【なに清】十月_応援

※大量クロスオーバー
※なんでも許せる人向け

【登場人物】
片岡桜:最近音信不通になることが多い
藤井冴美:大学生活気ままに楽しんでる
沖田総司:相変わらず剣道続けてる
斎藤一:相変わらず剣道続けてる
毛利蘭:益々強くなっている
京極真:益々強くなっている
鈴木園子:親友と恋人を応援している
遠山和葉:負けたのは悔しいが、それはそれ、これはこれ
円谷光彦(名探偵コナン):なんでもそつなくこなす
小嶋元太(名探偵コナン):食いしん坊
吉田歩美(名探偵コナン):紅一点
阿笠博士:発明家



 ようやく残暑が過ぎ去った。清々しい秋晴れの日差しは穏やかで、心地よい風が金木犀の香りを運んでくる。
 都内にほど近いドーム型イベントホールでは、年に一度の全国武道大会が開催されていた。八つあるイベントホールとアリーナ会場の収容可能総客数は九千人を越える。
 空手、剣道、柔術、体術などメジャーなものから始まり、薙刀、槍術等々、マイナージャンルの全国大会が二日間に渡り開催される。すべての競技の決勝戦はアリーナ会場で行われることになっていた。
 一般観戦客は総合入場チケットさえ持っていれば敷地内を気ままに移動でき、入退場も自由であった。
 リストバンド型になっているチケットをスタッフに提示し、受付を通り過ぎた冴美は、会場が予想を上回る勢いで活気付いている事に面喰らった。
 腕章をつけ、カメラを担いだり、機材を持って慌ただしく動いているのはテレビか何かの取材だろうか。揃いのジャージを着て行動している中学生らしい集団や、小さな子供連れの家族、古い付き合い同士なのか周りを気にせず歓談にふけるお年寄りの方々も見受けられる。
「はー、賑やかだな……
 冴美は人の流れから少し外れて、人口密度が比較的低い奥の方へと移動した。ベンチが幾つかあるので腰を降ろし、パンフレットを広げる。
 エリアマップと試合のタイムスケジュールが事細かに記されている中から剣道を始め空手、総合武術に印をつけようとして、冴美はふと瞬いた。『公式ツイッターで試合速報をお知らせします』という文言と共に、アドレスが記載されている。冴美はスマホを取り出すと、迷わずアカウントをフォローして、ツイートに対する通知をオンにした。
 ついでにタイムラインを更新し、時間を確認しつつ指を滑らせる。ゲームを起動する時間は無さそうだが、このままツイッターを眺めていれば約束の時間になるだろう。念の為、このあたりにいると相手に伝えると、可愛らしい了解スタンプが返ってきた。
 冴美の目論見は当たっていた。それからあまり間を空けず、冴美に声がかけられた。
「冴美ちゃん!!」
「お、和葉、おはよう」
「おはよぉ! 久しぶりやねぇ、元気やった?」
「うん、元気。和葉は調子どう?」
「ばっちしや!」
 良かった、と冴美は笑った。
 早速移動しよう、と二人は「空手」と看板が立てられているイベントホールの入り口をくぐった。
「はああああ!!」
 どん、だん、と大きな音がそこら中で木霊する。一等気合の入った雄叫びが聞こえた方に首を巡らせると、見覚えのある顔が見たことのない表情で容赦のない拳を繰り出していた。
 あまり時を置かずに審判のホイッスルが鳴り、観客がわっと沸いた。拍手が健闘を讃え、選手達は礼を取ると、握手を交わして互いに背を向ける。
「蘭ちゃーん!!」
 和葉が大きく手を振った。危なげなく勝利した蘭は乱れた道着を直しながら、軽く手を振り返して、次の選手に場所を譲った。
「なんやぁ、今からやと思っとったのに」
 一転、和葉は不満気に口を尖らせた。
 今回の大会は勝手知ったる中高生達の全国大会では無い。大学生以上の一般人が参加する、何もかもが違う全国大会だ。
 当然、高校生レベルでは考えられない程の強者が揃う事になる。和葉や蘭などにとっては、大学に進学して初めての大会にあたるのだ。和葉も勿論柔術で参加したが、地方予選から全国へと進出する選手数の枠から零れ落ちてしまった。
 試合に負けて全国という舞台で戦えないことは悔しいが、それはそれ、これはこれ。自分の分も頑張ってもらうために、和葉は応援に駆け付けたのだ。話を聞いた冴美も、折角だからと同行を申し出た。和葉の事がなんとなく心配だったからだ。
 どうやら杞憂のようだったので、冴美は内心で安堵していた。
「ちょっと早まってるみたいだな」
「そうみたいやねぇ。剣道の方も見に行きたいのになぁ」
「んー……
 冴美はスマホ画面をスクロールさせた。剣道部門の試合も行われているが、空手同様まだ予選が終わっていない。試合開始速報にも知っている名前が表示されないので、どうやらまだ時間はあるらしい。
