つまるところ血鬼術とは(5)

今回水柱と高専の絡みはありません。すみません。



 東京都心某所。
 定期的にお決まりのメロディが流れる大手ハンバーガーチェーンの店内で、善逸はスマホをいじりながらポテトを食べていた。ノイズキャンセリング用のイヤホンはトレイの上に放られている。騒がしい一階ならイヤホンは手放せないが、三階まで移動するとそこまでするほどでもない。
 ひとの感情すら音として捉えられる善逸の耳が、ふと、とある音を拾った。とんとんと軽快に階段を一段飛ばしで上がってくる。善逸はスマホから顔を上げた。
「お、」
 階段を上がり切った虎杖は、相好を崩して善逸が取ってあったテーブル席に就いた。
「お待たせ! 悪いな、来てもらって」
「全然待ってないよ! ポテト食ってたし」
「俺も食っていい? 腹減っちまって」
 時刻は夕方を少し過ぎる頃。季節柄、辺りは既に暗くなっていた。しかし、夕飯までにはまだ時間がある。同じ男子高校生として虎杖の気持ちがとても分かる善逸は、どうぞどうぞと促した。
「マジで腹減るよね」
「ほんとにな。任務とかで稼いでもなんか全然貯まんねーし」
「あ、お金貰えるんだ?」
「まー、1回で1ヶ月のバイト代程度だけど」
「へぇー、そうなの」
「善逸は?」
「俺は、えーっと、社会人並みに給料もらえるんだけど、まだ身分が学生だから、高校生が稼げる1ヶ月分のバイト代だけもらってる。あとはお館様のお預かり」
「ふーん」
 善逸の他にも学生だが鬼殺隊に所属している人間は多い。善逸を始め、炭治郎やカナエも学生である。炎柱の煉獄杏寿郎も大学生だ。
 鬼殺隊には十二の階級が存在するが、一番下の癸でも現代でいう新卒社会人の平均月収二十万円程度を毎月給与として与えられる。しかし高校生などの手には余る大金なので、必要分だけを各自の普段使う銀行口座に、残金は別口座に振り込まれる仕組みとなっていた。
 隊士の中には、自動的に貯まった残金で海外留学をしたり、学資金にしたりする者もいるらしい。かく言う善逸もそうしようと計画しているうちのひとりである。
「それで、こないだの話だっけ」
「そうそう」
 あが、と口を開けた虎杖は、一口でハンバーガーを半分口の中に収めて見せた。伊之助以外にもこんなやつがいたんだなと善逸は埒もない事を考えた。
 善逸と彼の師事する音柱、宇髄天元が、虎杖と禪院真希の任務に同行して鬼となった呪詛師を退けてから十日が経過していた。
 虎杖は咀嚼していたハンバーガーをごくりと飲み込んだ。早い。善逸もポテトを口に運ぶ作業を再開する。
「あの後、宇髄の兄ちゃん達と五条先生達で何か話し合ったんだろ? でも、先生、あれから忙しくて話を聞けてなくてさ」
「あー、そっか」
 善逸は腕を組んだ。さて、どこから話したものか。
「俺もその会議に直接参加したって訳じゃないから、宇髄さんが教えてくれた事しか分かんないんだけどさ」
「それでもいい。教えてくれ」
 真摯な声音に、善逸も「分かった」しっかりと頷いた。











