三毛田
2025-01-26 21:54:29
1084文字
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84 084. 側に居るのに

84日目
君は誰も頼らない

 こんなにも側に居るのに、彼の目には俺は映らない。それどころか、誰も映っていないように見え。
「丹恒。少し休んだほうがいいぞ」
 俺が起きてから寝るまで、一度も資料室を出てこないのが心配で、そこまでいって声をかける。
「穹」
 声は擦れていて、視点もあっていないように見える。
 流石にこれはまずいだろう。
「丹恒、寝ろ」
 アーカイブ端末から引きはがし、上着を脱がして布団に寝かせる。
「ぁ」
「いいから、寝転がってろ。飲み物とお粥をもらってくるから、飲んで食べたら寝ること。いいな?」
「だが」
「そんな顔で大丈夫だって言われても、信用しないからな」
 資料室を出て、パムにインスタントでもいいからお粥はあるかと問いかける。
 と、すぐに作ってくれるという。
 水よりはお湯がいいだろうと、少し冷ましたお湯を持って先に資料室へ。
「体起こすから」
 有無を言わさず、上半身を起こして水を飲ませる。
「何時間、飲んでないんだ」
「覚えていない。ああ、美味いな」
「もし飲めないんだったら、口移ししてた」
 その言葉に、一瞬手が止まって。
「それくらい、乱暴に俺を止めてくれて構わない」
……わかった」
 ここは、こちらが折れるしかない。
「持ってきたぞ」
 ノックの後、パムがワゴンを押して入ってくる。
「食器は後で俺が片付けに行くから」
「頼んだぞ、穹」
 頷いて、パムが出ていってから丹恒にお粥を食べさせるために腰を下ろす。
「ほら、あーん」
 冷ますようにスプーンに息を吹きかけ、それから口元へと持っていく。
「あ」
 逆らう気力もないのか、丹恒は大人しく口を開けて。
 ゆっくりと飲み込み、もう一口というように口を開ける。
「美味しい?」
「ああ。パムの作ってくれた、料理の味だ」
「そりゃそうだよ」
 これ、相当疲れてるんじゃ。
「そうだな」
 と、自嘲して。
「もう、いい」
 食べるのも疲れるようで、半分ほど食べてもういいと告げ。
「お湯は?」
「飲む」
 新しいお湯をもらってきて、飲ませ。それから、寝かせる。
「きゅう」
「何か俺にできることは?」
「俺が眠りにつけるまで、手を、握っていてくれ」
「うん、いいよ」
「ありがとう」
 食器とカップはテーブルへ置き、しゃがみ込んで彼の手を取り。
「お前の温もりは、心地よいな」
 食べて眠くなったのか、それとも俺の体温で眠くなったのか。
 瞼は閉じたり開いたり。
 しばらくすると、胸が上下し出して。
 側に居るのに、彼は俺も誰のことも頼ってくれない。
「せめて俺だけでも頼ってくれよ、丹恒」