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桜霞
2024-04-24 17:39:48
4507文字
Public
【大量クロスオーバー】なにもない清涼学園
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【なに清】七月_反抗期
※大量クロスオーバー現パロ
※なんでも許せる人向け
【登場人物】
片岡桜:反抗期が遅れてやってきた
片岡真那賀:地雷大爆発
風音:六合の恋人。アパートに何度か遊びに行っている。真那賀とはニアミス。
六合:昔アパートに住んでいた。
お師匠:兎角普通じゃない。
その日、清涼学園大学四年生の風音は、久々に訪れた図書館で、非常に珍しいものを見た。
背の高い本棚が所狭しと並んでいる隅の方で、椅子代わりに脚立を使い、本棚の陰に埋もれるようにして座る生徒がいる。その体つきに見覚えがあって、風音はそっと近付き、潜めた声で話しかけた。
「桜
……
?」
本から顔を上げた桜は何度か瞬きした後、声のした方へ顔を上げた。
寝てた? と風音の口が動く。
桜はぎゅ、と目を強くつむった後、頷きながら、大きく伸びをした。ついでに欠伸をひとつこぼし、全身から力を抜く。
寝起きの彼女でも、もう少ししっかりしているのではないかと思ってしまうくらい、今の桜は気が抜けていた。「どうしたの」という風音の声に対する反応も薄い。
風音は嘆息すると、桜の腕を掴んで無理やり立たせ、彼女の物だろう足元の荷物を持たせた。桜が持っていた本をてきとうに本棚に突っ込むと、二人はそのまま図書館を後にした。
もうすっかり夏の陽気である。風音は空いていたベンチに桜を座らせると、すぐ近くの自販機でスポーツ飲料を二つ買い、一つを桜に手渡した。もう一つは自分のぶんだ。
桜はリュックサックを抱え、風音から見てもわかる程ぼんやりとして、双眸の焦点が合っていなかった。普段、桜は静かに周囲を見渡して、視界に映る全ての存在の次の動きを観察しているようなタイプなのだろうと風音は勝手に思い込んでいたが、今日に限っては違うらしい。「久しぶりね」風音はまず、世間話から始める事にした。
「大学に上がってからこうして会うのは久しぶりじゃない? 元気だった?」
桜はゆっくりと顎を引いた。その一挙手一動足全てが大儀そうで、風音は思わず桜の額に手を当てた。
「
……
熱はない」
「みたいね。でも、こうしたくもなるわよ」
風音はやはり、早々に本題へと斬り込むことにした。
「だってあんた、私でも分かるくらい、いつもと違うわよ。何があったの」
「
……
」
桜は眠そうに目をこすってから、後頭部をがしがしとかいて、一度小さく嘆息した。その目は疲れきっていて、よく見れば目元にはうっすらと隈があった。
「
……
兄さんと喧嘩した」
将来の事で、と桜は独りごちるように付け足した。
風音は何度か目を瞬かせた。
「あなた、お兄さんいたの」
「
……
」
言ってなかったっけ、と桜が首を傾げる。初めて聞いたわと続けた風音は、「まぁ、それは今度聞くから」と横に置いた。
「将来の事で喧嘩したっていうのは、具体的にはどういうこと? あなたに将来の夢があって、それに反対されたの?」
ならば気にすることはない、いつも通り傲岸不遜にやりたい事を好きなだけやるといい、と風音は言おうと決めていた。何故なら風音も親の反対を押し切ってこうして清涼学園に通い、一人暮らしをして、恋に落ちたり、勉学に励んだりしているからだ。
しかし桜は少し違う、と思案するように首を傾げた。
「
……
お師匠の伝手で、ボディーガードのバイトをやってたのがばれた」
「
……
?」
なんだか話が飛んだ気がする。風音は歴代桜翻訳係と呼ばれる存在がいることを恋人の六合から聞いていたが、今まさにその力が必要だと切望した。桜は一度考えをまとめるかのように沈黙し、考え考え、言葉を紡いだ。
