見習いは、いつまでたってもかまどの火入ればっかりだ。もちろんそれだって誰にでも簡単にできるものではない。最初の頃は何本もマッチを無駄にしたものだ。
今では眠りながらだって火種から小枝に火を移し、薪を燃やすことができる。
僕がそうやって火をつけるもっと前から、親方は仕込みを始めている。口うるさいからつい反発しがちだが、仕事熱心なのだ。そういうところは本当に尊敬しているから、辞める気にはなれない。いつかああなりたいと思うけれど、そうしたら今より何時間前に起きればいいのだろう。
親方は僕が火の準備を始める頃には、もう仕込みを終えて厨房を片付け始めている。その後ろで白いパン生地がむくむくと膨らんできている。
そいつを捻ってちぎってちょいと成形して、鉄板に並べかまどに入れるのだ。
軽々と持ち上げて、さっと滑りこませているそれは、実はものすごく重たい。
親方の腕は丸太と同じくらい太い。
きっと先祖に熊がいるに違いない。小麦粉と熊の間の子。それが親方だ。
うちのパンの味付けは、全てその熊みたいな大きくてむくむくとして毛がたくさん生えた、髭の男の匙加減で決まっている。しかめつらしい面を作って、塩を少々砂糖を一掴み、あとは牛乳と卵。そうして太い腕で小麦粉を混ぜ合わせてこね合わせて、全てのパンを作っている。
すぐに工房はパンの焼けるいい匂いでいっぱいになる。工房だけには収まりきらず、香りは周りに漂って街を満たす。
近所の人にも、朝がやってきたことを知らせてくれる。
生地をかまどに入れたあとは僕の仕事だ。親方は次のパンを焼く準備をしている。僕は焼きたてのパンをお店に並べる。その時に始めて、親方がものすごく重たいものを持ち上げていたんだと気が付く。きっとパン作りを教えてもらえるようになるのは、この腕がせめてもう少し太くなってからだろう。
もうすぐ、店が開く。
いつの日か、真っ白い小麦粉がツヤツヤのパンに変わる魔法を僕も使えるようになるのだろう。
やがて、最初のお客がパン屋のドアベルを鳴らした。
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