 きゃあきゃあと可愛らしい声が木霊している。
 まだ年端もいかぬ幼子達だ。俗に幼稚園児と言われる子らは、揃いの制服を着て、ひとりの青年に群がっていた。
「こら、髪は引っ張るなよ」
「にーちゃん、かたぐるまして!」
「だっこー!」
「はいはい」
 見た目が完全に不良である青年の表情は、しかし穏やかなものだった。少し離れたところで別の園児の相手をしている保育士も見慣れた光景なのか、何も口を挟むことは無い。
 こんなWeb漫画がこの間ネットに転がってたな、と五条は平和な光景を眺めながら思った。気付かれないうちに踵を返し、幼稚園を後にする。向かうはこの施設の敷地を保有している、とある寺院だ。
 寺院の本堂に足を踏み入れると、ふわりと藤の香りが広がった。仄かに白檀の香りも混ざっている。
 寺院で藤とは、珍しい。五条は立派な造りの本堂を見回しながら、広縁から外陣へ移った。
 さらに奥にある一段高い場所、内陣に安置されているのは不動明王だ。悪鬼破邪を司る、大日如来の教令輪身だ。
 仏教と神道は本来ならば混同して解釈することはできないが、一説には大日如来を日本における太陽神、天照大神と同一視するものもある。不動明王は大日如来が持つ三つのほとけの顔の内のひとつ、という説と繋げれば、不動明王には日輪系統の属性があった。
 内陣で本尊を前に数珠を鳴らしていた大男が振り返る。五条は感嘆した。
 足音も気配も殺しているのに、まっすぐ存在を見つめられている。
 盲目であるにも関わらず、だ。
「お邪魔してます」
……ようこそ……おいでなさった……
 じゃりじゃりと数珠を鳴らしながら、どうぞそちらに、と男が立ち上がる。案内されたのは別棟だ。男は道中危なげなく進んだ。盲目とはとても思えない。
 悲鳴嶼が五条を招いたのは、とある和室だった。
「お、悲鳴嶼サン。先に始めてるぜ」
「あぁ……構わない……
「いやぁ、お待たせしまして」
 約束の時間から五分少々が経っていた。誤差だ誤差、と宇髄が茶を啜る。その隣にはマスクで顔を半分覆った青年が座っており、じろりと五条を睨めつけていた。あ、これ、面倒なひとだなと五条は早々に悟った。
 悲鳴嶼が五条の分の茶も淹れてくれる。髪色が桜餅のようになっている女性がどうぞと勧めてくれた座布団に長い足を折りたたんで、五条はようやく一心地ついた。
「悪いな、忙しい時に」
「それはお互い様でしょ。そっちは二足の草鞋じゃん」
 鬼殺隊に所属している者のほとんどは、表向きに社会的立場を獲得するため、一般職に就いている者が多かった。
「そっちは昼も夜も無いんだろ。頭が下がるぜ」
「そいつはどーも。それで、柱って、こんだけ? カナエちゃん達は?」
「あぁ、そういや知り合いだったんだってな」
「まあね」
 カナエと五条に個人的な繋がりがあったにも関わらず呪術界と鬼殺隊の接触が遅れたのは、偏に呪術高専の存在を五条が秘匿したからである。加えて、五条も鬼の存在を呪霊の派生だろうと認識していたので、お互いがお互いの所属を探ることをしなかったのだ。
「胡蝶姉妹は仕事と学業。研究が忙しいんだと。煉獄もゼミのレポートの締め切りやら教職課程やらで無理だった」
「えっ、あのひと、学生だったの?」
 五条は素直に驚いた。夜蛾から聞いた印象と自分が横目でちらりと見た印象では随分大人びた人物のようだったが、まさか大学生だったとは。
 わかるぜ、と言いながら宇髄は報告を続けた。
「冨岡は任務じゃねえけど行方不明になったらしい隊士を探しに行った。不死川はリハビリ。時透は部活」
「了解した……甘露寺、伊黒、宇髄、そして五条殿……皆も忙しいだろうに、時間を割いてもらったこと、感謝する」
 じゃりじゃりと数珠を鳴らす悲鳴嶼の両目から、つうと涙が伝う。五条は目隠しの下で瞬いた。だが、誰も何も反応しないので、黙っている事にする。
「つか、伊黒も卒論あるんじゃねえのか?」
「俺はもう提出した」
「さすが伊黒さんね!」
 いやお前も学生かよ、と五条は内心で突っ込んだ。
「時間のことは、私は大分融通がききますから、気になさらないでくださいね! あっ申し遅れました、恋柱の甘露寺蜜璃です~」
「これはご丁寧に、五条悟です」
「こっち、悲鳴嶼さんな」
「名は行冥という……よろしく頼む……
 三人は互いに頭を下げ合った。五条はそのままほとんど正面に座る伊黒の方を見たが、伊黒は何も言わなかった。
「それで……どこまで進めたのだ?」
「この間の経緯を掻い摘んで話した。お前は聞いてるか?」
「聞いたよ。呪詛師が鬼にされてたんだって? GTG グレートティーチャー五条としては生徒が活躍してくれたみたいで鼻が高いね!」
 一週間ほど前、計八名の被害者が出ていた案件に呪術高専と鬼殺隊から人員が派遣された。禪院真紀と虎杖悠仁、宇髄天元と我妻善逸である。