「
……
去年、夏休みに、
……
実験で、学校に入れられて。その後一ヶ月、バイトで
……
ニューヨークに
……
」
「うーん、パワーワードの連続でちょっとよくわからないわ」
風音は申し訳なさから眉を寄せて謝罪したが、ここにもし歴代桜翻訳係の三人が居れば「大丈夫だ、自分たちもこれが何言ってるかちょっとよくわかんないから」と風音をフォローしていただろうことは間違いなかった。
「
……
ボディーガードのアルバイトをしてるの?」
桜は首肯した。風音は重ねて質問を続けた。
「学校って事は、何か勉強しなきゃいけないのね? 資格とか?」
桜が頷く。
「そういう資格を得られる学校はいくつもあるの?」
桜は首を傾げた。
「たぶん、ない」
「実験って言ってたけど、これはどういう意味? その学校に通ったらどうなるかっていう実験ってこと? 例えば、どれだけ優秀なボディーガードになれるか、みたいな」
桜は拍手した。風音は「ちゃんと自分の言葉で説明しなさい」と桜を叱りつけた。
「しかもそれすっごく危ない事でしょ。文字通り生死と隣り合わせよね。なんで一言もお兄さんに相談しなかったの?」
「止めるから」
「そりゃ止めるわよ、危険だもの」
桜は首を傾げた。「どうしてそこで首を傾げるのよ」風音はほとんど叫んでいた。
「
……
お師匠が、大丈夫って言ったから。死にはせんだろう、と」
「
……
」
風音は頭痛がした気がして、思わず眉間を手で押さえた。
死にはしないだろうから危険地帯に飛び込むという、その危機管理の基準を問い質したい。いやもうもはや手遅れな気がしないでもないが、それでもこれは問題だ。いつか四肢のどこかを欠損した状態で「久しぶり」だなんて言われたら、風音はどう反応すればいいか分からなかった。
「なめてんのかと、怒ったら。銃には勝てんだろと、キレられた」
「そりゃキレるわよ」
「飛行機に乗ってほしくないだけなんだ。それで両親が死んだから」
あまりにもあっさりと告げられて、風音は絶句した。
両親が、死んでいた。ならばなおさら、兄を大切にしなさい、言う事を聞いてあげなさいと、喉から叫び声が飛び出そうだ。けれども風音の口は、はくりと呼吸の為に動いただけだった。
「確率的に、事故に遭うには毎日十時間のフライトをしなきゃならないのに」
「そういう話じゃないわよ」
桜が斜め方向の理論をぶちかましてきたからだった。風音は心の底から桜の兄に同情した。こんなわかりにくい妹、普通に会話を成り立たせることすら難しい。
「いい、桜、聞いて。あなたのお兄さんは、あなたの事が心配なのよ。だから知らない間に危険な事に手を出されて、驚いて、気が気じゃないの」
「やっぱり、弱いこども扱いか」
「あなたの事は強いって皆知ってる。でも人間はどれだけ強くったって死ぬのよ」
「
……
」
桜は口を噤んだ。
「防弾コートとか、先回りして手を打つとか、いろいろ方法はあるでしょうけど、どんなことにも不測の事態は発生する。あなたを危険な目に遭わせるためにお師匠さんのところで修行するのを許したわけじゃないでしょう」
桜の眉間には深い皺が刻まれている。
「将来、ボディーガードで食べていくつもりなの?」
風音の静かな問いに、「分からない」桜は素直に答えた。
「だからと言って、兄に従いたくはない、
……
いまさら、」
桜の唇は震えていた。口をまっすぐに引き結んで、その後の言葉を桜はなかなか紡がなかった。少しづつ呼吸が乱れていく。風音は桜の肩を抱いた。
「
………………
いまさら、
……
あにきづらしやがって」
桜は奥歯を強く噛み締めた。風音は桜を力を込めて抱き寄せた。これが正解なのかは分からなかったが、どうしようもなく桜が頼りなく見えたのだ。
