ななき
2025-01-26 18:49:02
1308文字
Public 吸死
 

お題企画「弊ドロこう言う」まとめ 2

お題で作成したもののまとめ。2025.01~
増えたら更新します。一部、投稿しなかったものを含みます。
.

「いつ帰ってくる?」/「お土産は優勝レイとチョコレート」


 愛するマジロの背中に保湿クリームを丁寧に塗り込む。明日の競マ凱旋門賞にむけた調整を、最高の状態で終えたジョンはご機嫌かつ気力十分だが、日本とは気候が違うからいつも以上に気を配らねば。
 ではもう本番に備えて睡眠を、と小さな毛布を手にとったとき、メッセージの着信音が鳴った。いやうるせえ。鳴りっぱなしだ。
「もー、誰だ。お祖父様のスタンプ爆撃か? お父様がまーた誤爆でもしたか?」
 画面をあけてみれば、滝の如く無差別にスタンプが流れていく。意外なことに同居ゴリラからだった。フランスと日本の時差は七時間。向こうは事務所を開ける時間のはずだ。
 スタンプの川がピタリと止まる。既読表示に気づいたか。
 画面をジョンにも見せてやりながら、『うるさい。腹が減ったならバナナでも食え』と送り返すと、即座に『殺す』スタンプ。まぁお野蛮ね。
 ジョン、一枚いいかい。よっ、全勝の王! カメラを向けると、むん、とオッズも当然一番人気の最強王者はポーズを決めてくれる。それをメッセージ欄に貼り付けた。
『明日本番なんだから邪魔するんじゃないよ』
『ジョーン! 頑張ってね!!』
 ハートとキラキラのゴリラスタンプが表示されたきり、画面が静かになる。
「ロナルド君も来られれば良かったのにねぇ」
「ヌー」
「さ、今度こそもう寝なさい」
 ジョンが寝床に潜り込もうと足をかけたのと同時、また、手のなかでスマホが震えた。
『いつ帰ってくる』
 ポツン、とそれだけ。ああ、これが本題か、と直感した。
 我々がこちらに来て二週間。妙なところで遠慮しいのアレは連絡をよこすことも無かったが、とうとう寂しくなったか。それにしても、あれだけ追い出そうとしていた男が! 私達があの城に戻ることを疑いもしなくなったどころか、私達がいないことを寂しいとまで思うようになったなんて!
ドラルク様ヌヌヌヌヌヌロナルド君にヌヌヌヌヌンヌ優しくしてねヌヌシヌヌヌヌ」私の表情から何を察したのか、ジョンが毛布の中からそんなことを言う。我が使い魔を籠絡するとはおのれ退治人。
 多分、彼は今、この一言を送ったことを後悔し始めている。消そうか、でも既読ついちまったしな、と冷や汗をかいて、送信取消に指をかけている。証拠が消されるまえに答えなければ。ジョンがな、ああ言うから仕方なくだ。
 明日、日付でいえば今日の夕がレース本番。優勝すれば祝勝会と取材、こちらの知人との約束もあるし、ひさびさのフランスだ、他にもやりたいことが色々ある。
『明後日こっちを立つ』
 それなのに最短日程を取るとは、らしくないかもしれない。
『いい子で待っていなさい、マイダーリン♡』
 いつもの罵詈雑言スタンプを期待しておどけた絵文字もつけてやったのに、返答は、簡潔で素直な一言だけ。
『待ってる』
 真っ直ぐこちらを見る恋人の青い瞳が脳裏に浮かぶ。きっと嬉しいのを隠そうとして唇がむにっとしているに違いない。
 じわ、と頬が熱くなった。
 
 ヌフフ、と笑うマジロの鼻先を指でほんの軽く弾く。まったく。早く寝なさい。