 任務開始段階では呪術高専側の任務に鬼殺隊士が同行する形だった。標的は三級呪霊だったので現場判断で非呪術師の同行は問題ないだろうと判断された。
 しかし任務開始からすぐ、三級呪霊が式紙であったことが判明。本拠地並びに敵の正体を探るため任務は続行されたが、四人が発見したのは鬼化が進んだかつてヒトであったものだった。
 残穢の鑑定や追跡調査の結果、ヒトは呪詛師であったことが確定した。呪詛師とは呪術を用いて一般人に害を為す者達のことを指す。俗的に言えば犯罪者だ。術師は死後呪いに転ずる場合が多くあるので、呪力でとどめを刺さなければならない。
 今回の件では、呪力を持つ虎杖悠仁が日輪刀に呪力を廻し、刀で頸を斬ったので、完全消滅を確認することができた。
「呪術高専では呪詛師の把握はしていないのか?」
「出来たら苦労しないよ」
 伊黒の問いに、五条は肩を竦めた。本当に、できたら苦労しない。
「というか、呪詛師って呪術で犯罪する奴らの事だよ? 鬼殺隊はそういう奴らも鬼舞辻無惨から守るの?」
「違う」
 伊黒が即答した。
「罪を犯すような奴らが鬼になったら一般人に犠牲が出るだろう。それを防ぐためだ」
「成程、それは道理だね」
 五条は軽薄に口端を吊り上げた。伊黒はますます目尻に険を宿らせた。
「ま、手を打てないわけじゃないよ。鬼舞辻無惨の強さがどれほどのものかは分からないから無意味かもしれないけど」
 呪詛師って金で動くやつが多いからさあ、と五条は続けた。
「鬼舞辻無惨の頸に懸賞金でもかけたら、鬼化に抵抗ぐらいはしてくれるんじゃないかなあ」
 勝手に探して勝手に尻尾を踏んで勝手に殺される分には全く構わないしそうなれば自分の仕事が減って万々歳だ、とは流石の五条も口にしなかったが、そうなればいいなと、心底から望んでいた。
「でも、それは、鬼舞辻無惨に対して、上等な餌をみすみす与える事になってしまうんじゃないんでしょうか……
 甘露寺が遠慮がちに言った。五条はてきとうに答える。
「喰った呪詛師が呪霊になって内側から殺してくれるんじゃない?」
「えぇ……、そんなことできるんですか?」
「それすらも取り込まれて敵の強化に繋ったらどうする。加えて鬼にされでもしたら、鬼殺隊士や呪術師一方だけでは太刀打ちできない。無駄死にが増える。任務に当たっていたのが下級隊士や生徒であればどうするつもりだ?」
「そこまで柔に鍛えてないよ。それはおたくも同じでしょ」
 真面目な話をするとね、と五条は居住まいを正した。
「ウチでは呪霊を強さやら何やらで五段階に格付けしてる。そっちは十二鬼月とそれ以外? あとはひとを喰った数だっけ? まぁいいや、とにかくそういう判断はウチではできないからさ、【鬼は全て準一級】っていうのが決まったよ」
 ちなみに、十二鬼月は一級、鬼舞辻無惨は特級という格付けが確定された。
……
……それで?」
 宇髄が先を促した。伊地知を連れてくるんだったな、と五条は少しだけ後悔した。
「準一級の呪霊に対して派遣されるのは一級呪霊相当の実力を持つ準一級術師以上。それに、呪詛師討伐も二級術師に任せられることは滅多に無い。で、準一級術師っていうのはね、悠仁や真希のレベルだよ」
「ほう」
 宇髄が片眉を器用に跳ねさせた。五条が挙げた名前の人物と面識がない悲鳴嶼達は、どうにも判断しがたいので宇髄の方へと視線が集まる。
「それなら別に問題ないんじゃねえか? あいつら、相当できるだろ。特に悠仁と真希」
「あげないよ」
 五条が素早く牽制する。宇髄は小さく舌を打った。
 二人の様子を見ていた悲鳴嶼が、じゃり、と数珠を鳴らした。
「宇髄の言う事であれば……信憑性があるな……
「呪詛師相手の任務と準一級以上の呪霊相手の任務には、日輪刀の帯刀が義務付けられることにもなった。そっちはどうするの? 悪いけど、こっちは万年人手不足だから人員割けないよ」
「あら、お互い大変ですね。鬼殺隊も、ずっと人手不足なの」
 甘露寺は心底から五条を労わった。その優しさに伊黒は感動し、五条は嫌味なく言えるってこの子すごいなと喉の奥でくつくつと笑った。口では「そうだね」と返しておく。
「うちは刀剣類の呪具に日輪刀の玉鋼が混ぜられないか試してもらってる最中だ」
「あ、それは名案だね」
 もしうまくいって生産数を増やすことができれば御の字である。
「とにかく、大事なのは連携だ」
 悲鳴嶼が場をとりまとめた。
「呪詛師である可能性、鬼である可能性が少しでもある場合は、人員を割けなくとも、報告と連絡だけは必ず行うようにするというのは……どうだろうか……
「異議無ーし」
「俺も」
 五条と宇髄が間を空けずに答える。伊黒は仕方ないと嘆息し、甘露寺は「もちろん賛成です!」と意気込んだ。