「まだ大丈夫っぽいよ」
「ほんまに? ほんなら蘭ちゃんの次の試合、いつなんやろ。トーナメント表とかないんかな」
「あるよ!」
 不意に下の方から甲高い声がして、和葉は「わぁ」と文字通り肩を跳ねさせた。
「和葉さん、おひさしぶりです!」
「ねーちゃん、元気してたか!?」
「蘭お姉さんの応援に来たの? 歩美たちもだよ!」
 背の低い、小学生と思しき男女が「これ、トーナメント表!」大きな紙を元気一杯に差し出す。和葉は「ありがとう」とそれを受け取って、けれどもすぐに眉を寄せた。
「もぉー、びっくりしてもーて変な声出てしもうたわ! 驚かせんとってよ!」
「ごめんなさーい!」
 一糸乱れぬ大合唱である。冴美は「知り合い?」とようやく一同に言葉を挟めた。
「そやねん。皆、小学生で……自己紹介してくれる?」
「はい! ぼく、円谷光彦です!」
「おれ、小島元太!」
「歩美はね、吉田歩美! お姉さんは?」
 元気一杯の小学生に、冴美は少しだけ腰を屈めて目線を低くした。
「うちは、藤井冴美。よろしくな」
 よろしくおねがいしまーす、と再び三人の声が揃う。冴美は癒されるなぁ、と相好を崩した。
「それで、和葉のねーちゃんは服部のにーちゃんをおうえんしに来たのか?」
「あったりまえやろ? 平次はうちがおらんとなぁんもできひんもん」
「僕たちも後で行こうと思って、トーナメント表取っておいたんです! 予備があるので、差し上げますよ」
「ほんまに? おおきに、ありがとぉ!」
 君、ほんとに小学生か? と冴美は内心でつっこんだ。最近の小学生は誰もがこんなにもしっかりしているのだろうか。弱冠現実逃避を始めた冴美を引き戻したのは、誰あろう和葉だった。
「冴美ちゃんも、沖田くんの試合観に行くやろ?」
「あ、うん。来るなって言われてるから、こっそり観に行くつもり」
「おうえんに来ちゃだめって言われたの?」
 歩美がこてんと首を傾げた。冴美は首肯したが、「まぁ、あいつなりの気遣いだから」と苦笑した。
「せやったら、総合武術は? 桜ちゃん、出るやろ?」
「あぁ、うん、出るらしいな」
「らしいなって、聞いてへんの?」
 曖昧な答えに、和葉は訝しげに眉を寄せた。冴美は気まずそうに頰をかいた。
「いやぁ……あいつ、夏休みの間、ずっと音信不通でさ」
「へ!?」
 初めて聞く情報に、和葉は目を剥いた。
「今回の出場選手情報が先月の今くらいに出ただろ? ちょうど、あんまりにも連絡つかねえからそろそろやべーんじゃねーのかって言ってた頃だったんだよ。だからまぁ、生きてはいるんだと思うぜ」
 連絡取れてねえけど、と冴美は付け足した。和葉は何か言いたげに顔を歪めたが、結局は大きなため息ひとつで済ませることにしたようだった。
「はぁ……まぁええわ……桜ちゃんらしいっちゃらしいしな……。そしたらこの後どないしよう。剣道までまだ時間ありそう?」
「うん。ちょっと早いけど、先に昼食っちまうか? たぶん服部、総司、蘭の順番で試合回ってくるんじゃねえ? あっ、斎藤出てんじゃん、マジか」
 出場選手一覧をスクロールしていくと、次々と知っている名前が視界に入る。全部観にいくのは無理だろうなぁ、と冴美は少しだけ残念に思った。
「では、良かったらご一緒しませんか? 博士が場所取ってくれてるんです!」
「あのね、園子お姉ちゃんも、京極さんの応援終わったら来るって言ってたよ!」
「ほんまに? 冴美ちゃん、どないする?」
 ハカセやら何やら、知らない名前がぽんぽん飛び出てくるのは横に置き、冴美は「和葉に合わせるよ」と答えた。
「うちは全然大丈夫だしさ。ただ先にコンビニかなんかで飯の調達しなきゃなんだよな」
「うちもやわ! 今日は肉まんのつもりで来てんねん!」
 くるりと小学生達に向き直った和葉は、「後で行くさかい、場所だけ教えて!」と腰を屈ませた。「この辺りで待ってますね!」と光彦がペンで地図に丸をつける。礼を言うと、小学生達は「またあとで!」元気に走り去って行った。
「ほんなら、ぱぱっと行ってこーか」
「そうだな」
 二人はたくさんの人の流れを縫うようにして外に出た。途端に、冷たい秋風が肌を撫で、体温を一気に攫っていく。「うわ」「さむっ!」
 ほぼ同時にあげた声が思いがけずに揃ってしまい、二人は顔を見合わせてくすくすと笑い合った。
 早く用事を済ませようと、歩調が早くなる。その背後で行われている試合の数々は、いずれも熱気を保ち続け、衰える気配を微塵も滲ませなかった。