロに会えないのが寂しい。
 先程思い浮かべたままの部屋に入り、パンドロの背を押してベッドに乗せると、リュールもその後に続いて乗り上げる。先にベッドに乗れば、パンドロは床で寝る、などと言いかねないと思ったのだ。
「おやすみなさい」
「はひ……お、おやすみなさい!」
 いつもよりも狭いベッドで身を寄せて、随分と暖かい身体に満足して目を閉じる。
 想像していたよりも、心地が良い。愛しい人の体温、香り、鼓動。全てがリュールを眠りに誘う。
 就寝前にしては早すぎる心音に笑みを漏らして、リュールは意識を沈めた。