 善逸から話を聞いた虎杖は、そっか、としばらく考える素振りを見せた。
「鬼は全部準一級……そっか、だからか……
……納得できた?」
 うん、と虎杖は頷いた。
「俺、まだ準一級じゃないからさ。上の人たちで情報の流れが止められてたんだな」
 きっと準一級の先輩たちは知ってた、と虎杖はぼやいた。
……でもさ、宇髄さんが、不思議がってたよ。癸の隊士で片付けられる程度の鬼だったら、十分対処可能だろうに、どうしてそんなにランクを上げるのかって」
……
 不意に、虎杖の抱える音が変わった。彼の腹の底から響いてくる強い怒りの音はすぐに霧散したけれど、それでも善逸は驚きを隠せなかった。

 あの時の音だ。

 善逸は十日前を思い出した。

───なんだそれ

 強い怒りの音だった。あのくぐもった恐ろしい音がかき消されるほどに。
 虎杖は至って普通だった。出会って数時間の間柄に普通も何もないだろうが、一緒にラーメンを食べ、ちょっとふざけて、ゲーセンに行ったり、カラオケに行こうとしたりもした。結局学業に影響が出るとかなんとかでカラオケには行けなかった。
 でも、あの音が忘れられない。
 善逸の隣で、虎杖は相変わらず誠実な音をさせている。それが一瞬にして、息を呑んでしまうほどの強い怒りの音に変わったのだ。
 あれは鬼がどうして生まれるかの話をしていた時だった。
……悠仁達は、鬼について、対処法しか知らなかったんだな」
「あぁ。五条先生が話を聞いたらしいんだけど、あのひと、ちょっとだけテキトーでさ。対策しか情報が流れてこなかった。まぁ超忙しいから仕方ないんだけど」
 苦笑していた悠仁は、それから少しだけ間を置いて、ゆっくりと目を伏せた。思案するようにも見えたその素振りに、善逸は何かを言うことができなくなっていた。
 やがて、悠仁の方から言葉を紡いだ。
……前に、鬼舞辻無惨は、ただのひとを鬼にするって教えてくれただろ」
「うん」
「呪霊にもいるんだ。人間の形を無造作に変えて自分の手駒の呪霊にする奴が。たぶん、そいつの存在が理由なんだと思う」
「───え」
 呪霊って、ひとの負の感情の塊ではなかったのか。呪霊はただひとを殺すだけだと漠然と思っていた善逸は、思わず腰を浮かした。
「そ……そんなの、」
「そいつは特級で、知性がある。ツギハギ面のヒト型だ。見かけたら、すぐに逃げろよ」
いつになく真剣な顔で、虎杖が言う。善逸は、半分しか理解できていないながらもどうにかこうにか頷いた。
……前に、そいつと戦う事になった時。俺は一級術師のすげー大人なひとと一緒の任務だったんだけど。そのひとは、俺がこどもだからって、……理想と現実の、擦り合わせの真っ最中だからって、最前線に立たなくていいって言ってくれた」
 それは正しく気遣いであったし、大人としての責任であったし、呪術師としての力量を正しく計った上での判断だった。虎杖も頭ではわかっていた。
 結局虎杖はツギハギ面のヒト型呪霊と相対することとなったわけだが、その時になってみて初めて、己が正しくこどもであったのだと痛感した。

