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望月 鏡翠
2025-01-26 23:54:31
900文字
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日課
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#1613 「沃地」「地主」「掛軸」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題話
欲深な地主は、沃地を手にしてもまだ飽き足らなかった。土地を広げればその分、王に捧げなければならない税も増える。いくら土地が手元にあっても、到底足りはしなかった。
それに人が増えた分だけ、世話をしなければいけない住民の数も増える。
ため息をつきながら、地主は床間の掛軸を見つめた。
絵の良し悪しなどわかりはしなかったが、そういうものを飾っておくのが、それなりの地位を経た人間のやることらしいから、有名な絵師から買い付けたのだ。
本当はそんなものより金が欲しい。そうでなければ広い広い土地でもいい。絵など、一文の得にもならない。
絵の中の風景を見つめる。
「せめて、あの中の土地に実際に入っていくことができたらなぁ」
絵の中の土地で畑を耕すのだ。役人にも見つからないから、収入は全て懐に入れることができる。いい考えじゃないか。広がれ広がれと思いながら、掛軸をじっと見つめる。すると不思議なことに、絵の中の景色が広がっていった。
気がつけば目の前には、黄金色の豊かな田が広がっていた。重たく頭を垂れる稲穂である。水墨画だから気づかなかったが、絵の中は秋だったのだ。そして平野に見えたが、美しい田畑を描いたものだったのだ。
「本当に絵の中に入ることができるとは」
あとはここの作物を持ち帰ることができればいい。人を連れてきて働かせて、住民の数も誤魔化すというのはどうだろうか。
とてもいい考えだ。
早速戻って、人を連れてこよう。
振り向き、そして気がついた。入ったときは、絵を見つめていたらいつの間にか中にいた。では出るときは、どうしたら良い?
出口らしきものも今までいた居間の景色もどこにも見えない。求めた通りの沃地の中で、地主は立ち尽くしていた。
地主は戻ってこなかった。土地は他のものに譲り渡され民草の暮らしに大きな変化はない。かつてその屋敷だった場所から運び出され売り払われたものの中には、高明な絵師が手がけた掛け軸もあった。
その中には収穫期を迎えた美しい田園風景と、立ち尽くす男が描かれている。
どうして農夫でもない人物をそこに描いたのかは、誰も知らない。
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