風音は桜と彼女の兄が実際どういう関係なのかなどは知らない。六合は、以前同じアパートに住んでいたはずだから多少知ってはいるだろう。けれども風音は六合からそのようなことは一度も聞いたことがなかったし、教えてもらっていない。それ故に二人の関係を推し量ることもできない。
ただ、桜がこれ以上ないほど傷ついて、疲弊していることぐらいは分かる。
ひとりでも平気そうな顔をしていて、どこにでも行けるような飄々とした雰囲気を持ち合わせていながら、本当はこんなにも脆い。兄と衝突したくらいで、こんな風になってしまうぐらいには。
人間らしい、可愛いところもあるのだと、風音はどこか安堵した。
「ねえ、桜」
風音は静かに口を開いた。
「私ね。今、あなたに偉そうに言ったけど。でも、本当は、こんなこと言う資格なんて無いの。私だって、両親の反対を押し切って、一人で暮らしてるんだもの」
身内に心配かけさせ通しなのは、まったく同じね、と風音は微笑んだ。桜は黙って風音の言葉に耳を傾けていた。
「結局、何しても心配ばかりよ。安心して手元から離す事なんてできやしないんだわ。そういう生き物なのよ。兄さんを許してあげて」
「
……
」
許してあげて。
風音の言葉が反響する。
おこらせているのは、わたしなのに。
桜は風音の肩に頭を預けた。風音は仕方が無いわねと言わんばかりに桜の頭を撫でてやった。
「でも、ねぇ、私だって心配よ。あなたはまだ分からないって言ってたけど、
……
本当にそれがしたいことなら、覚悟を示さないと」
どこかで聞いたような言葉だ。桜はそれまで閉じていた瞼を開いた。懐かしさに、少しだけ桜の目が細くなる。
「それに、あなたがここまで好きに生きてこれたのはお兄さんのおかげでもあるんだから。ちょっとくらい兄孝行しなさい」
「
…………
」
「一度は日本で就職するとか
……
別に世界中どこでもいいけど、危険の無い職業に就いてみなさいよ。もしかしたらあなたにぴったりなのがあるかもしれないでしょ?」
桜は風音に擦り寄った。甘えるような仕草に、風音は擽ったいわと身をよじらせた。
風音の指が髪を梳く。それがとても心地よい。
六合には申し訳ないが、今だけは、もうしばらくこのままでいさせてほしい。何せ桜は生まれてこの方、初めて、心底疲れ切ってしまった。
「
……
こんな、ことなら」
「ん?」
「
……
兄妹喧嘩くらい、しておくんだった」
その声があんまりにも弱々しかったものだから、風音はうっかり吹き出した。む、と桜は口を尖らせる。声を上げて笑いながら、風音は「そうね」と頷いた。
「そうね、ちょっとだけでもするべきだったわね。でも、これからでも、充分間に合うわよ。だってまだ二十代だもの、私達」
「
……
」
桜はふと息を呑んで瞬くと、風音から離れるように体を起こした。
「桜?」
「
……
でも、いつか、死ぬ」
桜の瞳は揺れていた。
きっと、様々なことが桜の脳裏に浮かんでは消えているのだろう。それは桜が今まで得てきた言葉かもしれないし、目の当たりにした光景かもしれないし、培ってきた感情かもしれないし、あるいはその全てかもしれなかった。風音には推し量ることしかできなかったが、きっともう大丈夫だと、これだけは確信を持てた。
「
……
今のうちに、喧嘩しとく」
「そうしなさい。愚痴ならいつでも聞いてあげる」
「ありがとう」
「どういたしまして」
それじゃあ、と立ち上がる桜の顔はどこか晴れやかだった。講義、飛んで良かったと肩を竦めて、踵を返す。その足取りも軽やかで、風音はそれだけでも胸を撫で下ろした。
「怪我させたりしちゃだめよ!」
講義にちゃんと参加しろと言うか物を壊すなと言おうかどちらか迷って、結局風音はそう声を張り上げた。ひらりと手を振った桜の姿は、建物の陰に消えていった。
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