───ころ  し  て……

 彼等の死因は、体を無理矢理異形に変えられた事によるショック死だと家入は言ってくれた。それでも、意識が残っている場合がある。
 手遅れで、現在彼等を治す事はできない。殺すしかない。立ち向かわなければ殺されるのは自分の方だ。
 ひとは死ぬ。それは仕方がない。けれども死ぬならできるだけ正しく死んでほしい。
 けれども、己を含む他人から与えられる死は、自分が引き金を引く行為は、果たして正しかったのか、虎杖には分からない。
 だから分かるまで、せめて、すべての原因であるあの呪霊を殺すまで───

(俺は負けない)

 負けないことを、決めた。
 それは、揺るがない。鬼となったひとを殺したとしても、揺るがない。
 けれども、どうしても思ってしまう。
 正しい死とは、なんなのか。

……そのひとが、こどもであることは悪じゃないって、言ってくれたんだ。たぶん……五条先生とかは、いろいろ、タイミングとか、考えてくれてんだろうな」
 虎杖の手が拳を作る。バーガーを包んでいた薄い紙がくしゃりと音を立てた。

 守られている。

 大人たちに、守られている。

 そこに悔しさは確かにあった。けれども背伸びをしてどうにかなる問題ではないことを察せないほど愚図ではない。
 隣に立ちたい。同じものを見れるようになりたい。そうして今度は、自分が皆を守りたい。

 だってそんなの許せない。

 何もできなかったとき。自分の力が及ばなかったとき。こどもだからという理由なんて、自分が一番許せない。己がこどもであることなど、仕方がないことではあれども、許せるかどうかは別問題だ。
……でも、信用とか、信頼されてないわけじゃ、ないと思うんだよな」
 ぽつりと零したのは善逸だった。虎杖は伏せていた目をゆるゆると見開いた。
 だってそうでしょ、と善逸は続ける。
「そうじゃなかったら、あんな厳しい稽古、するはずないもん」
……それも、そうだよな」
 そうだよ、と善逸は繰り返した。じいちゃんの稽古も、宇髄さんの稽古もひどいんだよ、と語る彼の声はどこか弱々しくて頼りない。
 悠仁も、胸につきりと走る痛みを抱えている。七海に、君はもう呪術師なのだと認められた時を思い出す。

 守られている。

 強く、成長できるように。いずれ彼らを越えられるように、守られている。

「でもさ、すっごいひどい稽古だけどさ。それでも俺、自分のこと、運がいいなって思うよ」
……俺も、そう思うよ」

 それから学生は学生同士で情報を交換し合おうと約束し、二人は連れ立って店を後にした。泣きそうに笑う虎杖の音も、善逸の顔も、雨上がりの空のように澄んだ色をしていた。お互い頑張ろうな、無理するなよと労わる声は、暖かかった。